未来の海を制するのは「タコ」かもしれない:研究結果

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海洋の酸性化や乱獲により、海の生態系への影響が懸念されている。だが過去61年間の漁業データから、タコやイカなどの頭足類は世界的に数が増えていることがわかった。

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大気中に放出された二酸化炭素の多くが海洋に溶け込んだ結果として、海洋の酸性化が進んでいる(日本語版記事)。そして、酸性化は多くの海洋生物に悪影響を与えると懸念されているが、過去60年の間に、タコやイカなどの頭足類の数は着実に増加していることがわかった。

海洋酸性化が進むと、プランクトンや貝類、甲殻類の殻・骨格から主成分の炭酸カルシウムが溶け出して成長しにくくなり、これらを餌とする魚類も減る恐れがあると考えられている。実際、ヒトデなどには海洋酸性化が悪影響があることがわかっている。そのいっぽうで、触手(触腕)をもつ海底の生き物たちは繁栄しているのだ。

『カレントバイオロジー』誌に5月23日付けで掲載された論文には、多くの海洋生物学者が参加するグループが、この傾向を発見した経緯が述べられている。彼らは、主な海洋すべてにおける過去61年間の漁業データをもとに、混獲、すなわち目的の獲物と一緒に誤って捕獲された頭足類の数を調査した。その数をもとにして分析したところ、あらゆる種類の頭足類が、ここ数十年の間に着々と増えていることがわかったという。

なぜこんなことが起きているのだろうか? 論文要約には、「生態学にとっても漁業にとっても重要な無脊椎生物である頭足類は、変化する海洋環境をうまく利用してきたのかもしれない」と、書かれている。

頭足類は、環境に素早く適応する能力を備えている。例えば、タコは道具の使い方を覚えたり(日本語版記事)迷路を解いたりするほど賢く、研究所の水槽から大胆に脱走する事例も多い(文末のギャラリーでも、「瓶の蓋をあけるタコ」を紹介している)。また、海底で見せる見事な擬態も、彼らの適応力のひとつだ。

いっぽうで、現在の海洋生態系にはさまざまな問題が報告されている。サンゴ礁の白化現象が悪化している(日本語版記事)ほか、漁業の乱獲により多くの漁場が崩壊する可能性があるという予測もある(日本語版記事)。

もしかしたら頭足類は、大量の海洋生物が絶滅しても生き残る種のひとつになるかもしれない。近未来の海洋生態系を支配するのは、触手をもつ彼らかもしれないのだ。

SLIDE SHOW

1/9マダコ。Image: Beckmannjan/Wikimedia Commons

2/9ヒョウモンダコ。周囲の岩や海藻にカモフラージュするが、刺激を受けると青い輪や線の模様のある明るい黄色に変化する。Image: Wikimedia Commons

3/9アオリイカ。Image: Nhobgood/Wikimedia Commons
頭足類は、色素胞の活性をランダムに制御して体色を変化させることができる。アメリカオオアカイカは、色素胞を使って体色を濃赤紫から白まで急速に変えることができ、体全体の色を変えるのに0.15秒しかかからない。体全体の色を変えるほか、ヒレや腕の一部だけ色を変えたり、腕に複雑なパターンを描いたりすることもでき、個体間のコミュニケーションに用いていると考えられている。

4/9交接する2匹のヒョウモンダコ。Image: Roy Caldwell
「頭足類のオスはみな、精子の入った精包をメスの体内に送り込むための腕(交接腕)を持っている。ムラサキダコ(通称コロモダコ)のオス等の場合は、腕そのものを切り離してメスの体内に入れる」そのほか、キタノヤツデイカなど一部のイカは、性別を問わず、他のどんな個体とでも交接する。深海に棲んでいて相手がよく見えないからだ。

5/9モントレー湾に生息するアメリカオオアカイカ。Image: Zeidberg et al./PNAS
アメリカオオアカイカは、水深約200mから700mに生息する。寿命は1年から2年だが、外套長1.75m、体重50kgにまで成長する。約1,200個体で群れを作り、漏斗とひれを使って最高時速24km程度で泳ぐことができる。

6/9深海に生息する頭足類のコウモリダコは、英語では吸血鬼イカ(Vampire squid)と呼ばれてきたが、実際にはプランクトンや甲殻類の死骸や糞を餌とする。脅威に直面すると、8本の腕を被膜ごと裏返して体を包み込む。トゲのような触毛が外側に並ぶことになるため、捕食者を追い払う役に立つとも考えられている。Image: Kim Reisenbichler / Monterey Bay Aquarium Research Institute

7/9瓶の蓋をあけるタコ。Image: Matthias Kabel/Wikimedia Commons
「水族館のタコは、深夜に隣へ出かけていって非常によくできた鍵やラチェットを外し、おやつを食べてしまうことで有名だ」と、シカゴにあるシェッド水族館のブログは述べている

8/9ワールドカップ決勝戦で、スペインがオランダに勝つと予言した時のパウルの様子。Image: Voice of America News/Wikimedia Commons
タコの『パウル』は、2010年FIFAワールドカップにおいて、決勝戦も含め8回連続で勝つチームを正しく予想(日本語版記事)した。悲しいことに2010年10月、パウルは2歳半で世を去った。

9/9ミズダコ。Image: Magnus Manske/Wikimedia Commons
寒い海にすむタコは、カリウムチャネルというタンパク質をカスタマイズすることができる。カリウムチャネルとは、カリウムイオンを選択的に通過させ、神経系に電気信号が伝わるようにするイオンチャネルの一種だ。低温になるほどチャネルの閉じる速度が遅くなり、神経細胞の再発火が妨げられて、最終的には生物の活動が停止してしまう。極地の海にすむタコでは、このカリウムチャネルのアミノ酸を変化させることで、温暖な海のタコなら動けなくなってしまうような温度下でも、神経系の活動が維持できるようになっている。※写真のミズダコは寒海性のタコ。タコ類の最大種で、体長は脚を拡げると3-5m、体重も10-50kgにもなり、最大記録では体長9.1m、体重272kg。成体はサメも死亡させるほど強力とされる。北海道・東北では、マダコの代わりに各種タコ料理として利用されている。

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