78周のモナコGPが終わると、コースを取り囲むハーバーに停泊する無数のクルーザーが一斉に警笛を鳴らす――。伝統の一戦を戦い抜いたドライバーたちに、敬意を表するためだ。

 しかし、マクラーレン・ホンダのドライバーたちは、5位と9位というダブル入賞を果たしたにもかかわらず、華やかなモナコには不釣り合いなほど厳しい表情をしていた。

「5位という結果が得られたのはよかったよ。でも、レース週末全体を見渡せば、僕らの速さは十分じゃなかった。モナコは特殊なサーキットなんだ。だから、この結果からマシン性能がどうとかいうのを深読みしすぎないほうがいいと思う」

 フェルナンド・アロンソがそう語れば、ピットアウトしたところにマノーのマシンがいて抑え込まれ、ポジションアップのチャンスをみすみす逃してしまったジェンソン・バトンは、さらに厳しい言葉で続けた。

「パフォーマンスや戦略という点では厳しかった。もし、ドライのレースだったら、簡単に2台入賞はできなかっただろう。今回のポイントというのは、僕らがコンペティティブ(競争力がある状態)だから得られたものではなく、戦略上の判断をうまくやり、最後までノートラブルで走り切ったから得られたものなんだ。ドライでの本来のペースは、そんなによくなかった。カナダGPでも2台揃ってこれ以上のポジションでポイントが獲れるとは思っていないよ」

 ドライバーたちがこれほどまでに厳しい言葉を発したのは、モナコGPに寄せる期待が大きかったからだ。

 スロットル全開率が40%にも満たないモナコでは、パワー不足の影響が出にくい。マシン性能が優れていれば、あとはドライバーの頑張り次第で上位に浮上することもできるのだ。事実、レッドブルは予選でポールポジションを獲り、決勝でもピットストップでミスがなければ優勝していたはずだった。

 だから、「車体性能では、メルセデスAMGとレッドブルに次いで3番目」と公言してきたマクラーレン・ホンダのモナコGPに寄せる期待は大きかった。

 しかし、木曜日に走り始めてみれば、圧倒的にグリップが不足し、両ドライバーともにマシンのコントロールに手を焼いた。コースサイドで走りを見ていても、ガードレールに囲まれた小さなコーナーをスムーズに切り返していくレッドブルやメルセデスAMGとは違って、マクラーレン・ホンダのマシンはフロントの向きが変わらなかったり、リアが暴れたりと、その差は歴然としていた。

 1日オフとなる金曜日に「イチからセットアップをやり直した」というが、それでも症状は大きく改善はせず、予選ではマックス・フェルスタッペンがクラッシュしたことで、なんとかアロンソ1台がQ3に駒を進めることができた程度だった。

 なによりショックだったのは、トロロッソにも、フォースインディアにも、完敗を喫したことだった。

「これでもうハッキリしましたよね。フォースインディアはクルマがすごくよいということだと思います。(同じパワーユニットを搭載する)ウイリアムズと比べてもよいということですから、彼らがすごくいい仕事をしているということが今日はっきりしましたよね。トロロッソもフォースインディアも速いですよ。マクラーレンのエンジニアとも話したんですが、彼も『そこは認めざるを得ないね』と言っていました」

 ホンダの長谷川祐介F1総責任者は、このモナコでの不発で、マクラーレン側にも変化が見えてきたのを感じ取ったようだ。

 車体側の不備はあまり認めたがらないマクラーレンだが、このモナコでは不振をパワー不足のせいにするわけにもいかない。その点についても、マクラーレンのエンジニアたちは認めざるを得なかったようだ。

「今回はチーム側もちょっとセットアップの方向性をミスしたかな、ということは認めていました。車体そのものが悪いかどうか、というのは認めないんですけど(苦笑)、クルマの性能をすべて引き出せていなかったという言い方ですね」

 それでも、マクラーレンの首脳陣は強気の姿勢を崩そうとはしなかった。

 予選後、「この結果を見ても、まだ3番目のシャシーだと言えるのか?」と尋ねられたエリック・ブリエ(スポーティング・ディレクター)は、自説を曲げずに主張し、失笑を買った。

「いい質問だ。データやGPS(による運動性能分析)を見れば、そうだということがわかる。今週はタイヤの性能を引き出すのに苦労し、ドライバーたちが限界までプッシュするのを妨げているんだ」

 前回のスペインGPでバトンのみが使った新型フロントウイングは、今回は2台ともに用意された。たしかに、データ上では発生させられるダウンフォースの量も、空力効率も向上しているのだろう。

 しかし、それを使いこなせなければ、意味がない。

 長谷川総責任者は、ブリエが依然としてそう主張しているのを聞いて苦笑いしつつ、そこが問題なのだと言う。

「たしかにエレメントごとの性能、フロントウイングのダウンフォース量など、個々に目を向ければ確実に進歩はしています。それ自体がフォースインディアに大きく負けているとは思わないんですけど、どうしてそれをうまくまとめられないのかというところで......」 

 具体的に言えば、モナコの場合はタイヤのウォームアップに苦労した。フロントタイヤが先に温まってしまい、まずはオーバーステア。しばらくして、リアが温まってきたころにはフロントのピークが過ぎていてアンダーステアに落ち着くという、グリップの"美味しい時期"がない前後バランスになってしまっていた。

「もう少しサスペンションを柔らかくすべきだった」

 あるエンジニアは長谷川にそう漏らしたという。つまり、空力性能を優先するがために脚回りを硬くしすぎ、メカニカルグリップを犠牲にしすぎたのだ。ピレリのエンジニアは、「作動温度領域が高いソフトタイヤならいざ知らず、低めのウルトラソフトとスーパーソフトではその温度領域に入れることなど、それほど難しくはないはずだ」と語っている。メカニカル面をきちんと機能させていれば、タイヤの扱いにもそれほど苦労することはなかったのではないかと考えられる。

「お互いに批判し合うようなこういうことはあんまり言いたくないんですが、レース週末へのアプローチの仕方がね......。ウチのパワーユニットも開幕戦では性能を出し切れていなかったのが、ようやく出し切れるところまできたわけで、そういう意味では車体のほうがそういうところ(の伸びしろ)が大きいのかもしれません」

 決勝は、雨からドライへと変わる混乱のなかでポジションを上げることに成功した。しかし、レース最終盤、5位を走るアロンソの後方には首位集団が迫ってきた。周回遅れにされるかもしれないという無線を受けると、アロンソは言った。

「耐えなきゃいけない時間が1周少なくなるから、それはラッキーだ!」

 ずっとニコ・ロズベルグ以下3台の集団を後方に抑え込みながら50周近くを耐えたアロンソは、そのくらい厳しい走りを強いられていたのだ。だからこそ、今のMP4-31が3番目のシャシーでないことなど、誰よりもよくわかっていた。

「8位とか9位でコンスタントにポイントを獲っていけると思うけど、まだ十分じゃないし、僕らが望んでいる場所にはほど遠いんだ。メルセデスAMGはおろか、フェラーリを捕まえるのだってそう簡単ではないし、レッドブルを見ればわかるように、表彰台を争うためにはまだ大きなステップが必要だ」

 ドライバーたちは、雨の混乱によって得たダブル入賞という見た目にだまされてはいない。期待を寄せていたモナコだからこそ、はっきりと突きつけられた現実――。チーム全体がそれと向き合うべき時を迎えている。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki