誰がユベントスを止められるか――2015〜2016のセリエAの一番の注目点はまさにそこだった。

 セリエAのこれまでの優勝チームのデータを眺めていると、ある一定の法則があることに気づく。ユベントス、もしくはミラン、インテルといったビッグチームの一つが数年間勝利を続けたあとに、単発でその他のチームが優勝し、また次の強豪チームの連覇が始まる。

 昨季までユベントスは4年連続優勝を果たしていた。チームが長く勝ち続けると心身の両面で疲弊はまぬがれない。そろそろ一つのサイクルが終わるのではないか――そう考える者も少なくなかった。その予兆は開幕前からあった、これまでのユベントスの圧倒的な強さを支えてきたアンドレア・ピルロ、アルトゥーロ・ビダル、カルロス・テベスといったそうそうたる選手たちが、一挙にチームを離れたのである。

 実際に開幕してからのユベントスはこれまでのシーズンとは明らかに違っていた。いきなり初戦、2戦目を落とし、やっと白星をあげたのは第4節。常勝チームにはありえないスタートであった。中心選手が抜けた穴は大きく、それを埋めるべく新たに獲得した選手たちは不調。食いつないできた前任監督アントニオ・コンテの遺産もついには尽き、誰もがもうユベントスの連覇はないと確信した。

 そう、本来ならば確かにユベントス時代は終わっていただろう。10節でトップから12ポイントの差がついてしまっていれば、それを巻き返すのは、まず不可能に近い。これまでユベントスをどうしても越えられなかったライバルチームたちに、スクデットを手にする大きなチャンスが与えられたわけだ。

 しかし――ライバルたちは誰もそのスキにつけ込むことはできなかった。

 アンチ・ユベントスとして今シーズン一番期待されていたのはローマだった。ローマは昨年、一昨年と常に2位につけている。ロマニスタは熱いことで有名だが、2年のお預けを食ったあとの「今年こそは」という思いはとても強かった。しかし強すぎるがゆえに、結果が出ているときはいいが、少しでも失敗すると痛烈な批判を浴びることになる。

 その期待とプレッシャーが監督のリュディ・ガルシアを追い詰めてしまった。チーム幹部からも見捨てられ、ついには解任。相変わらずの内部のごたごたは、確実にチームの力を削ぎ落としていった。ただ、後任が、ローマという特殊なチームを知っているルチアーノ・スパレッティだったことは幸運だった。おかげで、ユベントスには追いつけなかったものの、大きく順位を下げることもなかった。

 ユベントスを一番苦しめたのは2位となったナポリだった。今シーズンよりベンチを任されたマウリツィオ・サッリ監督にビッグチームを率いた経験はなく、開幕当初は懐疑的な声も多く聞かれた。しかし選手の特色を生かしたチーム作りをし、特にゴールゲッター、ゴンサロ・イグアインを本能のおもむくままプレーさせ、35試合で36ゴールというすばらしい結果を出させた。

 しかしナポリの弱点は、ここ一番という大事な試合を落とす癖だった。特に勝ち点差を広げるチャンスである上位チームとの直接対決に弱く、シーズン終盤のローマ戦で敗れてしまったことが、ユベントスにスクデットを贈る結果となった。

 さて、本来ならばユベントスの連覇を食い止めなければいけない最先鋒のミラノの2チームだが、こちらは相変わらずの不調が続く。

 ロベルト・マンチーニ監督の構想のもとでチーム作りをしたインテルは、赤字覚悟で11人もの選手を獲得した。シーズン前半インテルは首位を走り、一時期はスクデットも期待された。インテルがとったのは、対戦相手に自分たちのサッカーをさせない戦法だった。敵を無得点に抑え、どこかでゴールチャンスを得て勝利する。そのためインテルのスコアは軒並み1−0が続き、「ウノ・ア・ゼロ(1−0)」は今シーズンのインテルの代名詞ともなった。

 しかしこれは効率的ではあるが、一歩間違うと危険な戦い方だった。いくら相手を無得点に抑えても、攻撃がうまくいかなければ勝つことはできないし、守備で失敗すれば敗れてしまう。実際年末になると取りこぼしが目立つようになってくる。

 そこでマンチーニは攻撃力の強化に出たが、そのために今度は攻守のバランスが崩れてしまった。シーズン前半はどこよりも首位である期間が長かったのに、後半には見る影もなく自滅。4位となりどうにかヨーロッパリーグ出場権は手に入れたものの、その実力には見合わない結果となってしまった。

 どのチームよりもがっかりさせられたのは、やはりミランだろう。財政難のミランはここ数年レンタルや移籍金0の選手ばかりを集めてきたが、チームの株譲渡を視野に入れて、今シーズンは久々に9000万ユーロ(約120億円)もの資金を補強に投入した。監督も新人などではなく、昨シーズンまでサンプドリアで実績をあげてきたシニシャ・ミハイロビッチとあって、期待が持てた。

 だが、結果的には目標であるチャンピオンズリーグ出場権どころか、確実と思われていたヨーロッパリーグ出場権まで逃してしまった。

 選手補強の失敗、選手のメンタリティーの問題。その原因は数々あるが、元凶はテクニカル面にまで口を出すオーナー、シルビオ・ベルルスコーニの存在だろう。自分の好むシステムに固執し、監督が気に入らないとクビを切る。おかげでチームのどこもかしこも混乱をきたし、ミランのシーズンはまたも失敗に終わった。

 ライバルたちがそれぞれの問題で手を焼いている間に、ユベントスは見事、復活した。開幕当初はビッグチームでのプレーに戸惑っていたFWパウロ・ディバラもチームに馴染んで活躍。シーズン後半には圧倒的な強さを取り戻し、10チーム以上をごぼう抜きにして優勝を果たした。

 ユベントスにあって他のチームになかったもの。財力、組織力、運営手腕など多々あるが、中でも重要な役割を果たしたのは人材だろう。第10節のサッスオーロ戦に敗れたあと、ユベントスのロッカールームではジャンルイジ・ブッフォンを中心とするベテラン選手たちがチームメイトに向かって喝を入れた。

「俺たちはユベントスだ! これ以上ぶざまな姿は見せられない」

 そしてこのどん底の日を再スタートの日に一転させたのである。ブッフォンたちのような誇りとやる気を起こさせる核となる選手を、多くのチームは欠いている。この夏、他のチームがよほど大きな覚悟をもってチーム改革に乗り出さない限り、しばらくはユベントス一強時代が続きそうだ。

利根川晶子●文 text by Tonegawa Akiko