「ベスト4だったり、決勝に行ける可能性は感じていたので、やっぱりもったいないというか、悔しいですね」

 錦織圭は敗戦の悔しさに表情をこわばらせながら、言葉少なに語った。確かに現在の錦織のテニスは、高いレベルにあるのは間違いないが、グランドスラムの第2週で勝ち続けるためには、あるものが決定的に欠けていた......。

 ローランギャロス(全仏)4回戦で、第5シードの錦織(ATPランキング6位、5月23日付、以下同)は、第9シードのリシャール・ガスケ(12位、フランス)に4−6、2−6、6−4、2−6で敗れ、2年連続のベスト8はならなかった。

 2人の対戦成績は、錦織の2勝6敗。前哨戦のマスターズ1000・マドリード大会で、錦織がガスケから初勝利し、続くマスターズ1000・ローマ大会でも勝って、レッドクレーで2連勝していた。だが、両者がグランドスラムで戦うのは初めてだった。

 プレーが始まる前から、全仏のセンターコートであるフィリップ・シャトリエコートは「リシャールコール」が飛び交い、錦織は完全アウェー状態での戦いを強いられた。

 第1セット第3ゲームで、錦織はいきなりサービスブレークをされたが、第4ゲームをすぐにブレークバック。第6ゲームも錦織がブレークして4−2とし、錦織サービスの第7ゲームデュースの場面で、雨が強くなり試合は中断された。

 選手ロッカーに戻ったガスケは、1993年と94年のローランギャロス優勝者であるセルジ・ブルゲラコーチから叱咤激励され、立ち直るきっかけをつかむことになる。

 約1時間後に試合は再開されたが、ここが両者のターニングポイントになり、錦織は、ストロークミス2本で第7ゲームをいきなりブレークされてしまう。

 降雨によって、レッドクレーが水分を多く含んで球脚は遅くなり、さらに水分を吸収したボールも重くなり、錦織は「フィーリングが合わない日でした」とミスを連発した。

 一方、ガスケはマドリードとローマでストロークが浅く入って、錦織に攻撃された反省を踏まえて戦ってきた。

「錦織は大きな武器を持っているから、(ボールを)とにかく深く、そして速くプレーする必要があった」(ガスケ)

 バックハンドが得意のガスケは、バッククロスの打ち合いに持ち込もうとし、バックサイドで主導権を握ろうとした。たぐいまれなテニスセンスを持ち合わせるガスケは、ツアー屈指のシングルバックハンドストロークの名手で、隙あれば、テニスコートのどこからでもリターンやパッシングショットのウィナーを狙ってくる。

 錦織がガスケに連敗していた時は、バッククロスの中速の深いラリーに付き合いすぎて、ポイントを奪われたことが多かった。今回もガスケの勝ちパターンを嫌って、錦織がバックハンドのダウンザラインで展開しようとしたが、ことごとくミスになった。

「第1セットを取ったのが、とても重要だった」と語るガスケは、第3セットを錦織に奪われたものの、パリっ子の応援に後押しされながら、最後まで試合の流れを手離さなかった。

「自分の調子が悪かったのが一番の原因。少し焦ってしまって、ミスもすごく多かった」

 錦織がそう振り返ったように、得意のリターンでもミスが多く、ガスケのファーストサーブに対するリターンのポイント獲得率は28%。セカンドサーブに対するポイント獲得率は35%で、リターンを攻撃の起点にできなかった。結局、ガスケがミスを19本に抑えたのに比べ、錦織はミスを45本も犯した。

 29歳のガスケは、13回目のローランギャロスで初のベスト8入りを果たした。地元フランスで負けられない気迫を前面に出し、あまり見せたことのない鬼気迫る表情で、錦織と対峙した。

 昨年の全仏準々決勝で、錦織がジョーウィルフリード・ツォンガ(7位)に負けたときもそうだったが、今回のガスケのように勝負への執念を見せてくる相手に対して、錦織はそれを跳ね返すのが得意ではない。

 ランキングは客観的な事実で、強さのバロメーターのひとつではあるが、6位の錦織が12位のガスケに勝つ保証などどこにもない。ましてやグランドスラムでは、他のツアー大会と違って、ガスケのように多くの選手が目の色を変えて戦ってくる。その中で自分のプライドをかけた執念こそが、最終的に勝利を引き寄せることができ、グランドスラム第2週での困難な戦いを勝ち上がって、優勝へ辿り着く原動力となるのだ。

 グランドスラムの深淵に触れたような戦いを経験できたことは、錦織にとってプラスになるだろうが、問題は今回の敗戦から、彼が何を学ぶか、だ。

 単なるテニスのテクニックやフィジカルだけの問題ではない。26歳の錦織がグランドスラムでの勝利への執念を身につけることができなければ、厚い壁は破れない。それができなければ、前哨戦のマドリードやローマでいい成績を挙げつつ、グランドスラム第2週に入ってもテニスのクオリティーを上げていくノバク・ジョコビッチ(1位)やアンディ・マリー(2位)の背中はますます遠くなっていく。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi