ソニー創業者の井深大氏 AP/AFLO

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 海外企業による買収が相次ぎ、苦境が露わになった日の丸家電。総合電機メーカー各社は今、創業者が築いた理念や歴史とどう向き合うかが問われている。ビジネス書として異例のヒットとなった『ストーリーとしての競争戦略』の著者、楠木建・一橋大学大学院教授がその処方箋を提示する。

 楠木氏は事業を本気やるために分社化をして逃げ場がない状態を作ることも検討しては、と言う。それだからこそダイソンやダイキン工業は現在好調で、「分社化もできず『とりあえずつくる』くらいなら、潔く撤退するべきです」と提案する。さらにその続きを同氏が語った。

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 私はよく、家電メーカーの役員に「やめればいい」と言うのですが、そうすると「いや、創業者の理念が……」と返されます。創業ストーリーを不調の言い訳に使うのはいかがなものでしょうか。パナソニックの松下幸之助、ソニーの井深大、盛田昭夫といった創業者たちは「不採算事業を継続せよ」とは言っていないはずです。今のこの状況を見れば、きっと「やめなはれ」と言うでしょう。

 もちろん、創業者の理念や経営哲学は受け継がれて、そこで働く人にとっての無形の資産として息づいていることに間違いはないでしょう。

 しかし、創業ストーリーを守るなら、消費者に少し多くお金を払っても長く使えるものを売る、という方向に生かすべきです。

 日本だけではありません。歴史は冷徹に繰り返されます。かつては産業革命を起こしたイギリスが新興国のアメリカに追い越され、1970年代にはアメリカの家電メーカーを日本企業が駆逐した。今度は日本メーカーが低コストの新興国に追いまくられる。成熟市場にはそれに見合った戦略が必要というだけの話です。

 そもそも企画力や造る力には類まれなものがあるし、生活者の心のひだをうまく捉えるのが日の丸家電の特長です。自動車メーカーにできることが、家電メーカーにできない理由はない。私は期待しています。

●くすのき・けん/1964年東京都生まれ。1992年、一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授などを経て、2010年より現職。主な著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社刊)、『戦略読書日記』(プレジデント社刊)、『好きなようにしてください たった一つの「仕事」の原則』(ダイヤモンド社刊)などがある。

※SAPIO2016年6月号