二十歳(はたち)の石川祐希にとっては、これも試練である。最後は中央からのバックアタックを、中国の2mのブロックにシャットアウトされた。

 崩れ落ちた191cmの石川は顔をゆがめ、右こぶしでコートをたたく素振りをした。試合終了。手痛い、アジアのライバルからのストレート負けである。

 記者と交わるミックスゾーン。聞かなくてもわかっている。悔しいに決まっている。でも、聞いた。最後の瞬間の気持ちは?

 いつも通りの落ち着いた口調で石川は漏らした。ただ、手元の丸めたバスタオルを何度もぎゅぎゅっと握りしめていた。

「それは負けたという気持ちでした。最後にシャット(相手ブロック)を食らったので、そこが一番悔いが残るというか。最後まで決めるという風にしていかないといけないなと思います」

 リオデジャネイロ五輪の出場権を争うバレーボール男子の世界最終予選(東京体育館)。日本は中国に0−3のストレート負けを喫し、1勝1敗となった。今後の対戦相手を考えると、早くも"崖っぷち"である。

 初戦のベネズエラにはなんとか勝利をものにした。でも、初めての五輪最終予選だからか、若手エースの石川にもめずらしく力みが感じられた。南部正司監督には、「自分らしさ」が少し消えていると映った。だから、この日の試合前の練習のとき、指揮官は石川に「自分らしさを出しなさい」と声をかけたそうだ。南部監督が説明する。

「彼はまだ、チームで最年少じゃないですか。あんまり"すべてパーフェクトにやらないといけない"なんて思ったらダメなんですよ。相手が強くなればなるほど、楽しんでバレーをやればいい。それをもう1回、思い出してほしいと思ったんです」

 そうは言っても、知らず知らずのうちに五輪切符をかけた戦いの重みをどこかに感じていたのかもしれない。相手ディフェンスを崩しにかかる強烈なジャンプサーブでは、どうしても厳しいところを狙いにいく。イチかバチか。第1セット、石川は3本のサーブをすべて失敗した。

 ついでにいえば、もうひとりの若手スパイカーの柳田将洋もジャンプサーブを3本、ミスした。南部監督がボソッと漏らした。「これだけ(2人のサーブが)入らなかったのは、今までないですね」と。

 確かに中国は高さがあった。先発ではセッター以外は5人、2m台を並べてきた。だが日本の先発には2mはひとりもいない。高さを警戒するあまり、これだけ、サーブミスが続けば、チームはリズムに乗れない。逆に相手は緩めのジャンプフローターサーブで石川らレシーバーの前に落としてきた。サーブを確実に入れて、ブロックで仕留めようとしてきたのである。

 ブロック得点は、日本のわずか3点に対し、中国には14点を献上した。サーブミスは中国の6本に対して、日本は16本を数えた。うち相手の20点台になってからの日本のサーブミスは計5本もあった。

 石川は第2セットから、ミスを避けるため、軽めのサーブも絡ませていった。持ち前の攻めの気持ちは薄れていた。石川らしいサービスエースは1本だけに終わり、ひとりで5本のサーブミスを犯した。こうなると、どうしてもスパイクに影響がでる。バックアタックを効果的に使いながらも、スパイク得点は13点にとどまった。

 石川は言った。

「自分たちのサーブが機能しなかった。ミスだったり、シャット(相手ブロック)だったりという部分で点をとられたので、相手にやりやすいバレーをさせてしまった。いつも通りという風に意識してやったんですけど」

 昨年のW杯での活躍後、石川、柳田はその清らかなルックスも相まって注目を集めてきた。雑誌の特集号が次々と組まれ、この大会の前売り券も完売している。どんなに人気があっても、石川はうぬぼれも気負いもなく、浮かれることはない。

 ただW杯と違って、今大会は相手チームからはきっちり分析されてきた。マークもきつくなる。さらに昨年末からは古傷の左ひざが悪化し、2カ月間ほどジャンプを控えていた。「ひざはもう大丈夫」と強気だが、十分な練習ができなかったことがプレーに微妙な影響を与えているかもしれない。

 もちろん、才能は文句なし、である。柔らかく、年齢に不似合いな落ち着きがあり、それでいて度胸を備えている。「修正能力」も磨かれている。初めての五輪をかけた最終予選にあっても、特に緊張する素振りは見せなかったのだが。

 石川は、「自分は自分らしくやっていけたらいいなと思います」と言った。

 では、「自分らしさとは?」と聞けば、若きエースは戸惑い、こう答えた。

「自分のペースでやることです」

 自分のペースとは、失敗を恐れず、思い切りサーブを打ち、来たボールをしっかり打ち切ることか。南部監督の言葉を借りれば、伸び伸びと、大舞台を楽しんでやることなのである。石川が大事にしている言葉のひとつが「チャレンジ」。

 試合後の記者会見。石川はこう言い切った。左ひざにはアイスパックが薄茶色のテープで巻かれていた。

「まだ(試合は)あるので、忘れてというか、切り替えて、あさって(31日)から臨めればいいのかなと思います」

 繰り返すけれど、まだ二十歳である。若き才能の爆発と、いつものガッツポーズとスマイルが見たい。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu