大坂なおみが18歳で経験したパリ・ローランギャロスでの出来事は、これから長く続く彼女のプロテニスプレーヤーとしてのキャリアと輝くような未来に、必ずいい影響をもたらすだろう――。

 大坂(WTAランキング101位、5月23日付け、以下同)は、1月のオーストラリアンオープン(全豪)で予選を勝ち上がって、グランドスラムデビューをすでに果たしているが、2016年ローランギャロス(全仏)では、本戦ストレートイン(予選免除で本戦から出場)をして初出場を成し遂げた。

「ローランギャロスでプレーするのは初めてですけど、できるだけリラックスして、楽しもうとしました」と大会前に語った大坂。1回戦で第32シードのエレナ・オスタペンコ(36位、ラトビア)を、6−4、7−5で破り、いきなり初勝利を手にした。続く2回戦では、34歳のベテランであるミルヤナ・ルチッチ バローニ(52位、クロアチア)に、6−3、6−3で勝利。日本女子で、全仏3回戦に進んだのは、2007年大会の杉山愛以来で、さらに、18歳での全仏3回戦進出は、1991年大会でベスト16に進出した沢松奈生子以来の快挙となった。

 大坂はフロリダ在住で、アメリカに多くあるグリーンクレーコートでプレーしたことはあったが、ヨーロッパにあるレッドクレーコートでのプレーは今回の全仏を含めて2回目。

「(レッドクレーは)まったく異なるものでした。遅い! ハードコート、プリーズ!」と嘆いたものの試合の中で対応していき、得意のサーブに頼り過ぎず、ストロークをしっかり組み立て、ラリー戦でも優位に立って2勝を挙げた。

 フェドカップ日本代表監督の土橋登志久氏は、大坂の進化に目を見張った。

「全豪から一段とレベルが上がって成長できている。以前に比べてプレーがていねいになっているが、パワーが落ちているわけではなくて、バランスがよくなっている」

 3回戦では、2014年全仏準優勝者であり、第6シードのシモナ・ハレプ(6位、ルーマニア)への挑戦権を獲得した。試合は、全仏で2番目に大きいスザンヌ・ランランコートで行なわれ、「あのようなスタジアムでプレーしたことがなかったので、試合前はナーバスになった」と大坂は吐露したものの、プレーが始まると、すぐに落ち着きを取り戻した。

 第1セットでは、ハレプが4−2から大坂に4ゲーム連取を許し、大坂が第1セットを先取。1セットでミスを11本犯したハレプは、「4ゲーム連取で失って、あのとき自分のテンションをコントロールするのが難しかった」と振り返ったように、大坂のサーブに脅威を覚えた。

「ファーストサーブで、ときには時速190kmだったり、150kmだったり、予測するのが難しかった」

 第2セット以降は、ハレプが早い展開を心がけ、大坂を動かすと同時に彼女の時間を奪ってパワーを封じ、ミスを誘った。

「自分を奮い立たせようとし、彼女のやってくることを恐れないようにした。でも、たくさんのミスをし過ぎた。(ハレプは)安定していたし、私より経験豊富だ」と語った大坂は、試合終盤に入るとナーバスになり始めてミスも増え、結局4−6、6−2、6−3の逆転負けを喫した。

 ハレプは「すごい才能を持っている」と大坂を称えたが、初めてのトップ10プレーヤーとの対戦で、大坂はウィナーを26本決めたものの、ミスを38本犯した。セカンドサーブのポイント獲得率は32%にとどまり、自分の持ち味を出せなかった。それでも、初めての全仏で、18歳ながら大坂が残したベスト32は立派な成績だ。

「正直に言えば、全豪で3回戦に進出したので、今大会では、さらにいい成績を残したいと思っていました。でも、クレー(土のコート)は自分にとってベストサーフェスではないことはわかっていました。(ここで)自分は、世界のベストプレーヤーの一人としてプレーし、何とかハレプを少しでも追い詰めようとしました。全豪3回戦よりいいプレーができたし、今回の経験から学んでいきたい。(負けたけど)終わってみるとハッピーです」

 今回の全仏は、大坂が1カ月半前から新たに指導を受けているアントニオ・ヴァン グリチェンコーチと初めて臨んだグランドスラムだった。彼は2005年から16歳のビクトリア・アザレンカを指導して、5年間一緒にツアーを回り、彼女をジュニアからプロへ導き、世界のトッププレーヤーに育て上げた実績を持つポルトガル人コーチだ。大坂の全仏での結果を次のように評価している。

「初めてともいえるレッドクレーで、彼女はできる限りのプレーをしました。初めてのパリで、彼女は学ぼうとしていました。ハレプ戦での第1セットはよかったです。とてもポジティブな大会になりました。まだ若いですし、今成長の過程にいます」

 さらに、大坂とは今後の目標について話し合って決めていきたいと語り、当面の目標として、トップ100にとどまり、堅実なプレーをすることを課題に挙げる。

「彼女はトップ選手を倒すことができる武器を持っています。サーブ、スピード、パワー。加えて、安定したプレーができるようになるための技術が必要です。今はポイントを取るために、より安定したプレーに取り組んでいます。そして、トップ選手に必ず追いつけるし、そういう選手を倒せると、彼女が自分自身をもっと信じる必要があります」

 大坂がヴァン グリチェンコーチとどのような化学反応を示すのか見守りたいが、それにしても大坂は大舞台に強い。今回の全仏だけでなく、全豪、グランスラム次ぐグレードのマイアミオープンでもベスト32に入った。テニスで18歳といえば、ジュニアを卒業する年で、一般のプロ大会では、なかなか結果が残せない若い選手が多いものだ。それを踏まえると、大坂の好成績は驚異的だ。

 次のターゲットは6月下旬に開幕するウインブルドンで、初めて本戦を戦う大坂への期待は自然と高まる。

 大坂はローランギャロスでの実り多き経験を経て、一戦一戦確実に強くなっていく。

「みんなグラス(天然芝)ではいいプレーができるはずだと言うの」

 大坂の時速200kmに迫るサーブが、グラスコートで決まれば、彼女に大きなアドバンテージをもたらすのは間違いない。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi