晴れ晴れとした表情でウィナーズジャケットを羽織るスピース(撮影:GettyImages)

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コロニアルCCで開催されたディーン&デルーカ招待の最終日。首位を走りながらも表情を緩めないジョーダン・スピースが心配だった。

22歳にして、すでにメジャー2勝を挙げた世界ナンバー2の実力者。22歳までに7勝をマークしたのはタイガー・ウッズと並ぶ史上2位だそうだが、そんな記録はさておき、このところ報われないことばかりが続いていたスピースが今日こそ報われるかどうかは、もしかしたら彼の今後に大きな影響を与える分岐点になるかもしれない。そう思えたからこそ、彼の戦いぶりが心配だった。
メジャーチャンプになり、駆け足でスターダムを昇ったにも関わらず、心に強いダメージを受け、不調に陥って転落していった例は多々ある。失恋、惜敗、家庭の問題。世界の頂点からシード外へ消えていったデビッド・デュバルは、その代表例だった。
今年4月のマスターズで2連覇に迫りながら最終日の12番で「7」を叩き、勝利を逃したスピースの心の痛手は大きかった。
「立ち直るまでには、かなり時間がかかる」
1か月のオフを経て挑んだプレーヤーズ選手権は予選落ち。先週のバイロン・ネルソン選手権では優勝に迫りながら、またしても最終日に崩れて18位まで転落。ずっと続いていた最終日の苦悩になかなかピリオドを打つことができなかった。
地元テキサス州で勝利を挙げ、故郷に錦を飾ることはスピースの長年の夢だった。地元なら神経に障害を持つ妹も両親も昔から応援してくれている友人知人たちも観戦に来やすい。みんなに雄姿を見せたいと願いながら、昨年もぎりぎり果たせず、今年も惜敗が続いたことはスピースの悔しさを倍増させていた。
報われないことが続いていた日々。もちろん、そんな日々はツアープレーヤーの誰もが味わうものではある。だが、頂点に上り詰めた者が味わう大きな栄誉や達成感は、ともすれば大きな恐怖や失望感へ変わりかねない。22歳の若さが加われば、なおさらだ。そう思えば思うほど、今度こそは勝って自信を取り戻してほしいと願わずにはいられなかった。
コロニアルCCに詰め寄せ、熱いエールを送り続けていた人々は我が街のヒーローの輝く笑顔を待ち望んでいたのだろう。上がり3ホールの3連続バーディはスピースと観衆の想いが一体化したことで生み出された快進撃のようにさえ感じられた。
14番で見事にパーを拾ったときも、16番で長いバーディパットを沈めて単独首位に躍り出たときも、スピースはずっと険しい表情だった。しかし17番でグリーン奥からのチップショットがカップに沈んだとき、とうとう見せた素直な笑顔に胸を撫で下ろしたファンは多かったはずだ。
「今日の勝因はアイアンショットが冴えたこと。とりわけプレッシャーを感じていた16、17、18番のショットは手ごたえ抜群だった。でも17番は幸運に恵まれた」
マスターズ惜敗後、バッグを担ぐマイケル・グレラーはスピースにこう声をかけた。「優勝は勝者の人柄を表す。敗北は敗者のすべてを表す」
負けたときこそ、しっかり大地を踏みしめ、崩れないよう、揺るがないよう、頑張らなければいけない。「雑音には耳を傾けるなとマイケルが何度も励ましてくれた。テキサスでは何度も勝ちかけては負けてきたけど、やっと勝つことができた。これで正しい軌道に戻れたように思う」
心に受けた大きな痛手は、勝利をつかむたび、達成感を味わうたびに徐々に癒えていくことだろう。スピースには仲間や味方がたくさんいる。そんな彼らのために勝利を目指したスピースが地元テキサスで初めて挙げた勝利は今季2勝目、通算8勝目になった。
グリーンジャケットは逃したけれど、ベン・ホーガンのお膝元で羽織ったタータンチェックのジャケットの着心地はいかに?
「とんでもなくグレートだよ」スピースらしい笑顔が戻ってきた。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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