夢は何を指し示すのか?

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 いったい夢とは何からできているのか? 繰り返して夢を見るのは、何らかの意味があるのか? 最新の研究報告を紹介する。

 「人間50年下天の内をくらぶれば夢幻の如くなり。ひとたび生を享け滅せぬもののあるべきか」(人間世界は一瞬の夢のようなもの。命あるものはすべて空しく滅びてしまうものだ)と言ったのは織田信長。

 1582年6月21日(天正10年6月2日)、午前4時。洛中は寝静まっている。「ウォ〜!」。やがて軍勢3000余兵の鬨(とき)の声が静寂を打ち破る。本能寺に真っ赤な火の手が上がる。信長の天下布武の夢を無残に打ち砕いた明智光秀の謀反。

 信長の嘆息も夢も炎に燃え尽きて434年。草葉の陰で天下統一の夢を貪り続けている信長。夢のまた夢に終わった無念の光秀。骨太い武将の悔しげな眼光が4つ、濡れ光っているように見える。

なぜ同じ夢を繰り返して見るのか?

 信長や光秀のように叶わぬ夢もあれば、眠って見る夢もある。夢(dream)はラテン語のsomnus(ソムヌス/眠り)、somnium(ソムニウム/睡眠夢)に由来する。

 さて、同じ夢を繰り返して見ることはないだろうか?

 夢や睡眠の研究でも知られる神奈川大学人間科学部大学院人間科学研究科の杉山崇教授によれば、人間の深層心理は、周囲に自分を脅かす存在がないかを見張るセンサーの役割を果たしている。

 したがって、繰り返して夢を見るのは、脅威やリスクを避けるために深層心理が「気をつけて!」と警告を発しているからに他ならないという。

 だが、日々の仕事や家事に忙殺されるあまり、警告を感知できなかったり、無視したりし続けると、深層心理は意識が集中していない睡眠中に何度も「気をつけて!」と必死に働きかけてくる。

 たとえば、何かに吸い込まれて落ちる夢なら、深層心理が社会的にどんどん落ちぶれていくリスクを感じているときに見やすい。何かに追いかけられて逃げ続ける夢なら、深層心理が何かに追い立てられるリスクを感じているときに見るかもしれない。

 このような同じ夢を繰り返して見るとき、深層心理は自分を脅かすリスクがないかを絶えず見張りながら、受け入れたくないリスクも敏感にキャッチし、命に関わる絶体絶命のリスクから逃がしてくれる。

 これが夢のリスクマネジメント説、夢の逃避教唆説の根拠だ。深層心理の警告に対して、謙虚に心を傾け、ストレスと上手に付き合う工夫が大切だろう。
夢は何でできているのか?

 2015年8月12日に発行されたオンライン学際的ジャーナル『Nature Communications』によれば、長年にわたって夢と神経科学の関わりを探索してきたイスラエルテルアビブ大学のユヴァル・ニール博士らの研究チームは、夢の最大難問のひとつである「What dreams are made of ?(夢は何でできているのか?)」の解明に一歩近づいた。

 ニール博士らの研究チームによれば、レム(急速眼球運動)睡眠中のヒトの眼球の動きは、覚醒時に情景を見ている時の眼球の動きとよく似ていることから、レム睡眠から醒めた多くの被験者が夢の視覚イメージを鮮明に報告できる根拠になっている。

 研究チームが9人の被験者の脳の活動記録を詳細に分析した結果、患者が睡眠時と覚醒時や、視覚刺激を受けた場面でレム(急速眼球運動)を起こした時に、長期記憶を司る脳の内側側頭葉のニューロンが急速・過敏に応答している事実を突き止めた。

 つまり、レム睡眠のときは、脳の内側側頭葉のニューロンが記憶している視覚イメージを見ていることになる。夢の中で見ているのは、ニューロンの瞬きや閃きと言い換えてもいいだろう。

 これまで、なぜレム睡眠が睡眠中の視覚情報処理を反映するのかは謎だった。だが、この画期的な研究は、「夢は何でできているのか?」を解き明かす大きなヒントになるのは確かだ。

 信長の天下布武の夢は砕け散った。光秀の胸に燃えたぎった無謀な夢も潰えた。天下を盗る同床異夢に耽っていた二人の男。そのニューロンは、どんな色に瞬いていたのだろう?
(文=編集部)