NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
5月22日放送 第20回「前兆」 演出:渡辺哲也


おこうと寧が大活躍


例えば、毎回、勝手にこの回のMVPみたいな役、及び俳優を選ぼうかと考えたが・・・
選べない! 45分の中で、次から次へと登場人物の見せ場があって、ひとりになんて絞れない!
茶々(竹内結子)が秀吉(小日向文世)の子を身ごもったことに端を発する秀吉の恐怖政治を描く20回「前兆」の序盤では、真田信幸(大泉洋)と離縁されてしまう、おこう(長野里美)が輝いていた。
病弱なうえ、言動がどこかずれている彼女は初出の頃から見逃せないキャラではあったが、ここまで育つとは驚きだ。離縁を切り出された時の「かしこまりました」と、離縁後、まさかのある場面での「かしこまりました」の可笑しさよ。
とは言うものの、飛び道具よりも正当派も捨てがたい。後半、寧(鈴木京香)が一気に追い上げた。
秀吉の正室としてのプライドをもって、あくまでもでん! と構え続け、秀吉を叱ってみせる姿は頼もしい。でも実は、奥に秘めた気持ちもありそうな感じに見せている(秀吉ご乱心がなんとか解決しそうになった時の横顔)ところで、いっそう心惹かれた。
19回の茶々に続き、20回も女の回で、MVPはおこうと寧のどちらかかと思ったが、もうひとりいた、気になる人が。
「わきまえよ」と信幸に言われてしまう佐助(藤井隆)か。こうに対する昌幸(草刈正雄)のあんまりな仕打ちに抗おうとするなんてすばらしいと思うが、残念ながら彼ではない。
では、変装して娘・稲(吉田羊)の嫁入りを見守っている本多忠勝(藤岡弘、)か。その設定のため20回ではほとんど背中ばかりで顔が映らない。にもかかわらず、ちゃんと自分で演じているマメさに捨てがたい魅力を感じたが、彼でもない。
ほのぼのした雰囲気と、後に彼がたどる悲運の衝撃がでかい、門番役の本多力(京都の劇団ヨーロッパ企画所属)でもない。
尾藤道休(横田栄司)だ。

布団にくるまった姿に刀不在の絶望を見た


茶々懐妊によって起った聚楽第の落書き事件に大きく関わる道休。
聚楽第の門に中傷を落書きされて激怒した秀吉が、その時の門番17人を処刑。それだけでは済まず、門番達の家の者たちにまで責任をとらせようとする。あまりの理不尽な行いに、信繁(堺雅人)が機転を利かせて事件を丸く収めようとする。その時、尾藤道休が役に立つ。
三谷幸喜脚本は史実にやや創作を加え、落書きした犯人を探す推理劇仕立てで見せる。
「真田信繁の事件簿」とばかりに信繁も活躍目覚ましい。それでも、20回のMVPはやっぱり尾藤道休。彼はわずか数分しか出番がないし、そのほとんどが暗がりで布団にくるまって、顔しか出していない。逆に、そのみの虫のように手足を布団の中に隠している姿から、秀吉の政策・刀狩りにあって「生きててもなんの役にも立たない男」になってしまった悲哀が色濃く伝わってきた。
やりきれなさ、心身ともに弱っていること、おまけに酒浸りのダメ男らしいところなどを顔と声だけで存分に表現したのは「文学座」の横田栄司。文学座というと、日本の劇団の老舗。家康役の内野聖陽もかつて在籍していた。また、今後、大野治長役で登場する今井朋彦も文学座の座員だ。頼もしい先輩たちをもつ横田は、最近だと、ばい菌の扮装をして子役の寺田心と共演しているCMがおなじみ。蜷川幸雄の舞台に多く出演し、シェイクスピア劇なども多くやっているから、台詞をしっかり見る者に届けることができるのだ。横田の舞台俳優としての姿は、6月8日から上演される新国立劇場「あわれ彼女は娼婦」を見ることができる。
秀吉が天下統一することで、武士が戦で勝ち残っていく時代は終わりかかっている。それについて、18回で信幸が「生まれてきたのが遅かった」というような意味のことをぼやいていたこともあり、「真田丸」においては核たる部分だろう。それを、今一度、この道休の存在で描いた。ここに演技派・横田を配したのは大正解だ。秀吉の元、武士たちは皆、みの虫みたいに手も足も出ない状態になっている、というのがシニカルに描かれていたということで、20回の勝手にMVPは横田栄司の道休としたい。

結局のところ20回のMVPは


ついでにちょっと気になったのが、石田三成(山本耕史)の妻女。演じているのは吉本菜穂子。彼女の出身劇団「チャリT」企画の源流は、早稲田大学の歴史あるサークルで、かの今村昌平監督も所属していた「早稲田大学演劇研究会」。堺雅人も、同じくこの演劇研究会を源流とする「東京オレンジ」の劇団員だった(現在は名誉団員になっているようだ)。吉本が堺と並ぶシーンは、吉本は中退しているとはいえ、先輩後輩共演という感じ。
演劇研究会と言えば、おこう役の長野里美もここの出身。ここでの活動が鴻上尚史率いる「第三舞台」の看板女優として実を結んだ。
あくまでマニアックな視点で言えば、20回は、堺雅人をはじめとして早稲田大学演劇研究会の遺伝子がきらり光る回だった。
こうして振り返ると、一応、勝手に20回のMVPを決めたものの、やっぱり「真田丸」はみごとなまでに群像劇で、役の大小にかかわらず誰もの生がつぶさに描かれている。
落書き事件の収束のさせ方も、三谷が解釈した犯人像(すてきな裁き方だったと思う)は群像劇にふさわしいものだった。
とすると、勝手に20回のMVPは、落書き事件の犯人としたほうが適切なのかもしれない。

20回の気になる台詞


繰り返しがいっぱい。
主に信幸が「おいおいおいおいおい」「無理だ無理だ無理だ無理だ」と同じ言葉を重ねる現代口語体のような台詞が印象的だったが、最後に秀吉までが生まれた子供を「お捨、お捨・・・」と繰り返しで呼んでいた。
(木俣冬)