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『行け!稲中卓球部』『ヒミズ』などの作品で人気の古谷実氏の伝説的コミック『ヒメアノ〜ル』がついに映画化! 恋の悩みや将来への不安を抱えた若者のありふれた日常が、連続殺人事件に巻き込まれていく様と殺人犯の深層を描いた衝撃作です。

森田剛さん演じる殺人犯、森田に翻弄される平凡な男、岡田進役の濱田岳さんと、殺人犯に狙われる岡田の彼女、ユカ役の佐津川愛美さんにお話をうかがいました。

――平凡な日常が殺人犯によって変えられていく衝撃的な映画ですが、完成した作品をご覧になって、いかがでしたか?

濱田岳さん(以下、濱田) 僕は今までこういう作品に出たことがなかったので、どんな映画が完成するんだろうという期待をずっと持ちながら撮影していました。結果的にとても満足のいく作品になったと思っています。出演者みんなが個性的なんですけど、演技はものすごく自然だったので、劇場を出たら突然誰かに刺されるんじゃないかと恐怖を覚えるくらいリアリティーのある作品に仕上がっていて、とてもいい映画に出演させていただいたと思いました。

佐津川愛美さん(以下、佐津川)
 私は吉田恵輔監督とずっとご一緒してみたかったので、今回出演させていただけることになり、うれしくて、現場に入るのを楽しみにしていました。ユカは複数の男性から思いを寄せられる役なので、撮影前にはダイエットをして痩せてから臨みました。

――減量されてから臨まれたんですね!

佐津川 ちょっとですけど、ダイエットしました。裸になるシーンもあるのでキレイに見えるようにと。あまり細くなりすぎてもキレイではないので、かわいく見える体のラインはどのくらいかなとか探りながら減量もして。姿勢に気を付けたり、整体に通ったりもしました。

――作品を拝見して、すごくリアルな映画だなと思いました。おふたりのキャラクターやカップル間でのやりとりも男性のほうがちょっと情けないところがあったりして。リアリティーのあるセリフがたくさんありました。ご自身ではどのように演じられたのでしょうか?

濱田 岡田のキャラクターについては、登場のシーンで全部説明しているんです。「僕には夢も希望もない。どうしたらいいのか分からない」といった、今の若者の代表のようなことを最初に言っているので、岡田に関しては、個性はいらないというか、無色透明な感じに演じようと思いました。共演者の方々は僕とは逆で個性的なんですけど、とても自然に演じられていると思いました。

安藤さん(ムロツヨシ)も突飛な人ですけど、警察に通報するレベルではなく、本当にいそうな人ですし。ユカちゃんも、男目線から見ると、男の夢の集合体みたいな女の子じゃないですか? 僕は男子校だったので、中高生のときは、かわいい子から言い寄られて告白されるという妄想をしていましたし(笑) 一見ウブな感じに見える子から手ほどきをされるという願ったり叶ったりな状況は、男なら夢見たことがあると思います。


――確かに、ユカちゃんは一見、ウブな女の子に見えるので、私も驚きました。


濱田 中高生男子の夢を一身に背負っているようなキャラクターですよね。ユカちゃんとのベッドシーンを撮影したあと、ムロくんから「お前、さては童貞だな? あれはリアルすぎるだろう」という嬉しい褒め言葉をいただいて、よかったなと思いました。ああいう撮影は抵抗もありますし、緊張で指先とかキンキンに冷えてましたけど何でもないふうに演じていました(笑) 出来上がった映像はさすが監督だなと思うシーンになっていて、みんなが満足のいくものになりました!



ユカは監督の理想の女の子

――ユカのキャラクターについてはいかがですか?

佐津川 ユカちゃんは監督から「とにかくかわいく」と何百回も言われて、常にかわいく、を意識して演じました。監督の「かわいい女の子」への理想がすごく細かくあって、手の動きひとつでもこっちのほうがかわいい、とか全部教えてくださったので、私はそれを一生懸命に真似しました。そのおかげで、試写で見た男性の方たちから「理想の女の子だった」と言っていただけて、嬉しかったです。監督の女の子の理想がユカちゃんなんですよね。

ユカちゃんは行動を見ると、肉食女子なんですけど、たぶん本人はそう思ってやっていないんです。ふつうに生きてきて、ふつうに恋愛してきたことが、岡田くんにとっては「経験人数が多い」ということになってしまって。岡田くんにとってはそれが傷つくことだから、わざとではない素直な感じで、岡田くんを好きであることを表現していかなければと思っていました。でも撮影が始まると、余計なことはあまり考えずに、単純に今の恋愛を楽しもうという感覚になれました。完成した映画を見て、そのやりかたがうまくいったんじゃないかと思いました。作品を見た女性たちからは「ユカは小悪魔!」と言われましたけど、男性は小悪魔だとは思わないみたいで、男性と女性の目線ってやっぱり違うんですよね。

濱田 いいんだよ、だまされても。美女にだまされるのはいいの(笑)

佐津川 え? それは「小悪魔だな」って思いながらだまされてるってこと?

濱田
 そうだよ。「お前、小悪魔だねぇ」って思いながら(笑) それが楽しいの。

佐津川 そうかぁ。そういう男子と女子のリアルみたいなものも描かれているので面白いですよ(笑)

濱田 あのユカちゃんのキャラクターを佐津川さんがピュアに演じてくれたから成立したんだと思う。ユカちゃんが打算的なずるい女の子に見えないというか。

佐津川 たぶん女子目線で見ると「あざとい」になっちゃうかもしれないですよ。

――ユカちゃんは一見、清楚(せいそ) に見えるから余計かもしれないですね。

佐津川 そうですね。ユカちゃんの服装に関しても、監督の中で「こういう服装の子は経験人数が多い」と言っていたんですけど、全くわからなかったです(笑) でも出来上がった作品を見ると、確かに、と思えるので、監督はものすごく人間を見ているなと思いました。



――今お話していたような平和なシーンから、おふたりは森田剛さん演じる殺人鬼の標的になっていくわけですけど、命を狙われる恐怖の演技というのはやってみていかがでしたか? 殺人鬼とは言っても、岡田にとっては高校の同級生で知り合いなので複雑な関係性ですよね。

濱田 撮影はほぼ順撮り(※ストーリーに沿って順番通りに撮っていく方法)だったので、中盤で森田と居酒屋でふたりっきりで飲むシーンはものすごい気持ちが悪かったです。あのかみあわない言葉のキャッチボールは、さすが森田さんだなと思うお芝居だったんですけど、あれで本当に森田のことを気持ち悪いなと感じることができました。後半は森田さんとの緊迫したシーンが多かったので、空いた時間に森田さんに「ああいう(人を殺すような)シーンばかり撮っていて、気がめいったりしませんか?」って軽く聞いたんです。そしたら、映画の森田のトーンで「そりゃあ、めいりますよ」って言われて。「あ、しまった。軽口すぎた」って怖くなりました(笑)

それから、後半の佐津川さんが森田に襲われるシーンは、役だとわかっていてもひとりの人間としてかなりショックな光景だったんですけど、森田さんはじめ出演者のみなさんがリアルなお芝居をしていたからこそ、勝手に自分も役に入り込んだお芝居をすることができたんだなと思います。まわりの方々に自然と盛り立ていただいたという感じが強いですね。

――佐津川さんはその襲われるシーンはいかがでしたか?

佐津川 ユカちゃんは森田が「ちょっとストーカーっぽいです」と相談はしていても、実際そこまでヤバイとは思っていなかったと思うんです。ちょっと気持ち悪いなぐらいで本当に襲われるとは思っていなくて、まあ大丈夫だろうと思ってふつうに生活をしています。そこがすごくリアルだなと思いました。私はけっこうビビリなほうですけど、誰かにいきなり襲われるかもしれないと思って生きていないですよね。だから、森田に襲われるシーンは「なんで私、今こんなことになっているんだろう」っていう気持ちになって理解できずにいました。濱田さん演じる岡田くんが来てくれたときは、岡田くんが来てくれたという嬉しさよりも、「誰でもいいから助けてほしい」という気持ちになったのがとても印象的でした。



ふだんの佐津川さんは天真らんまん!

――お互い共演された印象はいかがですか?

濱田 ユカちゃんと過ごした日々は嘘みたいな日々でしたよ(笑) お芝居なのに、セリフのやりとりのひとつひとつに自然と嬉しくなってしまっていました。佐津川さんにはナチュラルな色気があるので、本当にはまり役だったと思います。それに何よりも監督のウキウキ具合が本当にすごかったんですよ(笑) 監督の理想をある種、押しつけたようなキャラクターなので、それを具現化した佐津川さんは相当大変だったと思います。その努力のかいあって、男たちはメロメロですよね(笑)

――ふだんの佐津川さんはユカちゃんとは違うんでしょうか?

濱田 ああいう天使ちゃんではないかもしれないですね(笑) 一度、ムロくんと3人で飲みに行ったんですけど、おじさん2人はすごく楽しかったですけどね。佐津川さんは天真らんまんという言葉がぴったりな方だと思います。

――佐津川さんの濱田さんの印象はいかがですか?

佐津川 私は憧れの監督とご一緒できることもあって、撮影前からすごくがんばらなきゃ、って意気込んで、プレッシャーも感じていたんですけど、濱田さんとムロさんが初日からとてもゆるい空気でいてくれたので、いい意味で「意気込みすぎる必要ないな」とリラックスすることができました。天真らんまんと言ってくださいましたけど、私はしゃべれる方がいない現場だとずっと黙っているタイプなので、濱田さんとムロさんがそんな風にいさせてくれたんだと思います。

役と違って、私は濱田さんやムロさんから人生のいいところをたくさん教えていただきました。



――ユカちゃんは岡田くんに一目ぼれしますが、ご自身では岡田くんのようなタイプの男の子はいかがですか?

佐津川 私は一目ぼれをしたことがないので、うらやましいなと思いましたが、岡田くんを好きになるという時点で、すごい子だなとも思いました。リードしてもらえることはないでしょうし、ユカちゃんはそういうところがかわいいと思って好きになっているので、そこは私とは違うなと思いました。物語の全体を通して見ると、岡田くんはすごくかわいくて魅力的なんですけど、出会ってすぐにそこを見抜けるユカちゃんはすごいなと思います。

――岡田は「本人は意識していないところで他人からの恨みを買ってしまった」ことから、森田にねらわれることになりますが、岡田本人は悪いとは思っていても、まさか殺されるほどのこととは思っていないですよね。そのあたりのテーマもすごくリアリティーのある映画だなと思いました。

濱田 日常で誰にでも起こり得ることですよね。あやめるところまではいかなくても、日常生活で人とかかわる中で、ちょっとした後悔やざんげの気持ちは誰もが持っているものだと思います。この映画はそういう部分でも胸の痛いところを突いてくる作品だと思います。


――森田の気持ちは理解できましたか? 殺人鬼ではありますが、過去に原因があったり、岡田との中学のときの楽しかった思い出を忘れていない、せつない面もありますよね。


濱田 森田と岡田は同じスタートラインに立っているんです。どちらも嫌なことは全部世の中のせいにしているんです。僕は森田の気持ちは理解できるというところまではいかなかったですけど、自分にも森田に対する負い目があるので、怖いなとは思いました。見てくださったお客さんも、何か一瞬考えるところがあるのかもしれないですよね。

――佐津川さんはいかがですか?

佐津川 私はちょっとのこともすごくネガティブに考えてしまうタイプなんですけど、正直、森田くんが何でこうなってしまったのかという原因はわからないなと思ったんです。高校のときのいじめはきっかけかもしれないけど、そのせいでここまでの人物になってしまうというのは、私にはわからないなと思いました。でも岡田くんにしてみれば「俺のせいでこうなってしまった」という気持ちがあって。果たしてそうだったのかはわからなかったですけど、最後のシーンはものすごくせつなかったです。人間ってわからないなと思いました。

ユカちゃんが森田くんにストーカーされてしまったのも、じゃああのときに目を合わせなければよかったのかなとか、私はそういうふうに考えてしまうんですけど、そうとも限らないですし、結局、人のことはわからないんですよね。

――「あのときこうすれば」と思っても果たしてそうだったのかは、わからないですよね。

佐津川 そうなんです。結局、自分がどうしたいのかとか、自分のことすらもわからないのに、人のことなんてもっとわからないです。ふだん生活をしていても、子どものときはもっと単純に人間関係を作れていたのに、大人になるにつれて、人と接することが難しくなってくるところもあるんじゃないかと思うんですけど、だからといってどうすればいいのかという答えは出てこないんです。今回、そういう人との接し方みたいなことも考えて、しんみりしたりもしました。子どものころはもっと単純にハッピーだったはずなのになとか、人間関係のことについても考えさせられる作品でした。

――物語のテーマもひとつではなくて、たくさんのことを考えさせられるリアリティーのある映画ですよね。ごらんになる方々もいろんな感情を受け取れるんじゃないでしょうか。ありがとうございました!





『ヒメアノ〜ル』公式サイト

映画の役柄そのままにとても仲が良いおふたり。スクリーンでも息の合った演技を見せてくれます。残酷描写だけではない、人と人との深いかかわりを描いた映画です。見終わったあとは日常が変わって見えるかもしれません。

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“モテ女子の定義”もこの映画で学べますよ!
それでは、また。

(撮影/杉 映貴子、取材・文/Mikity)