女性誌『Suits WOMAN』で注目を集めた「貧困女子」。これは普通の毎日を送っていたのに、気がつけば“貧困”と言われる状態になってしまった女性たちの体験談。

今回お話を伺ったのは・今井直子さん(仮名・34歳)。神道系の名門大学を卒業し、旅行代理店に就職するも、過労とストレスによるうつを発症し2年で退社。神奈川県川崎市にある、家賃4万円の木造アパートに住みながら、倉庫運営会社の契約社員として働いています。業務内容は在庫管理で、勤続6年といいます。平均以上の水準の大学を卒業しながら、それを生かせていないのはなぜでしょうか。

「学歴コンプレックスがあった両親が大学だけはどうしても行けというので、一浪して入りました。でも留年してしまったので、大学を卒業したら24歳になっていました。旅行が好きだったので、父親の紹介で鉄道系の旅行代理店に入りましたが、土日は絶対に仕事が入るし、生活は不規則だし、お客さんは怖いし、上司は厳しいし……結局2年で辞表を出しました。このときまでずっと実家に住んでいて、兄からは“甘ったれ”と怒られているから、見返してやろうと思ったのですが、ムリでした」

実家パラサイトを脱出したきっかけとは……?

直子さんは6年ほど前まで、よくいる“実家寄生娘”でした。専業主婦の母親が身の回りの世話をしてくれて、毎月10万円近くのお小遣いをもらい、一緒に銀座や横浜の百貨店、ショッピングセンターに買物に出かけて好きなモノを買ってもらっていたとか。しかしそんな生活も、彼女が会社を辞めた翌年に破綻。会社を経営していた父親が急死し、2億円近い借金がのしかかってきたそう。何とか挽回しようとお兄さんは奮闘するも、事業を持ち直すことができなかったといいます。

「母は自宅が銀行の手に渡った時に、肺炎をこじらせて亡くなりました。体調が弱っていた時に、肺にウイルスが入り、あっという間でしたよ。思えば幸せな人生ですよね。私は父親が50歳、母親が39歳のときの子供なのです。事業の借金については、父は亡くなる前から、“俺が死んだらヤバい”と言っていたので、私も母も相続放棄をしました。しかし10歳年上の兄は、高卒で父の会社に入って頑張ってきていた熱い男だから、借金ごと父の会社を相続しました。でもまさか億単位の借金だとは思っていなかったようです。従業員もあれだけ仲間意識が強かったのに、会社の借金が明るみに出るにつれ、夜逃げ同然でいなくなるし、兄の奥さんは2人の娘を連れて実家に帰るし、踏んだり蹴ったり。兄は自殺も考えたようですが自己破産をして、今は知り合いが経営する都内の建築関連会社に勤務しています」

直子さんの仕事や収入について伺うと「在庫管理の仕事は、1日座っているだけでラクでいいんですけれど、手取りの給料は月15万円。好景気なのは大企業だけ、中小企業は給料をカットされるなど、かなり厳しい状況が続いています」と回答が。新卒から就職していた旅行会社の正社員としての2年間、実家への寄生ゆえに給料をほとんど使っていないと言うし、手取りの給料が15万円なのだから、貧困状態にならないのではないでしょうか。また、直子さんの容姿は普通レベル。体型はやや太めですが、今っぽいメイクをすれば映える顔立ちをしています。それなのに日当たりの悪い木造アパートで、うどんやパスタを中心とした切り詰めた生活をしている。節約について伺うと「生理ナプキン代を節約するために、会社のトイレや、会社の飲み会で行く居酒屋から失敬することもあるんです」という。

その個数を聞くと、10個、20個という単位だし、喫茶店のおしぼり、コーヒーショップの砂糖、商業施設のトイレットペーパーや紙タオル、試供品、高速バスのブランケット、それは“失敬”ではなく“盗み”に近いのではないかという疑念が頭をもたげます。

そこまでして、お金に切迫しているその理由を伺いました。

「付き合って1年になる彼が難病なんです。だから、その治療費のために、毎月5〜6万円渡しています」

私が直子さんの交際相手の病名を聞くと、よくわからないといいます。お金を援助したくなるほど愛する人が難病になったら、病名を知り食事や生活の中で注意すべきことなどを、調べたくなるものではないのでしょうか?

「何回か病名を聞いたのですが、長い病名なので忘れてしまいました。手がしびれるとか、頭がくらくらするとか、そういう症状がある難病みたいです。ウチに遊びに来てご飯を食べるのですが(このときは、牛肉やチーズなど高価な食材を惜しげもなく使う)、ときどき呼吸がおかしくなるみたいですし、元気がなくなることがあります。心配でたまらなくなります」

彼と出会ったきっかけを聞くと、会社の飲み会で行ったチェーン系のでナンパされたと言います。

「お酒があまり強くないので、トイレの前で休んでいたら、彼が声をかけてきてくれたんです。お水とガムをくれて、LINEで連絡先を交換しました。それからすぐに誘いがきて、その日のうちに難病を告白されました。私のことを信じてくれているんだなと思って、すごくうれしかったです」

一杯の水が彼と直子さんを結び付けた。

 

結果的に直子さんは、難病の彼にいくら援助したのか?〜その2〜に続きます。