初代韓国統監・伊藤博文を暗殺した朝鮮の独立運動家・安重根は、韓国で「義士」とされる一方で、日本では「テロリスト」。両国の歴史をめぐる対立の溝は深い。写真は中国・ハルビン駅構内にある安重根記念館。

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2016年5月27日、韓国のテレビ番組でこのほど、初代韓国統監・伊藤博文を暗殺した朝鮮の独立運動家・安重根(アン・ジュングン)の名前を答えられなかった女性タレントが、非難の嵐にさらされた。安重根は韓国では「義士」でも、日本では「テロリスト」。歴史問題で対立する隣国と、どう向き合っていくか。日韓両国の間に横たわる溝は深い。

安重根は1909年(明治42年)10月26日、旧満州(中国東北部)の哈爾濱(ハルピン)駅で伊藤博文を銃撃して殺害した。身柄は日本に引き渡され、裁判を経て翌年3月26日、死刑になった。この年、韓国は日本に併合された。

韓国では「義士」としてたたえられ、ソウル市の南山(ナムサン)公園には「安重根義士記念館」がある。韓国の歴史授業には必ず登場する独立運動の英雄だ。2013年7月のサッカー東アジア杯の日韓戦では、ソウルのスタジアムのスタンドの1階から2階まで届く巨大な肖像画が掲げられ、物議を醸した。

韓国メディアによると、安重根を知らなかったのは、韓国の人気ガールズグループ「AOA」のメンバー2人。AOAは12年に韓国デビュー、14年には日本でもデビューを果たした8人組アイドルユニットだ。

今月3日に放送されたテレビ番組の歴史クイズコーナーで、「各国の偉人の顔からその名前を当てる」ゲームに挑戦した2人は、安重根の写真の前で悩み始めた。1人は「豊臣秀吉」と口走った後、スマートフォンで検索して正解にたどり着いたが、もう1人は「伊藤博文」のヒントをもらっても分からなかった。

2人には、メディアやネットユーザーから非難が殺到。「今後、芸能人としてではなく大韓民国の国民として恥ずかしくない歴史観を持つために努力する」などと涙の謝罪に追い込まれた。

安重根については14年1月、哈爾濱駅に中韓両国が記念館を開設した際、菅義偉官房長官は記者会見で強い不快感を表明。「死刑判決を受けたテロリストだ」と強調した。

暗殺された伊藤博文は、少年期に吉田松陰の松下村塾で学び、明治維新の立役者だった木戸孝允(桂小五郎)、西郷隆盛、大久保利通らが相次いで世を去った後、頭角を現した。初代内閣総理大臣、初代貴族院議長なども務めたほか、明治憲法の制定にも中心的な役割を果たした。

近代日本の礎を築いた一人で、菅長官は昨年8月にも安重根を「犯罪者だ」と繰り返した。これに対しては、韓国外務省報道官が「日本の帝国主義、軍国主義時代に伊藤博文がどのような人物だったのか、日本が当時、周辺国にどんなことをしたのかを振り返れば、官房長官発言はあり得ない」と主張。「安重根義士はわが国の独立と東洋の平和のために命をささげた方だ」と反論する一幕もあった。

新聞通信調査会が今年1月に米国、英国、フランス、中国、韓国、タイの6カ国を対象に行った世論調査によると、日本を「積極的に信頼している」との回答は、韓国が1.9%で中国の2.8%を下回り、最低だった。安重根に限らず、韓国の対日歴史観には特別のものがあり、歴史を「共有」するには、まだまだ時間がかかりそうだ。(編集/日向)