牛丼チェーン「吉野家」や長崎ちゃんぽんチェーンの「リンガーハット」などが展開する「飲み業態」に代表される「ちょい飲み」人気が広がっている。元々は駅前の立ち飲み屋など小規模店舗だけでなく、このように全国チェーンの飲食店やファストフード(KFC等)、カフェチェーン(スターバックス等)まで参入して人気を集めている。経営コンサルタントの大前研一氏は、移転後の活用方法が決まっていない築地市場跡地は、この「ちょい飲み」需要を満たすエリアにすることを提案している。

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 旬の食材を使った料理を少量ずつ提供し、安い単価で酒を飲ませる「ちょい飲み」が登場すれば、人気を集めるのではないかと思う。そのモデルは、スペイン・バスク地方のサン・セバスチャンのバル(居酒屋)だ。

「ヨーロッパの美食の都」と呼ばれるサン・セバスチャンは食事のレベルが高いスペインの中でも群を抜いてレベルが高く、旧市街に約200軒もあるバルでは、実に旨いピンチョス(魚介、生ハム、野菜など一口大の料理を楊枝に刺したりバゲットに乗せたりした軽食。タパスのつまみ版)が食べられる。

 私は今年3月、妻と2人でサン・セバスチャンを訪れ、バルを6軒はしごしてピンチョスを食べ歩いた。いずれのバルも立ち飲み・立ち食いが基本で、カウンター上に並んでいる創意工夫を凝らした多彩なピンチョスや黒板に書かれたその日のお勧めメニューをつまみにワインを1〜2杯飲んだら、30分ほどで次のバルに移動する、というのが地元の人たちの楽しみ方である。

 料金はワイン1杯、料理1〜2品で1人10ユーロ(約1200円)くらい。この楽しさを知ると、普通のレストランで座ってじっくり飲食、というのができなくなるほどだ。

 バルのピンチョスを食べ歩くというサン・セバスチャンのスタイルは、今の日本のサラリーマンやOLのニーズに一致していると思う。イメージとしては「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」に近いかもしれないが、価格は半分以下が理想的だ。

 そして、さらに私の提案は、このサン・セバスチャンのようなバル店舗群を、今年11月に豊洲市場へ移転する築地市場の跡地に作るというものだ。

 東京ドーム5個分、23ヘクタールもある築地市場の跡地利用については、中央区の矢田美英区長が「野球場やサッカー場などのスポーツ施設やテーマパークもいい」と述べ、東京都の舛添要一知事は「水辺で美味しいものを食べるデートスポット。エンターテインメントの場所が一番いいんじゃないか」という考えを示したと報じられているが、今のところまだ何も決まっていない。

 もともと私は築地市場の跡地に新しいビルを建設する場合でも、1階は今の市場のファサードを残し、マグロの競りや場内市場の食堂街のにぎわいを維持することを提案していた。そのコンセプトをさらに絞り込み、サン・セバスチャンのように気軽に食べ歩きができるバルが軒を連ねた「ちょい飲み街」を作ればよいと思うのだ。街並みを江戸時代風にするという手もあるだろう。そうすれば、国内からも海外からも観光客が詰めかけるに違いない。

 すでに「Tsukiji」は、外国人にも日本を代表する美食エリアとして知られている。志ある人がいたら、ぜひ築地市場跡地のサン・セバスチャン化=「築地セバスチャン」計画を推進していただきたい。

※週刊ポスト2016年6月3日号