すごいインタビューを読んだ。
『SWITCH』2016年6月号
樹木希林のインタビューだ。
訊き手は、是枝裕和。
公開中の映画『海よりもまだ深く』の監督。
樹木希林は、この映画で、団地に一人住まいの母を演じている。


『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』を観ていなかったら樹木希林にオファーをしてなかったと是枝監督は語り、ワンシーンを一緒に観る。
-ここで希林さんは椅子の背もたれをちょっとだけ戻す、という芝居をされていますよね?
希林は答える。
「決心だよね、私の」
決心? どういうことだろうか。
-あれがすごくいいんですよね。新幹線の中で前を見てスッと椅子を戻す感じが、もう故郷には戻らないで東京で暮らしていくというオカンの覚悟をすごく明快に表しているんです。
「そうですね」と答えながら、希林は、「私自身はそんなことは何にも考えないでいたのよ」と言う。

次に、希林がそうめんを食べるシーンを観る。
「これの何がいいんですか?」と希林が尋ね、普通の女優はあんな量は食べないと是枝は答える。
台詞もあるもんだから、なかなかあの量は食べられない。
「なるほど。是枝さんはそんなところを観てるのか。私としては当たり前のことなんだけど」
インタビューで、是枝監督は、樹木希林の演技の凄さを語る。
「褒める」のではなく、具体的にどのシーンが凄いのかを指し示すのだ。
『わが母の記』で、老いを演じる希林の凄さを、「この作品の希林さんはだんだん小さくなっていく」と指摘する。
「うん、それは意識してやったの」
-どうやってやったんですか?
「小さくしたの。自分で」
-どこを小さくするんですか?
「身体を小さくするの」
-どうやって?
ここまで喰らいついて聞き返すだけでもすごい。
是枝はあきらめない。
シャンと座っていたのを小さくなって、と希林が答えたあとも、「背中を丸めるぐらいならわかるんですけど、明らかに首の位置が違う」と畳み掛ける。
歳をとりましたという判りやすい演技設計とは違う気がすると言い、「何かを抜いている?」と観ながらメモしたことを伝えて、希林の次の言葉を引き出す。
「骨を抜いているの」
もちろん本当に骨を抜くわけじゃない。
女優として「当たり前」にやっていることをどうにか言語化するために是枝監督が食い下がって、樹木希林がそれに応えた。
この後も、別のシーンを見て、ちっちゃいでしょう?と問う。
「腰を落として、厚みを全部横へ流す」と希林さんの言葉がどんどん具体的になっていく。
是枝は、骨を抜く以外にも、老いを演じるうえで、口周りを弛緩させていると指摘し、他にも何かあるか?と問う。
-スピードのことは考えていますか?

「すごい演技力だ」などと簡単に言ってしまう。
俳優に見入ってしまう。後から、演技力などとつい言ってしまうのだが、それが具体的にどういうことなのか問われると、答えられない。
「ともかく凄いんだ、観てみてよ」などとごまかしてしまう。
是枝裕和は、このインタビューで、七十三歳の樹木希林から「すごい演技」の具体を引っ張りだす。
秘法とでも呼びたくなるような演技に関する知見が、いくつも驚くべき精度で言語化されていく。
テクニックといったレベルのものじゃない。「当たり前」としてやっている姿勢を、言語化しているのだ。
「なぜ私は樹木希林といっしょに映画という生を歩みたいと思うのか」、是枝裕和監督が問い、樹木希林が答えたインタビューだ。

是枝裕和は、樹木希林についてこう書いている。
“彼女の持っている鉈は、彼女自身の上に振りかざされている”。

45,000字に及ぶロングインタビューだがソリッドにまとめられている。
SWITCH公式サイトで、試し読みもできる。
『SWITCH Vol.34 No.6 樹木希林といっしょ。』、すごいです。必読です。
『海よりもまだ深く』観に行きます。『SWITCH Vol.33 No.6 是枝裕和の20年』も注文しました。(米光一成