女川にいさんとフィールドハック!:Field Hack ONAGAWA なぜ女川なのか編

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地域活性化プロジェクトを応援するGoogle 主催のプラットフォーム「イノベーション東北」と、情報科学芸術大学院大学 (IAMAS)、そしてEngadget日本版は、5月7日と8日、宮城県女川町で「Field Hack ONAGAWA」を開催しました。

Field Hackは、テクノロジーで地域の可能性を広げるというイベント。全国からやって来た参加者がチームを組み、地元目線でフィードバックできる地域のメンターと協力し、女川町でフィールドワークを行います。そして、各チームごとにテーマを見つけ出し、互いのスキルやアイデアを練り合わせながら、町の課題を解決したり、可能性を膨らませることができるガジェットのプロトタイプをつくり、実際に町で試してみようというものです。

なぜ女川か? 「復興に20年」だから30〜40代に託すことに決めた町


舞台となる女川町は、東日本大震災で大津波に襲われた町。中心街区をはじめ、町域にあった建物の約8割が消失し、827人が亡くなりました。その後も人口流失が続き、当時1万人の人口も現在では約8000人にまで減少しています。

それでも女川町は負けません。

町の人たちの合い言葉は「あたらしいスタートが世界一生まれる町へ」。これからの未来の日本のモデル地域になるような新しい地域や社会のあり方を考え、実践し、新たな起業者による仕事や働き方、暮らし方が、いま次々に生まれています。

なぜ女川町で新しいチャレンジが生まれやすいのでしょうか。女川町で活動を続けている特定非営利活動法人「アスヘノキボウ」の小松洋介代表理事はこう話します。「僕が女川町にやって来て、とても感動し、印象に残っていることが2つあります」

NPO法人アスヘノキボウの小松さん

「1つは産業界を超えた関係をつくり、町の全産業界が並列に立ち、連係してまちを作っていくのだということを最初にマインドセットしたこと。もう1つは『60歳以上の者は皆、顧問となり、30代40代にまちづくりを託そう』という話を、当時還暦だった(女川町復興連絡)協議会の(高橋正典)会長さんがおっしゃったこと」

復興にはざっと20年はかかると試算。「そのとき60歳以上の人間は80歳を超え、もうまちに対して責任が取れない」。だからまちづくりは若い世代に任せて「50代や60代は弾よけになる」と協議会の高橋会長は言ったそう。小松さんは「この話に驚きました」。女川町のまちづくりは今、こうして進んでいます。

Field Hack ONAGAWAは、そんな女川町で、新しい地域プロジェクトの創出に挑戦しようというイベントなのです。



女川にいさんとフィールドハック! IAMAS小林教授のフィールドワーク2つの秘けつ



4月22日にはGoogleの六本木オフィスでのキックオフミーティングが開催。その場で参加者は7つのチームに分かれ、「海」「山」「教育」「食」「町」という5つのテーマから自分たちのテーマを選択しました。5月7〜8日の"本番"では、それぞれにフィールドワークを実施して、顕在あるいは潜在する町の課題や可能性を探ります。

5月7日、Field Hack ONAGAWAのDay 1がスタート。13時に女川フューチャーセンター「Camass」に集合した参加メンバーたちは、キックオフミーティングで編成されたそれぞれのチーム「海=SEA Hack」「山=YAMA Hack」「食=TABE Hack」「教育=EDU Hack」「町=TOWN Hack」ごとに着席。

スタッフの自己紹介のあと、各チームに帯同してフィールドワークをリードしてくれる地元のメンターである「女川にいさん」「女川ねえさん」の紹介がありました。

SEA Hack:海産物などを取り扱う株式会社岡清(おかせい)の岡明彦(おか・あきひこ)さん、海鮮問屋青木やの青木久幸(あおき・ひさゆき)さん

YAMA Hack:NPO法人 女川ネイチャーガイド協会理事長の青砥祐信(あおと・すけのぶ)さん

EDU Hack:小中学生に学習指導と心のケアを行う 被災地の放課後学校「 コラボ・スクール」(無料)を運営する向学館の鈴木胡美(すずき・くるみ)さんと井優樹(いの・ゆうき)さん

TABE Hack:中華料理店味の館・金華楼店主の鈴木康仁(すずき・やすよし)さん

TOWN Hack:復幸まちづくり女川合同会社代表社員の阿部喜英(あべ・よしひで)さん

にいさんとねえさんは、いわば現地におけるそれぞれのフィールドのプロ。メンバーと一緒に女川町をすみずみまで歩いてくれます。そして、いよいよフィールドワークに出発です!

女川にいさんの皆さん。左から阿部さん、女川を代表する特産品・かまぼこを製造販売してきた蒲鉾本舗高政の4代目、高橋正樹さん、岡さん

......と、その前に情報科学芸術大学院大学 (IAMAS)の小林茂教授から、フィールドワークの進め方について2点秘けつを教えてもらいました。

「こんなのがあったらいいね」という話も出てくると思いますが「どうしてそう思うの?」といったところを聞き漏らしたりしがち。素朴に疑問と思ったことはどんどん聞くこと。

アイデアを思いついたらすぐメモすること。でも、メモしたアイデアにとらわれ過ぎないでください。具体化するのはDay2となる明日以降。今日は観察モードですので、できるだけ多くの人に会い、たくさんインプットすることを心がけて!

港町女川だけど山林の影響が大きいって知ってた? YAMA Hackチーム密着取材



さあ、スタートです。

記者はYAMA Hackチームに同行しました。向かった先は北部の日蕨(ひわらび)地区の山林。黒森(くろもり)山という山があり、そこから流れ出す川こそが町名の由来となった「女川」です。

YAMA Hackチームの女川にいさんは、NPO法人女川ネイチャーガイド協会理事長の青砥祐信(あおと・すけのぶ)さん。町の豊かな自然を活用した「観光」「森林保全」「自然教育」を活動の中心に据えています。



車を降りて、川沿いに歩き始めます。

目に飛び込んでくるのは、若葉が萌えはじめた豊かな緑。でも、針葉樹の森がけっこう目立ちます。そして、倒れたままになっている杉や間伐できないために陽が差し込まない真っ暗な林間もそこかしこに。

「6対4で針葉樹の方が多い。そして、この針葉樹の森が手入れされていない現状こそが女川の山のいちばんの課題なのです」と青砥さん。「町域の80%は山林ですが、実は林業従事者が1人もいない。それでいて地権者は1300人もいます。小面積の所有者が大勢いる。だから、まとまったカタチでのメンテナンスもままならないんです」



青砥さんはまた「鹿の食害も悩ましい問題です」と言います。女川町をはじめ、牡鹿半島一帯では、鹿の食害が増え、広葉樹林の再造林が進んでいないそう。

「ほんとうは、昔のような雑木の森に還したい」と青砥さん。「広葉樹の森に積もった枯れ葉は腐葉土となり、雨水を森土に溜めてくれます。森から生まれた水はミネラルなど栄養分も豊富。そして、その栄養を川が海に運び、海も豊かになる。それこそ自然がつくる豊かさの連環なのです」

でも、杉山は所有者がいるから勝手に伐採できず、いよいよほったらかしに。広葉樹林は、鹿が若い芽を食べてしまうため、雑木の森が再生できません。水を溜めない森は、大雨が降れば川がいきなり増水したり、また、川に倒れ込んだ針葉樹が流れをせき止め、ある日、決壊して鉄砲水を発生させたり......。

青砥さんの話を聞きながら、実際に杉が倒れて重なってしまった河原などを見学したYAMA Hack チーム。「問題はひとつじゃない」「森と海も繋がっている......」「自然はやっぱり大きなスケールで捉えないと」森を歩きながら、彼らはたくさんの情報を拾い集めたようでした。



5色の付せんに5W1Hで振り返り



16時45分、約3時間のフィールドワークが終了し、各チームはCamassへ戻ってきました。そして、フィールドワークの振り返り。小林教授から、その進め方について説明がありました。「記憶が正確なうちに、テーブル上に用意した5色の付せんにたくさん書き出してください」

書き込むルールは、ピンクの付せんには「誰が」、水色の付せんには「いつ、どこで」、黄緑色には「何を」、黄色には「どのように」、そしてオレンジには「なぜ」です。

「女川にいさん、女川ねえさんもこの場にいます。聞き忘れたことも、今のうちに聞いておきましょう。そしてフィールドで感じたこと、思ったことをできるだけ書き出すことに集中します。今日はまだ具体的なアイデアにはしないでおきましょう。ディスカッションもしません。細かいところまで書き出すことに注力して、理解を深めていきましょう」

女川にいさん/ねえさんの皆さんは、このあと別室へ移動するため、会場にいられる時間は約40分間。各チームとも、付せんにメモを走らせながら女川にいさん/ねえさんを質問攻めに。こうしてまとめられた「振り返りメモ」は、どんどん模造紙に貼り付けられていきます。

ものづくりは、コードを書き込んだり、プログラミングするだけでできてしまうのではなく、回路の設計や外装のデザインが得意な人も必要。フィールドワークでは他者の言葉を上手に引き出したり、洞察したりする力も必要です。

人と出会うストーリーの中から課題や可能性を見つけ、1つのハードウェアをつくり上げていくトータルな意味でのデザイン。チームは、多才なスキルを持った人たちの、多彩な集合体です。そんなこと感じたの? その視点っておもしろいよね。......気づき、気づかされる「振り返りの時間」です。

そして、この日の最後のセッションは、メンターの皆さんが退席したあと、付せんを張り出した模造紙を壁やパーテーションに掲げ、他チームのメンバーから質問を受ける、または他チームへ質問する時間。

他チームの「なぜ」や「どうして」を知ることで、そして受けた質問に答えることで、課題の捉え方、違った角度からのアプローチの方法などを整理したり、改めて気付いたりしていきます。

約20分後、振り返りのセッションが終わり、初日のプログラムが終了! この後は懇親会、さらには2015年12月にオープンした女川駅前のプロムナード、シーパルピアへ繰り出しての2次会、ハシゴ酒しながらの3次会、4次会......。チームを超えたコミュニケーションの輪が広がり続けた夜でした。

女川町の須田善明女川町長もサプライズ参加。「皆さんの気づきやアイデアを、私たちも共有しながら、町のフレーズでもある『新しいスタートが世界一生まれる』を、これからも目指して、まちづくりを続けていきたい」

Day 2へ続く

編集部よりお知らせ:5月29日に宮城県女川町にて開催するField Hack ONAGAWA Day3。Day1〜2から3週間でどんなプロトタイプができあがるのか、いよいよ発表の時が近づいてきました。この機会を一緒に体験したいという読者は、ぜひ会場に足をお運びください。お申し込みはFacebookイベントページから。