中国など新興国の低迷が避けられない中で、不透明さを増す世界経済。さすがの米国も利上げには重姿勢を示さざるをえなくなった。米国の利上げ幅の見通しが下方修正されたことで上昇した金だが、日本国内には金の買いを促す独自要因がある。

マイナス金利策の導入で
円建て金価格は
過去最高値突破も!?

私が金価格を見る際に基本としている視点がある。それは金の通貨的側面を意識するというものだ。1971年8月まで米ドルの交換対象となっていた金(金ドル本位制)は、根源的な通貨そのものだった。今ではその制度はなくなったが、それでもドルを補完するという感覚は残っており、新興国の中央銀行は金の保有を増やしている。

この連載でも、中国やロシアの中央銀行が継続的に金を買い付け、外貨準備に組み入れていることを取り上げた。日本国内で金に投資する、すなわち金を買うということは、「円」という資産を「金(ゴールド)」という世界共通の通貨に替えることを意味する。手に入れた金は、ドルでもユーロでも人民元でもない普遍性を認められたもの。それらの通貨の価値に疑問が生まれた際に金は値上がりする。リーマン・ショック以降、米国が金利をゼロにし、ドルの大量ばらまきを進める過程で、金はドル建ての過去最高値1923ドルをつけた。それはドルの価値を薄めようとするFRB(連邦準備制度理事会)の政策を人々が危ぶんだためだ。

ならば、銀行相手とはいえマイナス金利政策というなじみのない異例の政策を導入した日本銀行はどうか。金利を生まないのが金のデメリットとされるが、それも気にならない環境の到来だ。しかもこの政策は、先行して実施されている年間80兆円もの国債買い入れ策の下で導入されたことが問題となる。

マイナス金利政策に伴い、国債に資金が流れ込んだ結果、相場は額面価格を超えて上昇し、長期金利までマイナスに転じた。償還(満期)まで持てば損をする国債を銀行が買い取るのは、日銀への転売で利益が見込めるからだ。ならば、持てば損をする国債を買い取る日銀はどうなるのか? この先、国債相場が下がる(金利は上昇)ことがあれば、日銀保有の国債に評価損が発生する。規模によっては日銀への信頼が揺らぐことになりそうだ。マイナス利回り(債券価格高騰)に至った国債相場はまさに日銀自体がつくり出したバブルといえる。国債バブルが崩壊すれば、損失は日銀が受ける。将来の日銀の出口戦略(買い付けストップ)が国債バブル崩壊の糸口となりうることが、さらに不安心理をかき立てる。

国内の年金基金など長期運用者の中にも、金利を生まないにもかかわらずETF(上場投信)を通じて金の購入を進めるケースもある。日銀の政策が大きな誤りに帰結するなら、円建て金価格は過去最高値の6495円を突破する可能性も出てくるだろう。

マーケット・ストラテジィ・
インスティチュート代表
亀井幸一郎
中央大学法学部卒業。
山一證券に勤務後、
日本初のFP会社であるMMI、
金の国際広報機関であるWGCを経て
独立し、2002年より現職。
市場分析、執筆・講演など
幅広く活躍中。