物事に没頭し、その分野のスペシャリストになる人というのは世界どこにでもいる。ただ、そういった人たちを世の中に多く輩出できるかは、彼らを軽べつしたり非難したりすることなく受け入れ、温かく見守れる環境があるかどうかにかかっている。今の中国において、その環境整備がようやく始まりつつあるようだ。(イメージ写真提供:123RF)

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 物事に没頭し、その分野のスペシャリストになる人というのは世界どこにでもいる。ただ、そういった人たちを世の中に多く輩出できるかは、彼らを軽べつしたり非難したりすることなく受け入れ、温かく見守れる環境があるかどうかにかかっている。今の中国において、その環境整備がようやく始まりつつあるようだ。

 「差不多」(大差ない)、大雑把、雑、というイメージを一般的に持たれている中国にも、それを許せない人たちがちゃんといる。中国メディア・南方都市報は21日、広汽ホンダの工場に勤める32歳の若き板金工・葉世遠さんの技術や仕事に対するこだわりぶりを伝える記事を掲載した。記事は、自動車生産のなかでも板金加工は特に技術者の眼力や腕前が試されるセクションであると紹介。キャリア12年の葉さんが自らのスキルを高め続け、機械にはできない板材の変形の識別やその修復作業をあっという間に完成させる能力を身に着けたことを説明している。

 また、葉さんが作業の楽しさにのめり込むとともに、強い向上心を持ち、常に作業中の難点について考え、解決を試み続けているとした。さらに2013年には普段使っている工具の改良に着手。何度も壁にぶつかりながらも8度の改良を経て完成させたほか、その後も日本のホンダ工場にはないオリジナルの工具を開発、国の特許を取得したと伝えている。

 そのうえで、葉さん自身が「匠の精神」について「絶えず問題を発見し、改善すること。何をするにも簡単に満足しないこと」、「自分の分野でがんばり続けること。たとえ平凡な持ち場でも、自分の立ち位置を定め、楽しみを見出し、そのなかからイノベーションを生み出す」と語ったことを紹介。一方、同僚からは「当初は完ぺきを追究しすぎだと責められており、業務上であまりコミュニケーションが取れなかった。後になって、彼の物事に対する道の進み方に慣れた。『差不多』という言葉を、彼の口から聞いたことがない」という声が聞かれたことも併せて伝えた。

 印象的なのは、同僚の言葉である。「差不多」が肩で風を切って歩いている中国社会において、細かい点までこだわることは「異端」であり、「そんなに細かく考えてどうするんだ」と非難されることだってあるのだ。もちろん、「差不多」が良い方向に働くこともたくさんある。しかしその一方で、何かにこだわりを持つ人を温かい目で見守る寛容さも必要なのだ。社会が寛容になると同時に、「学校の勉強さえできればいい、やっていればいい」という教育観念から脱却し、個々の関心や興味を重んじ、その分野に対するこだわりや愛着を育む教育が、「匠の精神」の発揚を目指す今の中国には不可欠なのである。(編集担当:今関忠義)(イメージ写真提供:123RF)