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このところ、小規模な自動車メーカーの元気がいい。日本ではマツダやスバルが評価・販売両面で絶好調だ。欧米でもジャガー・ランドローバーやポルシェの業績が好調だが、それ以上に「凄いことになっている」のがボルボだといえる。

○プレミアムブランドをめざすことを明確に表明

先週、スウェーデンのボルボ・カーズが新しいコンセプトカーを発表した。同社のボトムエンドを受け持つ「V40」シリーズの実質的なプロトタイプといえるこのコンセプトカーは、新たに開発されたプラットフォーム「CMA」(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャ)を採用している。つまり、新型「V40」はこの新型プラットフォームを採用した第1弾モデルになるわけだ。

自動車メーカーにとって、新しいプラットフォームを開発し、市販車に採用することは数年に1度の大仕事だ。ところが、ボルボはほんの数カ月前に別の新開発プラットフォーム「SPA」(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)を初めて採用したモデル「XC90」を発売したばかり。新型「V40」はまだ発売されていないとはいえ、自動車メーカーがこれほど短期間に新型プラットフォームを連発するのは異例だろう。

いや、それ以前に、ボルボくらいの規模の自動車メーカーが、2つのプラットフォームを自前でそろえることが異例かもしれない。今年3月、スバルも新型プラットフォームを採用した「インプレッサ」(北米仕様車)を発表して話題になったが、今後はこのたったひとつのプラットフォームから、スバルのすべてのラインアップを開発する計画だという。ちなみにスバルの年間販売台数は約95万台。対して、ボルボは約50万台となっている。

もちろん、販売台数が小規模であっても、複数のプラットフォームを採用するメーカーは数多くある。ポルシェは「パナメーラ」「カイエン」「マカン」「911」など各モデルがそれぞれ違うプラットフォームを採用している。ただし、「カイエン」はフォルクスワーゲン「トゥアレグ」と兄弟車だし、次期「パナメーラ」はフォルクスワーゲンが開発したMSBプラットフォームで開発される。

比較的に小規模なメーカーが多い欧州では、ブランドの垣根を越え、プラットフォームやその他のパーツを融通し合うことは普通に行われている……というより、ポルシェやアウディはフォルクスワーゲングループの一員というように、グループ化が進んでいる。しかし、ボルボはどのグループにも属さない高い独立性を貫いており、プラットフォームについても他のブランドと共有することはない(少なくとも、いまのところそういった話はない)。それでも2つのプラットフォームをそろえた。

その開発費だけでも膨大な金額になるはずだ。ここで、あまり注目されなかったが、じつはかなりとんでもない内容だった数年前のニュースを掘り起こそう。2012年12月、ボルボは約110億米ドル(1兆3,000億円)の事業投資を行うと発表したのだ。この金額はスウェーデン1国の歴史上においても最大規模の事業投資であり、もはや国家予算レベルというべきものだった。

ボルボはこれだけの金額を投じ、新型プラットフォームだけでなく、完全新設計の4気筒エンジン、さらにそれらを開発・生産するためのインフラ整備を実施した。当時のリリースによると、同社の研究開発担当上級副社長のピーター・メルテンス氏は、「(この投資によって)技術的な独立が可能となり、以前所属していた企業グループ共有の技術とは異なる、ボルボ独自の技術を確立します」と語っている。その最初の成果として登場したのが新型「XC90」であり、今回発表されたコンセプトカーなのだ。

ボルボの業績はこのところ非常に好調で、2015年度の販売台数は初めて50万台を超えた。しかし、ボルボの壮大な投資の効果が本格的に現れるのはこれからなのだから、現在の急成長も、さらなる飛躍への序章にすぎないということになる(もちろんボルボの計画通りに事が進んだ場合の話だが)。

ボルボは年間販売台数を80万台にする中期目標を掲げている。さらに、今回のコンセプトカーの発表で、よりいっそうのプレミアム化へ舵を切る戦略が明らかにされた。現行の「V40」も、いわゆる「プレミアムコンパクト」に属するモデルだが、その傾向をいっそう高め、さらにボルボというブランド自体を「今後4年以内に世界的な高級車メーカーと互角に競えるブランドにすることをめざす」のだという。

これはつまり、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディのジャーマン御三家や、ジャガー・ランドローバー、あるいはレクサスに並ぼうということだろう。ある意味、販売台数を倍増させるよりも難しい目標だ。今回のコンセプトカー発表のリリースには、その片隅に、「(2015年の好調な)販売台数と営業利益は、ボルボ・カー・グループの世界での改革プランへの継続投資に道を開くことになりました」とある。この困難な目標に向かって邁進する決意に揺らぎはないようだ。

○数々の目標がひとつに集約されたとき、ボルボが飛躍する!?

ボルボはなにかと目標を掲げることが好きなメーカーだ。現在、公にしている目標としては、「2020年までに新しいボルボ車が関わる死亡者・重傷者をゼロにする(VISION 2020)」「2025年までに最大100万台の電動化車両を販売する。一般の顧客が所有する100台の自動運転車を2017年までにイェーテボリ市周辺の一定の公道で走らせる(ドライブ・ミー)」などが挙げられる。

どれも環境や安全のために素晴らしい目標だが、あまりに困難なものもあるし、また、散漫で一貫性がないようにも見える。しかし、今回明らかになったボルボのプレミアムブランドへの参入計画や、4年前から着実に実施されてきた巨大投資と合わせて考えるとき、じつはすべての目標が、より大きなひとつの目標のために掲げられたものであることが見えてくるのだ。

かつて、経営難から消滅の危機に瀕したボルボ。その歴史を繰り返さないために、絶対的な経営基盤を持ち、揺るぎない企業となること。そのためのプレミアムブランド参入であり、参入に必要な価値を獲得するために、あえて非常に高い安全性能、環境性能の目標を設定し、それを実現するために巨大投資を行っているということだろう。この壮大なチャレンジの結末がどうなるか、2020年には一定の結果が出ているだろう。

(山津正明)