なんと真空状態でも生き延びるという(画像は国立感染症研究所ホームページ昆虫医科学部「感染症を媒介する昆虫・ダニのなかま」より)

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デング熱を媒介する蚊や、幼稚園や小学校で流行するアタマジラミなど、ここ数年、虫による健康被害を耳にする機会が多い。さらに、蚊やシラミの被害に隠れているが無視できない害虫として、専門機関が注意を促しているのが「マダニ」だ。特に、マダニが媒介する感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」は、日本国内で死亡例も確認されている。

治療薬やワクチンがない

ダニは身近にいる。古くなった小麦などに発生するコナダニ、衣類や寝具に発生し、アレルギーを引き起こすヒョウダニなどだ。マダニはこれら屋内に発生するダニとは種類が異なる。屋外に生息している吸血性のダニだ。

問題なのは、マダニが媒介する「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」という感染症だ。マダニが媒介する感染症は「日本紅斑熱」や「ライム病」もあるが、こうした感染症は抗菌薬が有効な細菌感染症だ。これに対して、ウイルス感染症であるSFTSには今のところ有効な治療薬やワクチンはない。治療は対症的な方法しかない。

SFTSは2011年に中国の研究者らが発見した感染症で、2013年1月に国内で初めて感染例が確認されて以降、他にも患者が確認されるようになった。国立感染症研究所の感染症発生動向調査では、2016年4月28日までに175人の患者が報告されており、そのうち46人が亡くなっている。

感染すると6日〜2週間の潜伏期を経て、発熱、食欲低下、嘔吐、下痢、腹痛といった症状が起き、その他頭痛、筋肉痛、意識障害などの神経症状、皮下出血などの出血症状を起こす。

患者の年齢層は、40〜90歳代で、全患者の約95%が50歳以上となっており、データ上は高齢者が多い。発症時期は5〜8月に集中しており、マダニが活発に活動する春から夏に重なっているようだ。

これまでのところ、宮崎や愛媛、広島、高知、鹿児島など西日本を中心に発生しているが、2016年4月16日に開催された第90回日本感染症学会総会で、国立感染症研究所は「感染報告が西から東に徐々に拡大している」と発表しており、今後、東日本でも確認される可能性が高い。

ともかく咬まれないことが重要

今のところ、SFTS予防のためには「マダニに咬まれない」しかない。基本的には野生動物が出没する森や草地に生息しているが、必ずしも奥地にいるというわけではない。農家の裏山や庭、畑だけでなく、郊外の住宅地や都市部にも生息している。都内に住む40代の男性は、散歩ルートにあった藪で遊んだペットの犬が咬まれていた経験があり、「マダニなんて田舎の山で出てくる虫かと思っていたので驚いた」と話す。

農作業やレジャー、庭仕事など野外で活動する際には、皮膚の露出を抑えた服装にし、着用後に脱いだ服は放置せずにすぐ洗濯するか、ナイロン袋等に入れて口をしばっておくのが望ましい。シャツをパンツの外に出しているときの脇腹や、靴下とパンツの裾の間などが噛まれやすい。野外活動時、シャツをパンツの中にたくしこみ、靴下をパンツの上にかぶせると予防には有効だ。

また、全身をチェックしてマダニに刺されていないか確認しておく。ダニの中では3〜8ミリと比較的大型で、吸血時には2センチ近くに膨れる場合もあるので、目視は難しくない。確認はできなくても、すぐに入浴して身体を洗っておこう。

海外ではマダニ用の虫除けスプレーなどが存在するが、日本では販売されていない。ツツガムシ用のスプレーが、マダニにも一定の効果はあるとされているが、上記のような防護対策と合わせて使うべきだろう。

万が一咬まれていた場合、引き抜くのは禁物だ。マダニは吸血する際、セメントのような物質を出してしっかり皮膚にくっついている。無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚内に残って化膿したり、マダニの体液を逆流させてしまったりする恐れがあり、皮膚科で除去や洗浄を受けたほうがよい。

さらに、咬まれてから数週間程度は体調の変化に注意をし、体調不良が認められた場合はすみやかに医療機関を受診する。これから夏に向け、山や森に出かける機会が増えると思われる。SFTSの感染はまれとはいえ、万が一に備え、ダニ対策をしっかりとしておきたい。[監修:岩田健太郎 神戸大学感染症内科教授]

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