小泉今日子、50歳。ブレない強さはどこからくるのか
 小泉今日子の魅力とは、一体何なのでしょう。

 失礼ながら、歌が上手なわけでも、味のある芝居をするわけでもない。それでもアイドル時代の80年代から、ずっと第一線のビッグネームでありつづけてきたキョンキョン。

 事実、雑誌『MEKURU VOL.7』で特集が組まれると、その号は早々に売り切れ。昨年発売された『小泉今日子書評集』も話題を呼びました。

 朝ドラ『あまちゃん』からの“アイドル批評”プチブームもあり、その名前が再びクローズアップされ始めているように思います。

 そんな中、発売された『黄色いマンション 黒い猫』。

 雑誌『SWITCH』の連載「原宿百景」からのセレクションに加え、書き下ろし1篇を加えたエッセイ集です。小さいころや学生時代の思い出から、50歳を迎えての心境に至るまでがつづられています。

 とはいっても、特別ハデな出来事が取り上げられるわけではありません。読者を驚かせたり、大笑いさせたりする話は全くない。それとは逆に、普段通り過ぎて行ってしまうような些細な光景や心情を、さりげなくすくい上げていく。

◆なんでもない日常に、泣きそうになる

 たとえば、デビュー間もなく不安に押しつぶされそうになりながら、ボイストレーナーのコウノ先生の部屋で一緒にお昼ごはんを食べるシーン。

<テレビがあってコタツがある普通の茶の間で、炊きたてのご飯とお味噌汁と、お漬け物や明太子や葉唐辛子や焼き鮭といった気取らないおかずが並んでいて、なんだかすごくそれに安心して泣きたいような気持ちになる。
(中略)
歌はなかなか上手にならないけれど、もっと大事なことをこの家に教えてもらった。>
(嵐の日も 彼とならば)

 アイドルとして成功するのも大事だけれども、まずひとりの人として肯定してもらえることのありがたさ。それを早くからごくごく普通の食卓の中に見出す視線に、小泉今日子の落ち着きがあるのでしょうか。

 そして現在。家族で食事をしに行く道中での他愛のないやり取りに、思わず涙しそうになったという彼女。

 それが、焼肉よりもじゃがりこを食べたいと言い張る「ハイテンション五歳男児」ハルちゃん(姉ヒロコさんの孫)をきっかけに、ふと家族のつながりを感じるシーンです。

<「じゃがりこ! じゃがりこ!」と叫びながら歩くハルちゃんにおばあちゃんであるヒロコが、「じゃがりこよりジャガビーの方が美味しくない?」とどうでもいいことで答える。コンビニに到着してからも、「ねえハルちゃん、ジャガビーの方が絶対美味しいよ」と三回くらい言うヒロコ。ハルちゃんは聞く耳持たずじゃがりこを抱きかかえる>
(四月某日の日記)

◆質(たち)の悪い淋しがり屋

 こうしてみると、彼女が満たされていると感じる瞬間が、ほとんど変わっていないと気づくのですね。しみじみとしながらも、少し哀しくなるような光景に心揺さぶられる。

 そんな「質(たち)の悪い淋しがり屋」(夕暮れの保健室)な一面と向き合う時間を大切にしていることがうかがえるエピソードでした。

 そこで思い出したのが、以下の一節。

<仕事や、持ちものや、会わなければならない人が多過ぎるのである。やり甲斐がある仕事や、面白い人や、貴重な持ちものが多過ぎる。なぜなら、つまらないことだけではなくて、重要なことも我々の生活を邪魔するからである。>
(『海からの贈物』 アン・モロウ・リンドバーグ著 訳:吉田健一)

 さてテレビ全盛期のお祭り騒ぎを駆け抜けた小泉今日子は、どのようにしてそんな時間と空間を作り、守ってきたのでしょうか。さらなる興味をかきたてられる一冊でした。

※アン・モロウ・リンドバーグ=アメリカの飛行家、チャールズ・リンドバーグの妻で文筆家

<TEXT/比嘉静六>