連載 【福田正博 フォーメーション進化論】

 8月に開幕するリオデジャネイロ五輪のサッカーの予選グループの組み合わせが決まり、日本代表は8月4日から中2日の間隔で、ナイジェリア、コロンビア、スウェーデンと対戦する。グループ内の勝ち点で上位2カ国に入れば準々決勝に進める。

 五輪代表がオリンピックに出場するたびに話題になるのが、オーバーエイジ(OA)枠をどうするのか、ということだ。これについては、今回もさまざまなメディアで頻繁に取り上げられている。

 23歳以上の選手を招集できる3枠を使うべきか否か。起用するなら誰を呼ぶべきなのか。それらについて触れる前に、まずオリンピックのサッカー競技の位置づけをあらためて説明しておきたい。

 4年に1度の五輪という舞台は、多くの競技の世界最高峰を決める大会で、世界中のアスリートが五輪でのメダルを目指して日々精進している。しかし、これはサッカーには当てはまらない。なぜなら、サッカーにおいて世界一を決める大会はワールドカップ(W杯)だからだ。

 日本サッカーにとっても最終目標はW杯であるため、五輪では必ずしもメダル至上主義ではなく、「若い選手が成長するための舞台」としてとらえている面もある。

 これは日本だけに限らない。サッカー強豪国と言われる国々では、五輪代表が五輪本大会に出場しようがしまいが、必要以上に一喜一憂することはない。

 たとえば、今回のリオは日本と対戦するスウェーデンのほか、ポルトガル、デンマーク、ドイツがヨーロッパ予選を勝ち抜いたが、スペインやイタリア、フランスといったサッカー強豪国は出場を逃した。ただし、五輪に出場できなくてもそこまでの騒ぎにならないのは、ヨーロッパ強豪国は五輪に出場することをそこまで重視していないことを示しているといえる。また、五輪と同じ年にユーロ(欧州選手権)が開催されることも影響しているだろう。

 翻(ひるがえ)って日本は、立地的に世界レベルの選手たちと対戦できる機会が限られているので、五輪は国際経験を積む貴重な舞台。若い選手たちが、五輪で南米やアフリカ、欧州の同世代の選手と真剣勝負ができることに意義がある。そのため、1試合でも多くの試合をすることが重要になってくる。

 五輪代表に招集できる選手数は18名で、そのうちの3名は23歳以上の選手を招集することができる。もしOA枠を使うと、23歳以下の若い選手が経験を積む機会を奪うという考え方もある。日本サッカーにとっては、才能のある若手を最終目標であるW杯で日本代表として戦えるように、五輪という舞台で育てることが大きなテーマのひとつになる。

 同時に、U−23代表選手の全員が国際経験を積んだからといって、そのまま日本代表の中核を担えるわけではない。厳しい言い方かもしれないが、五輪代表からステップアップしてすぐに日本代表入りできる選手は限られている。それを踏まえたうえで、次代の日本代表を担うべき才能豊かな選手を、さらに飛躍させるためにOA枠を有効活用すべきだろう。

 そこで、どのポジションに誰を呼ぶかが大きな問題になる。手倉森誠監督が予選から作り上げてきたチームの現状を見て、足りない部分をOA枠で補うことを考えるべきだろう。一方で、仮に希望する23歳以上の選手を招集できないのであれば、OA枠は使わずにU−23の選手だけで臨むべきだと私は思う。

 現在の五輪代表は、故障で何人かの主力選手が離脱している。その中でも穴埋めに苦しみそうなのが室屋成(FC東京)の抜けたサイドバックだ。

 このポジションは五輪代表に限らず、現在の日本サッカーで層が薄い。五輪代表レベルに見合う実力を持つ若手がいないのならば、OA枠を使うべきだろう。

 適任者は、長友佑都(インテル)のほかに思い浮かばない。左右両サイドバックでプレーができて、経験はいまさら語る必要もないほど豊かだ。手倉森監督は対戦相手の特徴によって守備時の決め事を細かく設定するが、そうした戦術理解度の点でも、長友ならば不安はない。

 さらに、長友はピッチに立てない選手の気持ちを理解できることも含め、若い選手たちのメンタル面のサポートという部分でも期待ができる。

 たしかに、OA枠で本田圭佑や大久保嘉人を招集して、強いリーダーシップで若手を引っ張ってもらうという考えもあるが、私はこの意見には賛同しかねている。

 手倉森ジャパンの選手たちは、比較的おとなしい印象の選手が多いものの、チームの一体感はすばらしく、それが持ち味だ。そこに強力なリーダーシップのある年長の選手を入れて、拒絶反応が起きて長所が失われる可能性もある。

 先頭に立ってグイグイ引っ張るタイプの選手よりも、後ろから若い選手たちの背中を押してあげることができるタイプこそが、OA枠に向いていると私は考えている。この点でも、長友はうってつけの存在だろう。

 しかし、現実的には長友の招集は難しい面もある。仮に五輪代表が勝ち進むと、リオ五輪のサッカー決勝は8月20日。その10日後の9月1日には、W杯アジア最終予選が控えている。所属するインテルや日本代表のスケジュールとの兼ね合いで、長友本人が五輪出場を希望していても、GOサインが出る可能性は低い。

 それでも、長友がグループリーグ3試合だけでも戦い、チームを決勝トーナメントに導いてくれたら、と考えてしまう。ナイジェリア、コロンビア、スウェーデンを相手に戦うグループリーグを突破できれば、五輪代表の若い選手たちは自信を深め、その先のW杯最終予選で台頭する可能性が高まるからだ。手倉森監督と日本サッカー協会は、長友のOA枠での招集を検討してもらいたいと思う。

福田正博●解説