不可解な設問、的ハズレな指導要領。ヒドすぎる全国学力テストの実情
近年指摘されるようになった日本の子どもの学力低下。その解決策として2007年より行われているのが「全国学力テスト」です。しかし、メルマガ『ふくしま式で文学・評論を読み解く!』の著者である、国語指導のカリスマ・福嶋隆史さんは「こんなテストでは国語力を測ることはできない」と、その問題の質を批判しています。気になる、その問題の中身とは?
200万人超の子どもたちが被害者である
みなさんこんにちは。福嶋隆史です。
さて、遅くなりましたが、全国学力テストの分析をお送りします。
当初は3,000字くらいの予定だったのですが、終わっていたら10,000字を超えていました。
これでも、全設問の10分の1くらいにしか言及していません。言いたいことは、無限にあるのです。
しかし逆に、突き詰めれば1つしかないとも言えます。
それは、「こんなテストでは国語力を測ることはできない」。
これに尽きます。
この号外では、その根拠の一端をご紹介致します。
全国学力テスト 過去の分析ログ紹介
この号外では、2016/4/19に全国で実施された全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)についての分析・評価をお送りします。
まずは、下記リンク先などから実際の問題PDFを入手し、読者諸氏ご自身で解いてみてください。
国立教育政策研究所のリンク先からダウンロードしたものは、他者の著作権が発生している題材文等については全て削除されているため、共同通信からのダウンロードをおすすめします。
全国学力テスト問題および解説資料等
国立教育政策研究所
共同通信
必ず「解説資料」もダウンロードしましょう。出題の趣旨等が説明されています。
この全国学力テストは、小学6年生および中学3年生、合計200万人超※の子どもたちが受けます。
センター試験のざっと4倍ほどの受験者数。その責任は重大です。
※参考
なお、福嶋によるこれまでの全国学力テスト分析は、下記にて無料公開しています(twitterのまとめだと読みづらい部分があるので、いずれブログ等にアップしなおしたいと思っています)。
2012年分析
2013年分析
2014年分析
2015年分析→ ※
※全国学力テストの内容が毎度ながら酷いため、この年は意欲減退し、分析しませんでした。が、今年は有料メルマガに載せるべく奮起して分析した次第です。
その他、関連する批評記事は以下のとおりです。
「全国学力テストは、結果公表の良し悪しを語る前に、その問題の良し悪しをこそ語るべき。」
「全国学力テスト──無駄な演出をなくし、問うべき能力の輪郭を明確にせよ!」
「現在検討されている「達成度テスト(仮)」等について募集されていたパブリックコメントを送付しました(2014/05/07)」
次ページ>>問題の根底にある、文科省の間違った学習指導要領
そもそも学習指導要領が間違っている!
全国学力テストについては兼ねてより、その結果公開の是非であるとか、入試への活用の是非であるとか、いわば「周辺の問題」ばかりが語られてきました。
つい最近は、馳浩文科相が、全国学力テストの都道府県別成績を向上させるべく「対策授業」をしている学校(教委)があることを批判するコメントを出すなどしたそうです(毎日新聞4/21)。
しかし、私からすれば、こういった話はどれもバカげています。
核心的な部分に、いっさい触れていないからです。
核心とはすなわち、「問題の質」です。
これらのテストによって、本当に「国語力」「算数力」ひいては「学力」を計測することができているのか?
この疑問を投げかける識者およびマスメディアには、なかなかお目にかかれません。
学習指導要領にのっとって文科省(>国立教育政策研究所)が責任を持って作っているのだから問題ないとでも考えているのでしょうか。つまり、お上が作った問題は完全だということなのでしょうか。
私はそもそも、学習指導要領※の国語科の中身そのものに疑問を持っています。
今回の分析も、結局はそこに行き着きます。
それがどういうことか、簡単に説明しておきます。
学習指導要領では、国語力を次のように分類しています。
「話すこと・聞くこと」
「書くこと」
「読むこと」
および「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」
私は、上記の3分類(話す・聞くを分けるなら4分類)は、全く間違っていると考えています。
国語力とは、次のように分けるべきです。
「言いかえる力(同等関係※整理力)」※抽象・具体の関係
「くらべる力(対比関係整理力)」
「たどる力(因果関係整理力)」
私が主張する、「3つの力」です。
このことは、私が2009年から著書や雑誌等において何度も述べてきたことであり、今さら詳しくは書きません。
あらためて詳しく知りたい方は、こちらをごらんください。各種の図も掲載されています。
今「私が主張する」と書きましたが、こうした考え方は、たとえば大学受験の現代文指導に当たっているような先生方ならば、みな多かれ少なかれ主張していることです。
実に「今さら」なのです。
しかし、文科省は分かっていません。
だから、言い続けなければなりません。
何度でも書きますが、読む力も、書く力も、話す力も、存在しないのです。
私たちは、読む力を使って読むのではありません。
書く力を使って書くのではありません。
話す力を使って話すのではありません。
言いかえながら話し、くらべながら話し、たどりながら話す。
言いかえながら聞き、くらべながら聞き、たどりながら聞く。
言いかえながら書き、くらべながら書き、たどりながら書く。
言いかえながら読み、くらべながら読み、たどりながら読む。
これが正しいとらえ方です。「正しい」というのは、「形がある」「有形だ」ということです。
言いかえれば、「真似できる技術である」ということです。
野球力、バスケ力、サッカー力などというものはありません。まして、スポーツ力などと言えば、それは全くの「無形」です。
あるのは、投げる力、跳ぶ力、走る力といった原初的能力だけです。
投げながらバスケをし、跳びながらバスケをし、走りながらバスケをする。
これが正しいとらえ方です。
投げる、跳ぶ、走る。
そういった原初的能力でなければ、測定はできません。
しかし、学習指導要領にのっとって作られた全国学力テストは、原初的な言語技能を測る仕組みになっていません。
「この設問は、どんな力(技能)を問うているのか」
「この設問は、その技能を測ることができているのか」
みなさん、一問一問を、そういう目でチェックしてください。
そうすれば、おのずと、全国学力テストの本質的な問題点に気づけるはずです。
次ページ>>なぜこんな問題を作るのか…問題だらけの設問の数々
この設問が実は最も問題あり!
■中学A・大問9
◇小問4
これは、実は今回の学テで最も問題のある設問ではないかと思います。
なぜなら、「質の高低」といった相対的な判断とは違い、書かれていることがらの「正誤」という絶対的な判断に関わる問題点をはらんでいるからです。
ここでは、「美」の意味・用例として次の4つが挙げられています。
うつくしい。うるわしい。「─麗」うまい。おいしい。「─食」ほめる。「褒─」よい。立派である。「─徳」その上で、次のア・イの「美」の意味を、これら4つから選べというのです。
ア 賛美
イ 優美
アの答えが3「ほめる」であることは、文句ありません。
イの答えが1「うつくしい。うるわしい」であることも、問題はありません。
──が、4「よい。立派である」を排除しきれるかといえば、疑問が残ります。
「優美」を辞書で引きます。
上品で美しいこと。しとやかで美しいこと。(デジタル大辞泉)
すぐれてうるわしいこと。上品で美しいこと。みやびやかなこと。(日本国語大辞典)
上品で、奥ゆかしい美しさを持っている様子だ。(新明解国語辞典 第七版)
こうして見ると、たしかに、1が「最もふさわしい」答えではあります。
しかし、まだ「よい。立派である」を否定したことにはなりません。
そこで、問題と同様、漢和辞典を引きます。
手元の『角川 新字源(改訂版)』では、美の意味をこう書いています。
うまい。おいしい。よいこと。よいもの。よくする。うつくしい。うるわしい。ア みめよい。器量がよい。(対)醜。
イ きれい。
ウ よい(善)。りっぱな。(対)悪。ほめる。よみする。
注目すべきは、4です。4のウです。
設問上では、「うつくしい・うるわしい」と「よい・立派だ」を分けていますが、新字源では、「うつくしい・うるわしい」の中に「よい・立派だ」が含まれているのです。
新字源の解釈に従えば、選択肢4を積極的に排除することは難しくなります。
選択肢4を選んだからといって、「辞書を活用し,漢字が表している意味を正しく捉える」(解説資料)能力が不足していると判定されたのでは、たまったものではありません。
なお、白川静氏による『字通』(平凡社)は漢和辞典における『広辞苑』のような存在ですが、その「美」の項目にはこう書かれています。
うつくしい、すぐれる、めでたい。よい、よみする、ほめる。みちる、さかん、ただしい。たのしむ、よろこぶ、さいわい。設問の分類とも新字源の分類とも異なっています。
こうして見ると、漢和辞典の字義の分類というのは多分に恣意的であるということが伺えます。
そんな中で、このような問いを出題することそれ自体、大いに問題があると言わざるを得ません。
◇小問5
これは、私が以前からずっと指摘している「無駄な情報」「無駄な演出」が明確に現れている設問です。
これ、サグラダ・ファミリアについて語っているわけですが、その必要性が全くありません。
「建設中のサグラダ・ファミリア」の写真(絵)も要りません。インクの無駄です(インクが最も無駄なのは、Bの冒頭の漆の絵ですが)。
2文目だけを並べるか、もっとシンプルな別の内容にするか。単純化する方法は、いくらでもあったはずです。
真面目な子ほど「無駄な情報」「無駄な演出」を読んだり見たりすることに時間をとられ、本来持っているはずの能力を発揮できずに終わってしまうこともあります。
いつも言っているように、「むき出しの技能」を測るべきなのです。
image by: Shutterstock.com
『ふくしま式で文学・評論を読み解く!』
著者/福嶋隆史
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出典元:まぐまぐニュース!