新生なでしこジャパンが、ついにヴェールを脱いだ。

 発表されたアメリカとの親善試合2試合(6月2日コロラド、5日オハイオ)に臨むメンバー20人。

 この2試合が監督就任後の初陣となる高倉麻子監督は、今後代表に入る選手に求める"4つの条件"をあげている。

1、テクニックがあってクレバーであること。
2、走れる(持久力、スピードも含む)こと。
3、チームのために戦えること。
4、代表への思いが強いこと。

 選考の内訳を見ると、3月のリオ五輪予選時から半数の10人が入れ替わり、うち5人が初選出となった。特筆すべき点は、25歳以下の選手が20人中17人を占めていることだ。これは、「新世代の台頭」というよりは、「この年代に伸びてもらわなければ困る」という、指揮官のメッセージとも受け取れる。なぜなら、3年後のフランスW杯、4年後の東京五輪時に脂が乗るであろうこの年代の成長が、今後のなでしこジャパンの伸びしろを決めるとも言えるからだ。

 メンバー発表会見で、指揮官はこうも話している。

「今回は一番最初でこのメンバーを選びましたが、1年後にこのメンバーが半分残っているかは私にも分かりません。今回入らなかった選手に対してもいつでも扉を開けているつもりですし、私自身は上に上がってきてくれる選手をいつも待っています」

 代表に指定席はない。指揮官が就任時に「年齢で区切ることはない」とも話していた通り、今後もすべての選手にチャンスがある。

 そして、今回選ばれた20人は、2試合を通じて自分のクオリティを全力で示すことが求められる。

 初選出の5人は、育成年代も含めて代表経験がほとんどない選手もいるため、トップの年代に入ってどこまでやれるのかは未知数だ。単純に考えれば、世界女王のアメリカ相手に「当たって砕ける」リスクも大きいだろう。指揮官はそのリスクも覚悟の上で、その「伸びしろ」に賭けたのではないか。

 たとえば、限られた時間の中で、全力でチャレンジした結果、散々な結果だったと仮定してみる。そこで問われるのが「対応力」であり、「伸びしろ」だ。大事なのはミスをしないことではなく、ミスをした後である。

 今回、そのチャンスを与えられたのはどの選手なのか。ここでは、初招集のうち、2人の選手に注目したい。

 1人目は、MF中里優(日テレベレーザ/21歳)。

 身長147僉出場すれば、これまでの代表史上"最も小柄な"選手となる。だが、その体格差を逆手に取って発揮される対人のテクニックに加え、豊富な運動量やパワフルなミドルシュートなど、多彩な武器を状況に応じて使い分けることができる。所属の日テレ・ベレーザでは、昨シーズンの途中から先発に定着。なでしこジャパンで新たに背番号10をつけることとなった阪口夢穂とは今季からダブルボランチを組み、首位を走るベレーザの攻守の手綱を握っている。

「私はスピードもないし、体も小さいので、フィジカルで勝負してもまず勝ち目がない。(対アメリカ戦は)ドリブルをしている時やボールを受ける前にフェイントを入れたりして、相手の逆を取っていくようなプレーにチャレンジしていきたいと思います」

 そう話す中里は、リーグ8節の仙台戦で、とびきりのプレーで観客を沸かせた。シザースと足の裏を使った目にも止まらぬ足技で相手の重心の逆をとり、チャンスを演出したのだ。

「女子の試合だとネイマールとかメッシみたいなドリブルやフェイントをする人がいないので、アクセントをつけようと意識しました」と、本人はその場面を振り返る。そのアイデアが生きるトップ下やサイドハーフなど、複数のポジションをこなせるユーティリティ性も魅力だ。

「運動量があって予測に優れていて、小柄だけれど体も強い。そういう面が世界でどれだけ通用するのか、試してみたいと考えています」(高倉監督)

 攻撃的なプレースタイルとは裏腹に、素顔はどこまでも謙虚なはにかみ屋でもある。中里が長身で屈強なアメリカの選手をひらりとかわす。そんな場面が見られたら、きっと爽快だろう。

 2人目は、DF佐々木繭(23歳)。昨季は所属するベガルタ仙台レディースで、代表のボランチ候補でもある川村優理とダブルボランチを形成し、リーグ2位と躍進したチームの中盤を支えた。読みの鋭さとポジショニングを武器に、守備面でもキラリと光るプレーを見せた。今季はポジションを変え、サイドバックで試合に出続けている。

「シンプルなプレーを心がけています。合わせてもらうよりは合わせるタイプなので、どんなサッカーでもやれる自信はあります」

 そう話すように、どんな戦術・選手にも柔軟に合わせられるバランス感覚は大きな武器。華やかなプレーではないかもしれないが、一つ一つがシンプルで、丁寧。そして、球際では常に体を張るファイターでもある。

 佐々木は中里と同じ、日テレの育成組織であるメニーナ出身で、FWの岩渕真奈とは同期。だが、育成年代も含めてこれまで代表には縁がなかった。そんな中、「テクニックがあって、戦術理解度が高く、状況判断がいい。いろんな局面をうまく捌いていける能力が高い」と評価する高倉監督が、3月のラマンガ国際大会(U-23)で初めて招集した。そして、このラマンガで複数のポジションで起用された佐々木は、海外の屈強な選手にも安定感のある対応を見せた。

「(アメリカに対しては)周りとうまく連携して、1対1にならないようにしたい。代表の常連メンバーと連携して崩せたらすごく楽しいだろうなぁと思います」(佐々木)

 相手のプレッシャーがかかる中でも、ミスを恐れず前を向いてチャレンジする姿を見せてほしい。

 初戦が行なわれるコロラド州デンバーは標高1600 mの高地で、時差はマイナス15時間。マラソン選手が高地トレーニングの地として訪れる場所でもあるため、まずは高地に体を順化させなければならない。だが、国内では遠征直前の5月29日までリーグ戦があるため事前合宿が行なえず、集合から本番までは2日しかない。その2日を順化に当てるとなると、初戦はほぼ「ぶっつけ本番」となる。

 一方、対戦相手のアメリカは、2カ月後のリオ五輪に向けたチームの仕上げの段階に差し掛かっている。リオでは3大会連続の金メダルがかかっており、親善試合とはいえ全力で日本を迎え撃つだろう。2日のチケットは、約18000枚分がわずか10分間で完売したという。日本にとって完全アウェーになることは間違いない。

「マイナスの要素も多いですが、サッカーというのはどの大会も思いがけない要素が出てくるので、私を含めてスタッフの対応や、選手個人個人の対応を発揮するにはいい機会だと思います。結果を恐れず思い切ってぶつかっていきたいと思います」(高倉監督)

 新生なでしこジャパンの船出は、試練が満載の旅になりそうだ。だが、2014年のU-17W杯や昨年のU-19アジア選手権などでも、すべての選手にチャンスを与えながら、最高の結果(優勝)を勝ち取ってきた指揮官である。アメリカの出方を見ながらどんな対応策を練っていくのか、注目したい。

松原渓●取材・文 text by Matsubara Kei