NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:作三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
5月15日放送 第19回「恋路」 演出:小林大児


竹内結子の修羅場キャラの系譜


竹内結子はバケモノだ(褒めています)。
日曜日という安息日、家族で楽しむテレビでこんなに猟奇的な表情を映していいのか! 「恋路」なんて柔らかいタイトルをつけて、実のところ「呪怨」って感じだった。ちなみに竹内結子の映画デビューは「リング」(98年)。でも呪うほうではなく呪われるほう。

19回は、竹内結子扮する茶々が、何段階に渡ってこわさを振りまき続けた。
まずは、武具の入った蔵。お気に入りの信繁(堺雅人)を誘い出し連れ込んで、何をするかと思ったら、戦に使用された武器を見ながら、親しい人がみんな秀吉(小日向文世)に殺された話、多くの死を見て来たことから血がこわくない話などを語る。その表情は、竹内結子、どんだけ修羅場くぐってきてるんですか?と思うほどの迫真の虚無であった。

ちなみに、彼女の代表作のひとつ「ランチの女王」(フジテレビ/02年)では、一見ごく普通の女の子、じつはワケあり(悪い男とつきあって無自覚に犯罪を手伝っていた)で腕っぷしも強い役を演じていた。竹内結子、無邪気な表の顔に裏のある役は以前からお手のものなのだ。
「真田丸」19回の茶々は、蔵活動の次は、秀吉の前で、わざと信繁と仲良しなとこを見せつける。
最初の頃は、無邪気(というか空気の読めないひと)かと捉えていたが、ここまでくると、わざとやってるとしか思えない。
身の危険を感じた信繁が避けようとしても離さない。こわい。いちいち、ふたりの仲をアピールするようなことをする。こわい。ついには、蔵にふたりでいたことを秀吉に、ぽろり。あ、言っちゃった! 的な驚いたリアクションしていたが、秀吉の耳心地のいいくどきを「見え透いた」と完全に見切っているくらいだから、彼女も平気で芝居しているのではないだろうか。

信繁は、蔵の中でふいに落ちてきた刃物にびびる茶々を見て、自分が死ぬことがこわくない人はこんなに怖がらないと指摘する。それはそうだが、半分は、ほんとうに死ぬのが怖くないから怒られるようなことも平気でやるのではないか。しかも、他人を巻き込むのも厭わない。それだけ茶々は虚無感で一杯なのかもしれない・・・などと、まんまと茶々の謎に夢中。
とどめは、いよいよ側室になることを決めた時、信繁に語る予言めいたもの。あまりに劇的な台詞なので、引用が憚られる。ぜひともオンデマンドで見てほしい。
この時の竹内結子が、ひたすら美しい。
光に満ちた中庭の満開の桜を背景にした彼女の弾力ありそうな白い肌、形のいい小ぶりでやや尖った赤い唇、緊張感に満ちた小鼻。分量や開きが絶妙な下睫毛と睫毛に覆われた湿度の高い黒目。
雷鳴、雨に塗れた桜 と演出の盛り具合も徹底していた。

19回の茶々を見ていて思い出したのは、彼女が主演したドラマで、映画化もされた「ストロベリーナイト」(フジテレビ/10年〜、映画は13年)。このドラマは、誉田哲也の人気ミステリーが原作で、少女時代に受けたトラウマを拭えない主人公が刑事となって、猟奇的な事件を解決していくもの。正義の仕事をしていながら、過去にうけた犯罪を自分の中で消化できていないため、どこか陰な血のニオイをまとっている。それがえも言われぬ色気になっていた。
「真田丸」の茶々は、竹内結子にとって、「ストロベリーナイト」の姫川玲子の系譜にあって、それをさらにスケールアップした、猟奇的役柄の集大成になるのではないだろうか。

美しき猟奇性の源泉を探る


さて、この謎に満ちた悪魔的な美しさの源泉がどこにあるかと考えた時、能面が浮かんだ。
寧役の鈴木京香も能面のような顔立ちだが、竹内の唇も能面のよう。秀吉は能を愛していて、大事な能面を所有していたので、愛する女たちが能面のような顔をしていることを想像したら楽しくなってくる。かつて黒澤明は「蜘蛛巣城」で俳優たちに能面を見せて表情の参考にさせていた。「真田丸」でもそういった手法が取り入れているのかもしれない。

19回は、このように圧倒的な茶々の存在感を中心にして、様々な女たちの運命も描かれた。
秀吉から夫婦というより戦友扱いされている寧(鈴木京香)の忸怩たる思い。側室として茶々を迎えた時のいつも以上に美しく化粧した姿(そう見えた)は、女としてのプライドが強く伝わってくるようだ。
また、家康(内野聖陽)のために間者として真田家に嫁ぐことを決意する稲(吉田羊)。
敵から逃げる途中、湖に飛び込み記憶を失いしばらく流浪の生活を送っていた松(木村佳乃)。
今回、出番はなかったものの、稲の嫁入りのために離縁されてしまう信幸(大泉洋)の妻おこう(長野里美)。
家のため、生きるため、野心のため策を弄し続ける男たちに振り回される女たちの苦しみと、それでも生きて行くある種のしたたかさを鮮やかに描く三谷幸喜。
意識してかしてないかはわからないが、何か禍々しいものを豊臣家に持ち込んでしまった茶々のぞっとするような表情は、彼女だけではなく、脈々とひどい眼にあってきた女たちが流した涙と血の巨大な集合体のようにすら感じてしまう。ヘタしたら「真田丸」の主役、最後は茶々になっちゃうんじゃないかと思うほどだ。
序盤からずっと繰り広げられている演技合戦は、こうして男と女の戦いにもなってさらなる混迷を極めていきそう。
その中で、きり(長澤まさみ)が、茶々を「怖い」と言い、彼女が信繁に送った大事なものをある方法で消滅させてしまう。コメディリリーフに徹し続ける長澤まさみも、大物だ。
(木俣冬)