非喫煙者も近づける分煙キャビン(右が清水グレン社長)

写真拡大

 職場の分煙対策はすでに多くの企業で実施しているが、単に喫煙スペースをフロアから遠い場所に設置するだけでは、非喫煙者の理解は進まない。当サイトでも度々報じてきたように、たばこ休憩で頻繁に席を立つ人に対する「さぼり批判」が噴出するからだ。

 喫煙者は余計な批判を招かぬよう、喫煙所へ行き来する時間を早歩きで短縮させ、狭いスペース内では早吸いで切り上げる。そこまで配慮をしてデスクに戻ると、今度は口臭や髪の毛、スーツについたたばこの“残臭”による二次被害を訴えられる──。

 こうなると、喫煙者と非喫煙者がお互いを理解し、共生できる分煙環境などあるのだろうかと考えてしまうが、最新の技術によってそれも可能になりつつある。

 1987年にスウェーデンで開発された「分煙キャビン」は、見た目は簡易プレハブタイプのオシャレな喫煙ブースといったイメージ。出入り口の「間仕切り」がないため、機能性は二の次かと思いきや、喫煙者で満員のブースに近づいてみると、驚くほど煙が漏れてこない。そればかりか、至近距離でもたばこの臭いすらほとんど感じないのだ。

 一体どういうシステムなのか。開発メーカーであるクリーンエア・スカンジナビアの日本法人社長、清水グレン氏に話を聞いた。

「まず、ブース内は発生したたばこの煙が拡散する前に素早く集める気流になっているため、入り口を遮断しなくても煙が外に漏れません。

 また、内蔵している特殊フィルターはニコチンだけでなく、空気清浄機では除去できないあらゆる粉じんを99.9%捕集します。これは手術室などで使われるレベルです。その機能により、洋服や髪へのたばこ臭の付着も防止できます。そして、ブース外よりもクリーンな空気を外に排出するというシステムです」

 いま主流の喫煙スペースは、四方を囲い、たばこの煙を換気によって建物外に排出する仕組みが一般的だが、換気が悪く喫煙者と一緒に煙が漏れ出すケースが多い。その点、クリーンエア製は、ブース内で煙の清浄・浄化を完結させているため、受動喫煙の心配も最小限に抑えられるというわけだ。

 これまでに分煙キャビンはヨーロッパを中心に3000社、5500台以上の導入実績を誇る。2008年より参入した日本でも自動車、電機、広告、マスコミなど、さまざまな業種の大手企業がレンタルで導入している。そして、こんな思わぬ効果が生まれているという。

「非喫煙者が安心して喫煙スペースに近づけるようになったことで、喫煙者とのコミュニケーションが生まれています。仕切りがないため、非喫煙者がコーヒーを飲みながら喫煙者と談笑したり仕事の打ち合わせをしたりすることもできますしね。オフィス内のスペースを有効に活用できるようになったと、好評をいただいています」(清水社長)

 ある導入企業では、大勢の社員がデスクワークをするフロア内、しかも管理職が並ぶ席のすぐ脇に分煙キャビンを設置したという。会社側にとっては、隔離された場所から、皆の視界に入るオープンなスペースに喫煙場所を変えることで、社員の休憩時間や健康管理が把握しやすくなるのは確かだ。

 クリーンエア社も喫煙者のためだけに商品を普及させているわけではない。

 そもそも分煙キャビンを考案したスウェーデン人消防士は大の嫌煙家で、〈非喫煙者を守る空間を作りたい〉との思いからシステム開発を進めていったという。また、日本法人の清水社長も非喫煙者。営業やメンテナンスを担当する社員の約7割は非喫煙者だという。

「分煙キャビンは、“分けるべきはたばこの煙であって、人ではない”がコンセプトです。これから東京オリンピックに向け、オフィスだけでなく街中のホテルやレストラン、その他多くのパブリックスペースで分煙対策が求められていくでしょう。

 その際、喫煙者と非喫煙者のコミュニケーションまで分断してしまうのではなく、お互いが共存できるような対策を考えるべきだと思います」(清水社長)

 いまやクリーンエア社に限らず、最新式の吸排気システムやエアカーテン技術など、分煙環境は日進月歩で進化を遂げている。また、設置にかかるコストも各自治体の補助金制度を利用すれば負担を減らすことができる。オリンピックが行われる東京都では、飲食店や宿泊施設を対象に、経費の8割を補助(300万円を限度)する制度を運用中だ。

 一方的に喫煙者を隔離・排除するたばこ対策を取ることは、感情的な対立をエスカレートさせるだけだ。喫煙者・非喫煙者双方の“心の距離”も縮められる分煙社会の到来を願いたい。