女性誌『Suits WOMAN』で注目を集めた「貧困女子」。これは普通の毎日を送っていたのに、気がつけば“貧困”と言われる状態になってしまった女性たちの体験談。

今回お話を伺ったのは・亀井敦子さん(仮名・36歳)。アート系の短大を卒業し、1年ほどアメリカに留学します。どんなことを学んだのか、具体的に教えてください

「親のお金で遊んでいたと言うのが実情です。親が子どもの頃から私のために貯めていてくれたお金が300万円くらいで、アートスクールに行きました。私は父がアメリカ人なので、留学したいと言ったときは、両親も喜んでくれました。仕送りも含めると全部で500万円くらいかかったと思います」

どんなことを学んだのか、何を感じたのかを何度も聞きだしても、思い出せない様子。アート系というから、好きな画家、作家などを聞いても要領を得ない。まずは敦子さんのキャリアについて伺いました。

「22歳で帰国して、大手のレコードストアの店員になりました。アメリカ留学時代に日本の女性差別(女性は主婦になれ、子供を産まねばならないなど)の実情について、心の底から憎しみを覚えたので、とにかく男には負けたくないと思って仕事を頑張りました。誰よりも豊富な商品知識や、音楽経験を重ねて行っても、所詮私はバイトの女の子、と思われるのが悔しくて。給料も激安(時給900円)でしたが、28歳までの6年間、ときには過労で血尿が出るほど頑張りました」

敦子さんが“頑張った”と胸を張る内容について、また細かく聞こうとすると、固有名詞が出てこない。敦子さんは当時、大手レコードショップで、クラシック売り場を担当していたと言うから、作曲家と指揮者の組み合わせについて、録音についてなどいろいろ聞き出そうとしても、何ら固有名詞が出てこない。そこで、辞めた理由について伺ってみました。

「CDが売れなくなって、店舗が閉鎖されたんです。私より仕事ができない子たちが、みんな他の店舗に移動したのに、私は解雇要員に入っていたのがショックでたまりませんでした。当時の待遇は契約社員で、月収は18万円くらいだったかな。土日に出勤したり、いろいろ頑張ったのに。一番ショックだったのは、私が当時付き合っていた彼が別のレコードショップに転職し、そのままフェードアウトしたこと。メールもブロックされました。彼のことがどうしても許せなくて、家に行って奥さんに密告。最初、奥さんは取り合いませんでしたが、メールや手紙で奥さんに二人の間にあったことを報告していたら、結果的に二人は離婚したようです」

貧困状態にある女性と話していて感じるのは、世の中的に“ダメ男”と言われている男性とディープな恋愛をする傾向があること。不倫、モラハラ、DV……、敦子さんは女性問題について意識が高いのに、女性で自分の自意識を満たそうとする男にばかりひかれてしまうと言います。

メンターっぽい役割をしてくれる男性に弱い

「その彼は私の15歳年上で、当時43歳だったかな。中学生の子供がいて、クラシック全般に詳しくてホントにカッコよかったんです。細いデニムを穿いて、背が高くて……ミック・ジャガーを日本人っぽくしたら彼になると思います。最初、“僕はバツイチだよ”と言うから、恋愛関係になりました。しかし、後で同僚から“あの人の奥さん、ピアニストなんだけど、すごくカッコいいんだよ”と言われて、既婚者だったんだとビックリ。奥さんのことがどうしても気になって、こっそりライブに行ったら、普通にダサいオバサンでしたが、ピアノは上手でしたね」

敦子さんはライブに言った時、ファンを装い彼女から住所を聞きだす。そして、その翌日の休みを利用して、彼の自宅を突き止める。そこは、小田急線の柿生駅(神奈川県)から徒歩20分の住宅地にある小さな一戸建てだったと言います。その、あまりの質素な生活ぶりに、憐れみを覚えた敦子さんは、彼のために、食事なども献身的に世話を焼いていたとか。

「すき焼きが食べたいと言えば私の家で用意し、ビール、ワインなどもウチで用意して、一時期はウチに入り浸っていました。私は彼にいくら使ったんだろう……そういうことを2年ほど続けたのに、あっさりフェードアウトするから私だって腹が立ちますよ。離婚して当然だと思います。でも、離婚しても私には何の連絡もなかったんです。これが悲しいですね」

ほかにも、敦子さんは貢ぎ体質。恋愛するのはいつも自分より5歳程度年上の男性ばかりだと言います。

「私、ハーフじゃないですか。いやハーフという言葉は世界的に差別用語なので、使いたくないのですが、あえてハーフと言いますね。しかも欧米系の白人とのハーフだから、美人とか、英語がペラペラとか、海外に行きまくっているというイメージを持って、勝手に良いように想像するんです。同世代の男性のほうが、そういう風に判断する傾向が強く、ホントに腹が立ちます。でも、年上の人は、そういう色眼鏡で私を見ない。私をひとりの女性として、愛してくれるんです」

サブカル好きの年上の男性が好き、という敦子さんのような女性は意外と多い。「あなたは変わっている」「特別でユニーク」などの言葉をかけられると「私のことを分かっているのはこの人だけ」と思ってしまうとか。

貢ぎ体質、36歳の敦子さんは、瞬間湯沸かし器のように常に怒り狂うメンタリティーの持ち主だった。〜その2〜へ続きます。