4月クールのドラマで女性視聴者に人気の「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」(TBS)。中谷美紀さんが39歳独身の医師“みやび”をコミカルに演じ、藤木直人さんが扮する和風割烹のオーナーシェフ・十倉が繰り出す恋愛指南も面白いと評判です。さらにヒロインと関係を持った13歳下の“フェアリー男子”・諒太郎を瀬戸康史さんが演じ、そのかわいらしさに“キュン死”する視聴者が続出。TwitterなどのSNSでタイトルを“できしな”と略して呼ばれるほど盛り上がっています。

恋愛マニュアルが原案のドラマ

このドラマには原案本がありますが、小説ではなく、『夢をかなえるゾウ』の水野敬也さんが書いた恋愛マニュアル『スパルタ婚活塾』(文響社)。この本の中で水野さんが読者の女性に熱く語りかけるメッセージが、ドラマでは十倉のセリフとして使われています。

ヒロインに語りかける、名セリフ集

「お前は今や、美人・キャリア・アラフォーという3拍子そろった恋愛弱者だ! 勝ち組気取り、常に値踏みを繰り返す女を男は選ばない」(第1話)

「理想の男性と結婚するために、必要なのは容姿や若さではない。真実と向き合う勇気である」(第2話)

「(男性がプロポーズしない理由は)、『結婚はまだ考えられない時期』でもない。お前が“その相手”じゃないから! それだけだ!!」(第5話)

藤木直人が手取り足取り婚活指南

©TBS

このように十倉は男の目線から“みやび”にビシバシと厳しい現実を突きつけます。どうやら十倉はかつて自分の本を出したこともある実業家で、“みやび”を実験台にしながら恋愛指南の本を書くつもりのよう。「もしかして、十倉がやがて原案本の著者である水野さんのようになるのか?」と想像させる面白い設定で、ノンフィクション本をフィクションにうまくアレンジした脚色が光ります。

番組公式サイトやネットの掲示板には、“みやび”と同世代の独身女性が十倉の恋愛レッスンをうらやましがる声も。

「毒舌イケメンの藤木さん。私もこんな師匠がほしい!」

「実際の婚活では、男性の本音が聞けないから、すごく参考になる」

「私はヒロインみたいな美人でも高収入でもないけれど、十倉のように親身になって教えてくれる人がいたら、もっと婚活をかんばれそうな気がする」

などと、コメディとして楽しみつつ、真面目に婚活の参考にもしている様子。男性に突き放されるよりは、厳しくても本音を言ってほしいということでしょうか。ただし、相手は藤木直人に限る!?

『タラレバ娘』『Around 40』に通ずる面白さ

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漫画でも、現在100万部を突破しているヒットシリーズ『東京タラレバ娘』(東村アキコ作・講談社)に、30代のヒロインたちにダメ出しするイケメン・KEYが登場します。こちらも独身女性を「だから、あんたたちは……」と全否定しますが、それがウケているのですから、これはドラマだけの現象ではないのかもしれません。

そもそもアラフォーのイタさを笑いにするという路線は、同じTBS制作の「Around 40〜注文の多いオンナたち〜」(08年)が開拓しました。このドラマでは、天海祐希さん演じる精神科医の聡子が39歳にして結婚を意識。同窓会で自分だけが結婚の波に乗り遅れたことを実感し、結婚相談所に駆け込むという序盤の展開は“できしな”と似たパターンです。しかも、聡子に「独身女性は不幸だ」などと言う臨床心理士・恵太朗を演じたのは、十倉役の藤木直人さんでした。恵太朗は最初こそ聡子に反発しますが、終盤では聡子にプロポーズ! “できしな”でも、結婚生活に破れた十倉が、“みやび”の恋愛相手になるという展開は充分ありえます。

やられっぱなしではないヒロイン像

ヒロインたちも男性のダメ出しを黙って聞いているわけではありません。「Around 40」の聡子は「どうして結婚していないと不幸だと決めつけるの? 私は幸せよ」と反論します。“できしな”の“みやび”も初めて十倉にダメ出しされたとき、

「どうして女はみんな結婚したがっていると思いたがるのかな? そう思うと安心する? 女を型にはめることで優越感を覚えるご自分の心の闇を見つめなおしたらどう?」

と見事なタンカを切ります。このセリフには、新井順子プロデューサーと脚本の金子ありささんという女性スタッフの意見が反映されているよう。原案の水野さんによる男性目線とそれを受ける女性の視点。その両方が入っているからこそバランスが取れ、共感を呼んでいるのでしょう。なぜなら、ダメ出しする男も、それに反発する女も、実際に婚活市場で出会うときとは違って、これ以上ない本音を相手に突きつけているから。その現実ではなかなか味わえない痛快感が、このドラマの最大の魅力になっていると思います。

©TBS

金曜ドラマ「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」
TBS系にて 毎週金曜よる10時〜10時54分

(小田慶子)