写真提供:マイナビニュース

写真拡大

押井守監督最新作『ガルム・ウォーズ』が5月20日より公開される。日本屈指の鬼才が長年企画を温め続けた本作では、日本語版プロデューサーをスタジオジブリの鈴木敏夫氏、宣伝コピーを人気アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』脚本で知られる虚淵玄氏が担当することも話題を呼んだ。

日本語版・プロモーションだけではなく、本作の制作には、各ジャンルで日本を代表するスタッフ陣が集結している。一流のクリエイターたちは、なぜこぞって押井作品に参加するのか? 『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)をはじめ、数々の押井作品で楽曲を手がけた作曲家・川井憲次氏と、『千と千尋の神隠し』(2001年)など多くのジブリ作品で音響監督を務め、押井作品には『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』などに参加している若林和弘氏。音楽面で『ガルム・ウォーズ』を支えた2人に訊いた。

――当初企画はいつごろからあったものなのですか?(『ガルム・ウォーズ』は一度企画が始動したものの、予算面などの問題で中断。10年以上の時を経て公開となった)

若林:『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』が1995年ですから、その翌年の1996年くらいですね。まだその段階では話が来たというレベルではなく、押井さんから「こういうものを作りたくて、試しにフィルムを作ってみるから、音を付けて」と依頼がありました。そのパイロット版が実写特撮版とアニメ版があったので、結果2パターン作りましたね。

――それが再開になるという話が、川井さんのところに来たのが2012年なんですね。

川井:押井さんの場合は、だいたい麻雀やりながら頼まれるんです。「7月って空いてる?」みたいな感じですね。「どういう感じなんですか?」「ガルムなんだよね」「で、どんな感じですか?」「う〜ん、まあおいおいね」ってやりとりがその場であり、そのまま話が終わって、"おいおい"というのが永遠に来ないという(笑)。企画も、最初に作ったものの時から、お話の設定がよくわかってなかったんですよね。何もわからないままスタートしていたので。

若林:覚えているのは、ライフルを撃つと玉が炸裂して針がささる。そして、デッカイやつが来てみんなをやっつけるという設定ですね。脚本を読ませてもらったわけではないので、どうしてこうなったのかという話の流れはわかりませんでした。いつも「こういうのがやりたい」って説明だけですから。

川井:基本的に世界観をきちんと説明してくれることはないですね(笑)。

若林:『ガルム・ウォーズ』は当初からいろいろと変わったこともあり、さらに企画のスタートと再開の間に作ってきた作品とテイストを変える必要性があったことから、音響面は一からの制作でした。

――制作を進めるに当って、大変だったことは何でしょう。

若林:犬が邪魔で邪魔で(笑)。緊迫した戦闘シーンなのに犬が走っているので、「切らないの?」って提案はしたんですよ。もうちょっと少なくてもいいのかなと。あのグラという犬は、物語上すごく重要な要素ではあるんだけど、重要なものを重要にしすぎている気がして。"ふりかけ"のつもりが、"ダシ"にもなっちゃってる印象があったので。

――それでも要求に応えたくなるというのは、押井さんだからなのでしょうか?

川井:(押井さんの)映像や発想からインスパイアされることは多いんです。作品作りの中でも、新しい音など実験的なことをやらせてくれる。「ここをこんなふうにしたらかっこいいな」とか。そして、その"かっこいい"を共感できるからやりやすいというのもあります。

若林:そのあたりの価値観が共有できるからやっていけるというのはありますよね。音響側でいうと、映像の尺を長めにくれるので、音の構成をいろいろ考えられるというところがあります。

アニメーションもそうですけど、デジタル化してからの作品はアクションでもなんでも、やろうと思えば無理やりでもつなげることができてしまう。結果として音が飽和してしまっているんです。なんでも全部が入った鍋みたいになって、音の表現の差異が図れないんですよ。表現の差異でいうと、「ある作品の音がかっこいい」となったら、みんなそっちに流れていってしまうという問題もあります。

川井:押井さんの場合はそういう一般的な演出がないので、それは非常にいいですね。毎回ハンドメイドで、『イノセンス』(2004年)ではオルゴールの板を作ったこともありました。

若林:作曲家にオルゴールディスクの制作からさせてたもんね。

川井:茅野まで行きました(笑)。でも、そういうのが自分にとっても楽しいんですよ。ほかの仕事ではそんなリクエストは来ないですから。「○○みたいに」っていうのがないんです。やっぱり「○○みたいなものを作ってください」って言われると萎えますから。

作品によっては、監督やエディターがテンプミュージックを付けてくる場合もあります。それ自体はいいところも悪いところもあるので置いておいても、作曲家はそのイメージに引っ張られちゃうんですよね。押井さんの場合はそれが一切なくて、素の状態から作れるんです。

若林:一番悲しいのは、絵のカッティングがテンプミュージックに合わされちゃっていたりすることですね。そうなってしまうと、そのリズムじゃないと合わなくなってしまって、監督の意図するもの、僕たちが意図するものとは別のところで切るための基準のものさしができちゃう。

――本作でチャレンジした要素はありましたか?

若林:音響では、もちろん今までのやり方を踏襲しつつ、スカイウォーカー・サウンドのトム・マイヤーズとカナダのメンバーを加えたチームワークでやってみるという体制面のチャレンジがありました。声の収録などに関しては僕も把握していないところがあって、そこは佐藤(敦紀)さんが副監督として立たれていました。並行作業の後に合体させて、出来上がったものを僕と監督がトータルで見るという感じでした。

川井:押井さんの作品は楽器から入るケースが多くて、その楽器を核にして曲を作り上げていくパターンが多いんです。押井さんは金属を叩くのが好きなので、新しい楽器を作ろうという話を最初にしていました。当初は、大きなお椀型の鉄板を2個重ねたものを作ろうという考えがあったのですが、搬入・予算・技術面などで実現はどうやら難しそうだと。

そこでいろいろ探していたら、円盤型の「ハピドラム」という楽器がイメージに近かったので、浅草へ大量に買いに行きました。ピッチが合わなかったので、ヤスリでこすったりとハンドメイドで微調整を加え、押井さんに聞かせたところ「いい音だね」という反応だったので、これをベースにしていこうと。劇中では「ハピドラム」の音が全般的に使われています。

『ガルム・ウォーズ』では、国がもろに感じられる楽器はNGだと思いました。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』でも、曲は大和言葉で歌っていても、あれが日本のものだと思う人はそんなにいないと思うんです。「無国籍料理の初めて食べる一皿」というふうに感じてもらえればいいなと意図して作っています。

――確かに、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』も今回の『ガルム・ウォーズ』も、ありえないけれどもどこか現実味を感じる世界観が表現されているように感じます。

若林:現実と違うからといって、あまりにかけ離れたものばかりやってもお客さんは離れてしまうと思うんです。ですので、重い・痛い・硬いとか大きい・小さいなど、一般の感覚でも共有できたり体感できたりするものを作るところに尽きるのだと思います。押井さんは、冷たくて硬質な世界観が好きで、「そこにひと欠片の温もりがある」という描き方をするのですが、そういう世界の中でも肌の温度は保ちたいなと。

――作家性の強い監督というと、すべてに監督が考えたものが優先される印象なのですが、押井監督はそうではない?

若林:信頼できる人間に関しては話を聞いて、協力してくれますね。

川井:ストライクゾーンが広いんですよ。監督によっては、「こうじゃなきゃ」って人もいます。そういう人の場合は、答えが監督の頭の中にあるので、こちらはそれに近づける作業をしていき、できたものをOKとするか妥協するかという話になっていく。

押井さんの場合は、少しずれたものに対してもっとポジティブにとらえていて、大枠の中に収まっていればいいという感じですね。そして、こちらが出したものに対して、「そっちがそう来るならばこうしてみよう」と考えてくれるので、作る方は本当にやりやすいんですよ。

若林:そういうところで人が集まるのかもしれないですね。そんなところがクリエイターから愛されるところだと思います。押井さんには作品の核とするものがあって、僕たちが作るものはそこから広がっているものであればいいんです。

川井:曲に関しても、コンセプトからかけ離れていなければNGが出ることはめったにないんですよ。もちろん、こちらの作っている曲が押井さんの考えを完全に再現できているかは疑問ですが、押井さんにはそれを受け入れてくれる広さがある。「かっこよきゃいいじゃん」というところに尽きるんです。

――川井さんと押井さんの間で共有されていた"かっこよさ"とは?

川井:"迫力"ですね。それは強い・弱いではなく、静かな曲でもコミカルな曲でも"迫力"は必ず必要なんです。決してホラー的ではない怖さですね。

僕が思う押井さんのすごさは、作品で描くある種の「残虐性」だと思っていて、そこに色気を感じます。『ガルム・ウォーズ』でもそういうシーンが描かれていて、そこでは悲しい音楽ではない、しかし"映像の迫力"を出すための音楽を作ってみました。そこがまさに押井さんならではだと思うので、僕が削った「ハピドラム」の音とともに注目していただければうれしいです。

(C)I.G Films

(公文哲)