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「Appleが2年以内に音楽のデジタルダウンロード販売を完全終了させる準備を進めている」と、Digital Music Newsが報じたのが先週話題になった。すぐにAppleが噂を否定して沈静化したが、最初に話題があっという間に広がったのは「あり得る」と思った人が多かったからだ。理由は、米国におけるミレニアルズの台頭である。

Pew Researchによると、米国勢調査局の最新の人口推定でミレニアルズ(18歳〜34歳)が7540万人で、ベビーブーマー(51歳〜69歳: 7490万人)を抜いて、米国で最多人口の世代層になった。米国生まれだけではなく、若い移民の増加がミレニアルズの伸びに拍車をかけており、これからも増加を続けてピークは2036年、8110万人になると予測されている。

ミレニアルズは、上の世代と価値観が大きく異なる。リーマンショックと景気低迷の直撃を受け、就職氷河期が長く続き、学生ローンの重圧と戦ってきた世代である。現代の米国で最も貧しい世代とも言える。他の世代に比べると倹約に努め、「コーヒー」以外は上の世代よりも出費が少ない。「老後の不安」を深刻な問題として捉え、自分の力だけではどうにならないと、一部の突出した富裕層が支配する社会ではなく、富がもっと公平に再分配される社会を望んでいる人が多い。

これまで長く米国ではベビーブーマーの発言力が強かったが、それをミレニアルズの声がしのごうとしている。もうミレニアルズは、単なる「変わった世代」ではなくなった。たとえば、大統領選挙の民主党候補の指名争いにおけるバーニー・サンダース旋風である。マスコミがノーマーク状態だったサンダース氏がヒラリー・クリントン候補を猛追したのは、公立大学無償化など格差是正を訴えるサンダース氏の持論を若い層が支持したからだ。

マーケティングの観点からミレニアルズの特徴を挙げると、モバイル世代(スマートフォン)であり、テクノロジの活用を好む。エクスペリエンス重視。所有するよりも、共有のメリットを活用(Netflix、Uber等々)。倹約家だが、持つ物には高い質を求める。社会的ステージよりも、家族やコミュニティなどライフグループを重視。

たとえば、直接的にモノを売りつけるような広告を嫌う。ポートランドにPolerという人気の高いキャンプ用品メーカーがある。Webサイトを見ていただけると分かるが、PolerはInstagramなどを活用し、キャンプで実際に製品を使用しているコンテンツを多用してマーケティングしている。商品そのものよりも体験を売っている感覚であり、そんな姿勢が商品の質の高さも相まってミレニアルズに好まれている。

冒頭の噂に話を戻すと、現状のApple Musicがミレニアルズの感覚に響くソリューションになっているかという議論は置いておいて、ミレニアルズを音楽を楽しむ層の主流と見なすなら、少なくとも従来のデジタルダウンロード販売はミレニアルズのライフスタイルにフィットするものではない。

○投資の神様がなぜ今Apple株購入?

ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社Berkshire HathawayがApple株を取得したことが明らかになった。実際にApple株を購入したのは、バフェット氏ではなく、Berkshire Hathawayのファンドマネージャーのようだが、それでも投資家たちに衝撃が広がった。というのも、この投資の神様は極めて保守的な投資戦略で知られるからだ。まず分からないものには投資しない。そして魅力的な価格水準で、長期的に安定して伸びそうな企業を好む。だから、事業内容が理解しづらいテクノロジ企業で、すでに時価総額トップを争うほど高騰し、iPhoneがピークを過ぎて下り坂と言われるAppleは同氏の哲学に合わない……はずだ。では、投資の神様が心変わりしたのかというと、そうではないと思う。

先週「Profit or purpose? You can have both (利益、それとも目的? どちらも手に入れられる)」というジュリー・ハンナ氏の記事が話題になった。同氏が会長を務める非営利団体Kivaに、シリコンバレー企業のエグゼクティブを辞めて転職してきた男性の話から始まる。年収は激減だ。しかし、高い収入を得ることが目的なら別だが、高収入で目的が満たされるわけではない。力をつけ、つけた力を目的達成のために再投資する。それが、いずれ自分にとっても、社会にとっても大きな利益につながる。そのような価値観を持って実践する人が多いのがミレニアルズの特徴だという。

企業観も同様だ。「素晴らしい企業は、たくさんのお金を稼ぐから素晴らしいのではない。素晴らしいと認められた企業がたくさんのお金を稼げる」(ハンナ氏)。ミレニアルズは大企業を嫌っているのではない。株主の利益だけを追求したり、富を独占して社会に広く再配分しない企業を嫌っている。見方を変えると、大企業であっても、しっかりと社会貢献している企業は評価する。

Appleは前回のスペシャルイベントで、製品の発表以上に、プライバシー保護、先進的なリサイクル、医療研究や治療をサポートする取り組みを強くアピールした。イベントの前には、ユーザーのプライバシー保護を巡ってFBIと対立している。iPhoneの販売台数を伸ばすことも大事だが、問われるのは、5年後、10年後。その頃に社会を動かすミレニアルズの価値観に応えられる種まきをしているかだ。それができれている企業が、ミレニアルズ世代のブランドとして生き残る。そのように考えると、バフェット氏が率いる投資会社Berkshire HathawayがApple株を大量取得したのも納得できる。

(Yoichi Yamashita)