モデル、小説…“多彩すぎる”活動

小説2作目にして山本周五郎賞にノミネートされ、「僅差で受賞を逃した」と報じられた押切もえ。この報道で「押切もえって小説を書いてたんだ!?」と初めて知った人も多いのではないだろうか。

押切は、90年代にギャル誌の読者モデルとしてデビュー。その後、『CanCam』から『AneCan』(共に小学館)の専属モデルとステップアップし、小説家デビューは2013年。2015年には、絵画が二科展に入選した。そのほか、おしゃれな作業着で農業に取り組んだり(2015年にすでに行っていないことを告白し叩かれた)、ゴルフ、ヨガ、陶芸、気功、ダンス、座禅、トランポリンなど20種類以上の趣味を楽しんだり、温泉宿やマンションをプロデュースするなど多彩すぎる活動をしている。

プライベートでは、2016年2月に、千葉ロッテマリーンズの涌井秀章投手との交際を無断で公表し、謝罪するという騒動があった。押切と同い年の36歳でモデル仲間の蛯原友里は、RIP SLYMEのILMARIと結婚し、1児の母となり、『Domani』(小学館)で専属モデルとして活躍している。その実直ぶりとしばしば比較され、押切のことを「迷走している」「イタい」と揶揄する声もあるようだ。

迷走ではない、堅実なのである

近年、モデル出身の女優やバラエティタレントがあまりに多すぎて、「モデル」と聞くと「腰掛け」というイメージが漂うようになってしまった。モデルから女優、あるいはバラエティタレント、その次は結婚→出産→ママタレと出世コースがすでにできている。芸能人も安定志向が強くなり、「有名になりたい」「スターになりたい」だけではなく、その後の身の振り方まで考えなければならない時代なのである。

押切は、タレントコースを進みながらも、文化系に手を伸ばすことに成功した。これは「迷走」ではなく、「堅実」だ。タレント1本に絞れば、いつか必ずネット民に「劣化した」「オワコン」「イタい」とヤジられる日が来る。その日は遠くはないだろう。しかし、押切には小説がある。小説がダメなら絵がある。文化系の技能は、“劣化”を“進化”に、“オワコン”を“闘魂”に、“イタい”を“深み”に変えることができる。押切は迷走なんてしていない。芸能界という茨の道に「アガリの道」を自ら作り、着々と歩みを進めているのだ。

不遇の時代に熟成した思いをネタに

押切の創作の原動力となっているのが、不遇時代だ。2009年に出版したエッセイ『モデル失格 幸せになるためのアティチュード』(小学館新書)は、いきなりこんな文章から始まる。

「太宰治の小説『人間失格』を読み返すたびに、思うことがあります。弱さゆえに転落していく主人公の人生と、私のモデル人生には、どこか似ているところがある、と」

そこから挫折と苦労話が綴られる。成り上がり者ほど挫折と苦労と努力と夢の話が好きだ。押切もしかり。といっても、生い立ちがとてつもなく不幸とか、何十年も辛酸をなめ続けたとかいう話ではない。女子高生が遊び感覚でモデルを始めてプロの世界に入ったら、その意識の甘さにオーディションに落ちまくり、所属事務所が解散し、仕事がなく日雇いの日々……といった実質2年ほどの“不遇”である。

それをネタに、押切は「どんな挫折や苦しい状況も、必ず乗り越えられる」「その乗り越え方次第で、人間はいくらでも挽回できるし、成長できる」と説く。イッパンジンから見ると、「そんなのいま成功しているから『挫折』と振り返れるだけ、こちとらその緩い坂道を登ったり下ったりする生活を10年、20年、30年と続けているわけで、それは挫折でも不遇でもなくただの日常なんだよ……」とボヤきたくもなるが、それはさておき“不遇の時代”に感じた悔しさ、鬱屈した思い、そこに差した一筋の希望の光を小説という形で昇華させた点には拍手を送るべきだろう。

「女性たちの希望と挫折、夢と転機、そしてささやかだけれど確実な奇蹟」(新潮社ホームページより)に彩られた、山本周五郎賞候補作『永遠とは違う一日』(新潮社)の出版時には、押切は次のように語っていた。

「大切なのは『努力する才能』なのかもしれないですね。天才と言われる人は努力を惜しまない方々がほとんどと聞きます。だからこそ、努力はすべての才能につながると、私は信じています。トーマス・エジソンが努力家だったということも小さい頃に学んでいるはずなのに、大人になるにつれて忘れがちになってしまったり、誰かが作った幸せに自分を当てはめようとしてしまうんですよね。だから、『自分ってこんなもんかな』って思い込んでしまう。今回の本を通してそこをほぐしてほしいと思いますし、私自身が掛けられたい言葉や思いも詰まっています」(「マイナビニュース」2016年2月27日)

ここでエジソンの名を出せるのは、押切もえとちびまる子だけ! 原石とも岩石とも判別つかない女子高校生が、美しいドレスを着て別人のように生まれ変わり、読モからモデルへと順調にコマを進め、小説を執筆。不安定時代のシンデレラストーリーを押切が体現している。今後どんな道を進むのか……大して気にならないが、そうして油断している間にとんでもないところに飛んでいってそうな感じがする。事実は小説よりも奇なり。

(亀井百合子)