『恭一郎と七人の叔母 (文芸書)』小路 幸也 徳間書店

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"七人のおば"と聞けば、思い出されるのはパット・マガーの名作ミステリーである。結婚して夫のピーターと英国に渡ったサリーは、友人のヘレンからの手紙で自分のおばが夫を毒殺して自殺したことを知らされる。しかし。サリーにはおばが7人もいるのだが、手紙にはどのおばが事件を引き起こしたかは書かれていなかったのだ...!

 というわけで、『七人のおば』(創元推理文庫)ではサリーがピーターにおばたちについて語りながら7人のうち誰が犯人なのかを探っていくミステリーとなっている。一方、『恭一郎と七人の叔母』では小さな謎はあるものの、主人公・更屋恭一郎とその叔母たちのさまざまなエピソードが綴られた家族小説としての趣が強い。 

 恭一郎の母親は8人姉妹の長女・さき子。恭一郎がおなかにいる間に恭一郎の父親である夫が亡くなってしまい、造園業を営む実家に戻ったさき子は両親に加えて7人の妹たちと再び同居することに。以下、姉妹のプロフィール(年齢は恭一郎が生まれたときのもの)↓

長女・さき子(20歳)
次女・志乃子(19歳)
三女・万紗子/四女・美津子(17歳・双子)
五女・与糸子(15歳)
六女・加世子(12歳)
七女・貴美子(10歳)
八女・末恵子(7歳)

↑壮観である。いまどきの核家族的傾向からしたらゆうに二家族分くらいあるし、昔であっても女の子ばかり8人というのはそうそうなかった家族構成ではないか。

 もちろんこれだけの人数がいれば何かしらのトラブルが起きないわけがない。本書は10のパートに分かれているが、ほとんどのパートの冒頭には「その七人の叔母たちの、母を含めて八人姉妹の微妙な関係性にふと気づいたのは、恭一郎が中学一年生のお正月だ」という趣旨の一文が掲げられていることからもわかるだろう。とはいえ、本家『七人のおば』におけるおばたちの間での軋轢にくらべたら穏便なもので、せいぜいこの叔母とこの叔母はそりが合わない、この叔母はこの叔母に対してジェラシーを感じている、といった程度のものだ。多少のもめごとはあっても基本的にはなかよく暮らす大家族、それが更屋家の面々だ。

 そして、この更屋家をまとめていたのが実は恭一郎の存在だったのではないか。上にあげた恭一郎出生時の姉妹たちの年齢からおわかりいただけると思うが、年長の叔母たちにとっては近い将来自分が家庭を持ったときのモデルケース的に、年少の叔母たちにとっては単純に弟ができたような気持ちで、恭一郎はかわいがられてきたと思う。そのかいあってなのか、恭一郎はまったく手の掛からない子に育ち、学校に通い出す年齢になってもそれは変わらなかった。「女の子同士の話題や考え方にも自然についてこられて、周囲に細かく気を配」ることのできる性格。姉妹のいる男子の方が女子の気持ちがわかるとはよく言われることだが(男の子三人兄弟の我が家の息子らなどは言語道断レベルということだろうか?)、叔母が7人となれば半端ではない人材の豊富さだ。恭一郎は叔母たちを助け、叔母たちによって恩恵を与えられるという、幸福なギブアンドテイクの形がそこにあったに違いない。更屋家では今日も叔母たちをめぐるちょっとしたトラブルが起こり、相談に乗る恭一郎の姿がある...。

 欲を言えば、ひとつひとつのエピソードについて「あれ、もう終わり? もっと読みたい!」感があるので、ぜひ続編を書いていただければと思う。せっかくキャラの立った叔母たちが何人も登場したことだし。著者の小路幸也氏といえば、代表作のひとつである〈東京バンドワゴン〉シリーズ(集英社刊)が10周年を迎えたばかり。こちらも下町の老舗古書店を舞台に、何世代にもわたる堀田家の人々がさまざまな謎や事件を解決する物語だ。世の中には"館もの"作家の綾辻行人氏や"叙述もの"作家の折原一氏などいろいろな得意分野をお持ちの方がおられますが、小路さんにはぜひ"大家族もの"作家として〈七人の叔母〉シリーズの方にも力を入れていただきたいです。

(松井ゆかり)