『音楽に自然を聴く (平凡社新書)』小沼 純一 平凡社

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「となりで眠っている人が寝息をたてています。
 吸って、吐いて、と規則的にたてている。ときどきふっとおさまって、しばらくほとんど聞こえなくなる。また始まって、今度はちょっと大きくなったり、そのうちまたもとに戻ったり」(書籍『音楽に自然を聴く』より)

 何とはなしに耳に入ってくる他人の"寝息"の音。一度意識しはじめると、しばしの間、その規則的で穏やかな呼吸の音に耳を傾けてしまう、といった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

 同時に、そうした寝息をきいても、それが音楽だとは思わないはず。しかし、息を吸って吐くという、寝息に見受けられるような呼吸の循環は、音楽とつながっているのだといいます。

 ひとつのフレーズやパターンが呼吸の周期のなかでつくられたり、逆に、ふつうの呼吸としては短かったり長かったりするものの、鳴っているフレーズに呼吸を合わることができたりと、人の奏でる音楽の多くは呼吸とつながっている――本書『音楽に自然を聴く』の著者で音楽評論家の小沼純一さんは、そう言います。

声によるうた、息を吹きこんで発音する管楽器による吹奏といったものが、呼吸と直につながっていることは想像に難くないですが、弦楽器や鍵盤楽器においてもまた、弾いている人が呼吸を意識しているか否かによって演奏は違ってくるのだそう。「長いフレーズ、ぱらぱらとくりだされるこまかい音の奔流といったものも、一息で大きくとらえると、そのままふっとからだのなかにはいってきたり」(本書より)するのだといいます。

 本書では、人間の呼吸をはじめとする、身の周りにあるさまざまな音に注目。そうした音と音楽とのつながり、そして音をきくという行為そのものについて思考を巡らせていきます。

「音楽はいろいろなところにあります。
 音楽はわたしたちひとりひとりが耳をかたむけるとあらわれてきます。
 持ち運べるデヴァイスがあるから、メディアがあるから、電波がとんでいるから、ということはあります。でもわたしたちのからだや想像(力)をとおして、音楽は姿をあらわしてくるのです。そして、まわりの世界は音楽への志向を潜在的に持っています」(本書より)

 寝息、楽器、虫の音、水や紙の発する多様な音......それぞれがどのように響き、きこえてくるのか。普段何気なく耳にしていた音、音楽をいつもとは違った角度からとらえるきっかけを与えてくれる一冊となっています。