一頃より、客の入りもよく、人気回復著しいように見える大相撲。様々な改革が図られているのだろうが、昔からの慣習の中にもハッとさせられるというか、改めて感心させられるものもある。
 
 十両の取り組みの後に行われる幕内力士の土俵入りだ。東西に分かれた平幕から大関までの力士たちが、土俵に上がり、拍手を打ち、右手を挙げ、化粧まわしをつまんだ後に両手を挙げるーーというこの儀式。初日から千秋楽まで15日間、毎日繰り返し行われるのだが、これは早い話が、顔見せの入場行進だ。場内アナウンスに四股名が読み上げられるや、場内から拍手が湧く。そのボルテージで、人気の程や好調さをうかがい知ることができる。と同時に、別の情報も手に入れることができる。場内アナウンスが四股名とともに読み上げる出身都道府県と所属部屋だ。「○○県出身、○○部屋」。
 
 所属部屋がそこそこの通に向けた情報であるのに対し、出身県は万人向けだ。さほど相撲に興味がないファンにも高い訴求力がある。不意に自分の出身県が読み上げられたことを機に、その力士に関心を抱くようになったという経験がある人はいるはず。
 
 出身都道府県。これはスポーツ観戦をする上で重要な情報だ。スポーツ観戦に限った話ではない。何かに関心を抱くきっかけとして欠かせない要素だ。先日見に行った映画で主役を演じていた若手女優さんが、実は僕と同じ出身県だったことを、後に知ることになったのだが、そう言われてみると、少し胸を張りたい気分というか、何か得した情報を得たような気分になるから不思議だ。出身県に対する愛着が希薄だと自認する僕でさえそうなのだから、潜在的に高い郷土愛を持つ一般の人は、それ以上であるに違いない。
 
 大相撲の場内アナウンスは、実際の取り組みの際に、さらに細かな情報を提供する。「○○県」に加え「○○市出身」まで告げてくる。グイグイと郷土愛の掘り下げにかかろうとするわけだ。大相撲が根強い人気を誇る理由を見る気がする。
 
 郷土愛に訴えかけようとするイベントと言えば、甲子園の高校野球の右に出る者はいない。しかし、プロ野球を伝えるメディアが、そこに気を掛けているか、こだわりながら報じているかと言えば疑問。怪しい気がする。字幕のデータに出身高校や出身県が必ず記されているかと言えば、ノーだ。字幕データではなく、実況アナと解説者のやりとりを通して、その投手の高校時代の活躍を初めて知ることはよくある話。甲子園で活躍した選手が、大卒でプロに入って来た時、字幕のデータに大学名のみを出されても、ピンと来ないのだ。一般のファンに、大学時代の活躍と高校時代の活躍を関連づけられる人は多くない。一部の通に限られる。
 
 明治大学出身とか、早稲田大学出身とか、大学名で心を動かされる人も少なからず存在するとはいえ、出身高校、出身県には絶対数で大きく劣る。
 
 サッカー界も似たり寄ったりだ。Jリーグや日本代表戦を伝えるメディアも、そうした認識に欠ける。特に求められるのはテレビになるが、煽るのは代表愛やナショナリズムばかりで、郷土愛は軽んじられている。郷土愛はJリーグの発展に不可欠な要素だというのに、だ。

 WOWOWで放送されているスペインリーグ。その交代で投入される選手の字幕データに目を凝らせば、カタルーニャ自治州、マドリード自治州など、出身地が記されている。一方、スタメン選手の紹介データにそれはない。交代選手のデータのみ現地発のフォーマットが使用されているという感じなのだが、実際にスペインに出向いてみると、出身地付きのデータをあちこちで確認することができる。新聞に目をやれば、主審の出身地まで明確に記載されている。