連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第7週「常子、ビジネスに挑戦する」第38話 5月17日(火)放送より。 
脚本:西田征史 演出:大原拓


教師・東堂チヨ(片桐はいり)の言動に感銘を受けた常子(高畑充希)。何かに悩んでいる鞠子(相楽樹)をチヨの受け売りで励まそうとするところは、“桃”と“臀部”をかけた8話のギャグ以来、久々に常子の空回りを見て微笑ましくなった。
得意げに、畳の部屋で「床に座ってください」と言うと、鞠子は「もう座ってるよ」とあっさり。次に「あぐらをかいてください」と言えば、「ふたりっきりなんだから別にいいじゃない」と躊躇なくあぐらをかく。
理性的な鞠子は魅力的だ。ついでに、畳を傷つけないように、ちゃぶ台の足に布が巻いてあるところが慎ましくて素敵な小橋家。

もっと魅力的なのは東堂チヨ(片桐はいり)。
授業中、雷の閃光に照らされながら「お黙りなさい」と雷をたしなめる顔。
ヘンリック・イプセンの「人形の家」の戯曲を、学校の中庭で音読している時の顔。
目に焼き付いて消えない。
そんなチヨには、女優になりたかったもののいわゆるヒロインの型にはまらない外観だったため諦めざるを得なかった過去があった。
現代では、彼女のようなダイナミックな身体性を魅惑的に生かす劇作家や演出家がいるので、チヨは生まれる時代を間違えたのだなあ。

ノルウェーの作家イプセンは、1879年に「人形の家」を発表、日本では明治44年(1911年)に初演。チヨが演じたかったヒロイン・ノラを、当時演じたのは松井須磨子。この役をきっかけに人気女優の道を突き進んでいく。近年では、2008年、宮沢りえが演じている。

昭和11年2月26日に2・26事件(陸軍青年将校によるクーデター)が起きてからというもの「世の中、きな臭くなってきた・・・」と語りあう男達(片岡鶴太郎、ピエール瀧、浜野謙太)。
でも、星野武蔵(坂口健太郎)が、酒とつまみの差し入れをもってくると、たちまち顔が緩んでしまう。そこに鉄郎(向井理)まで加わって。「阿部定」「阿部定」(阿部サダヲの芸名の元になった人物)と連呼し「ちん道中」など下ネタ(ですよね?)で盛り上がる男たちを呆然と見る常子。阿部定事件は、2・26事件と同じ昭和11年の5月18日に起った、愛する男性の肉体の一部を切り取ってしまう猟奇的な事件。これは、男たちにとっては相当衝撃だったのであろう。常子はこの事件を知っているのだろうか。知っていたらどう思ったのだろうか。
また、ノラを演じた松井須磨子も、事件を起こした阿部定も、愛する男性に対してかなりの激情を発した人物。彼女たちのような人物の出現も、女性自立の気運と密接に関係あるのだろうか。
そんなことを気にかけもせず酒盛りの場で一緒に大笑いしている鉄郎。いつの間にか「鉄郎あらわれるところに災いあり」なんて、疫病神のように言われるようになっていることが哀れ(役としてはおいしいけれど)。
(木俣冬)