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●Fintech普及を阻む最大の壁は「ユーザーのニーズ」
5月11日〜13日にかけて、東京ビッグサイトで計12のIT専門展から成る「2016 Japan IT WEEK 春」が開催された。本稿では、同イベントで行われた特別講演「FinTechの最新動向と今後の展望」「金融機関のオープンイノベーションとフィンテック」「成長するFintech事業3つのポイント」というFintechの最新動向を伝える講演の模様をレポートする。

○FinTechの最新動向と今後の展望

最初に登壇したのは、FinTech協会の代表理事も務める、インフキュリオン・グループ代表取締役の丸山弘毅氏だ。「FinTechは"金融とITの融合"と言われるが、ブロックチェーンやAIといったコア技術を金融業界に使うだけではない。APIやクラウドなど、当たり前に使われているアプローチと技術により、金融業界を再デザインすることこそFinTechの本質ではないか」と丸山氏は語る。

海外に比べて遅れていると考えられていた日本のFinTechだが、近年は一通りの分野でサービスが立ち上がり、政府・行政も積極的な拡大に向けて始動。さらに今後は、すでに始まっているFinTechサービス同士の融合をはじめ、O2Oなどに見られる行動導線の変化の加速、「シェアリング・エコノミー」や「IoT」がもたらす"モノを購入し、資産にする"という概念の変化にFinTechが密接に関わっていくと丸山氏は予想する。

大きな可能性を秘めたFinTechだが、一方で大型調達の少なさ、法規制の解決、人材の流動化、そして何よりユーザーのニーズが大きな問題となる。日本では銀行口座やインターネットが広く普及しているにもかかわらず現金・預金の比率が高く、電子決済やモバイルバンキングといった金融サービスの利用率が低いのだ。

「日本の法規制が緩むことを前提に、金融サービスへアクセスしないような人にも、FinTechサービスに触れる機会を増やしていくことが重要なテーマ」と丸山氏。日本を含むアジアの多くは現金社会が占めており、欧米モデルではなく日本で作り上げられたモデルのグローバル展開に大きな期待がかかるという。

○金融機関に求められるオープンイノベーションとFintech

続いては、三菱東京UFJ銀行のデジタルイノベーション推進部 シニアアナリストの藤井達人氏が登壇した。

藤井氏はまず、オープンイノベーションが今なぜ必要とされているのかを解説。そこにはデジタルの進化に加え、金融業界には手軽・便利に使えるモバイルサービスの増加、ECや流通・小売、ベンチャー企業などの新規参入という2つの大きな波が存在し、金融機関だけを相手に競争していた時代とは劇的に変化した背景があるという。

金融機関以外の企業を相手に戦うには、スピード・アイデア・開発力が不可欠だ。そこで、これまでテクノロジーに関して先鋭的に取り組んできた三菱東京UFJ銀行では、邦銀初となるサービスの共同開発を目的としたビジネスコンテスト「FinTech CHALLENGE 2015」を実施。銀行発信のオウンドメディア、投資信託選びアプリ「FUNDECT」という2つのサービスを実用化した。

「重要なのは、オープンイノベーションへの抵抗をなくすために成功体験を作ること、各領域でトップレベルの技術・シェア・マーケットを誇る相手と組むこと、イベント開催だけでなくさまざまな面で情報発信を行うこと」と藤井氏は語る。

金融機関としてのFinTechのとらえ方は大きく2つある。1つはビッグデータやモバイル生体認証など金融機関にあまり用いられてこなかった「キーテクノロジー」自体だ。そしてもう1つは、FinTechを活用してフィナンシャルアドバイスやロボアドバイザーなどを提供する「スタートアップ企業」だ。

「スタートアップ企業では、金融サービスにおける既知の不便さや不満をなくしたい、という思いで事業を始めた人が多い。そうした人たちがキーテクノロージーをうまく使い、既存の金融サービスの非効率性を排除した使いやすいサービスを生み出している」と藤井氏。これは既存の金融サービスを駆逐していくというよりは、金融機関が従来サービスを提供できていなかった顧客層を開拓し、新たな市場を創造するようなイメージだそうだ。

また、金融機関としてFinTechを活用する方法については、どのようなテクノロジー・ビジネスモデルが自社に有用なのかを判断する「目利き力」、見つけた技術を適用できるようにする「技術活用力」、サービスを出して放置ではなくPDCAサイクルを回せるかという「開発スタイル」という3つの課題を指摘した。

●日本のFintechはもっとエンドユーザーを大切にすべき
一方で海外の金融機関へ目を向けると、すでにイノベーション機能のセンター化や、ベンチャー企業と組みスピードやアイデアを短期間で手に入れるための投資に力を入れ、銀行のAPIを公開/標準化する動きも高まっている。金融機関が"Tech-Savvy"な組織へ転身するためにも、オープンイノベーション推進の下でのサービス内製化、ITの本格的な研究、デジタル人材の採用とそれに合わせた人事制度の採用、デザイン・シンキングの取り組み、特徴のないサービスにならないためのリスク評価のスピードアップ、デベロッパーコミュニティの形成が重要になるという。

こうした背景から、三菱東京UFJ銀行では、2015年にFinTechに参画したい起業家やベンチャー企業を全面支援するアクセラレータ・プログラムを立ち上げた。外部と内部のメンターによるメンタリングや、アドバイザーによるコーチングを無償で提供し、最終的には事業提携や顧客マッチング、出資も検討していくという。また、銀行APIのハッカソン「BRING YOUR OWN BANK!」も行い、デモ版のAPIを開発・提供。銀行API公開のメリットは、短期的な効果としてセキュリティの改善や新しいサービスの開発が、長期的にはサードパーティによるイノベーティブなサービスが期待できるという。

今後APIは、法制度上の解釈、APIの標準化するか否かなど論点になると考えられる。実際に欧州を中心にAPIを制度化する動きがあり、金融機関もAPIを提供し、APIエコノミーに加わる時代が来るのではと藤井氏。ただし「API自体がイノベーションにつながるかは未知の世界で、暗号通貨などの動きにも注目すべき」と締めくくった。

○Fintech事業が成長するための3つのポイント

インクルージョン・ジャパン 取締役の吉沢康弘氏は、まず金融機関の置かれた状況について解説。「日本の金融システムはすさまじい成功体験と、過去40年の特殊な状況に基づいて作られている」と語る。国のあらゆる資源を軍需産業に集めるというプロセスを戦後も継続し、これにより日本の産業は一気に成長。この成功体験から、人口10万人当たりの銀行支店数は世界でもトップクラスとなるほど環境が守られていた。

一方、米国ではFacebookの情報で個人の与信枠を判断する「Affirm」や、Paypalの支払い実績で即時融資が受けられる「PayPal Working Capital」といった無担保ローンが登場し、「クレジットカードを作れない」「融資を受けられない」層を中心に広く普及。また、リーマンショックを経験した若者がクレジットカードを持たなくなり、2014年と2015年ではクレジットカードの利用率が5%低下、Apple Payは8%伸長するという状況が生まれた。

ただし、これはテクノロジーの進歩とは言えず、ユーザーが"便利"よりも"不便を解消してくれる"サービスに流れていったためだと吉沢氏は言う。

さらに、吉沢氏は「日本では他の金融機関や金融庁ばかりを意識し、エンドユーザーへの意識が薄くなっている」として、Fintech事業におけるポイントを3点挙げた。ポイントとは、「金融庁や経済産業省が実際にどのような立場でいるかなど、公開情報をきちんと理解する」「消費者としての感覚が麻痺しないよう、6カ月を目途にメンバーを入れ替え続ける仕組みを推奨する」「自己完結せずにエコシステムの構築を目指す」というものだ。

最後に、FinTechに関する議論は一度会社という立ち位置を離れ、個人でさまざまな場所に参加してほしいと願う吉沢氏。「イマジネーションを広げ、お金の不自由を解決していってもらえればと思う」と講演を締めくくった。

(エースラッシュ)