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●通信事業を取り巻く環境
これまでドコモの新事業計画「+d」に関連する事業を取材してきた。「+d」とは、外部のパートナーと手を組み、新たな価値を創造する取り組みのことだ。ドコモはそれを"協創"とも呼んでいる。今回はこれまでの総括として、「+dとは結局どんなものなのか」を、取材から見えてきた姿を中心に考察したい。そこからは通信事業者という枠組みから脱却しようとするドコモの姿が見えてくる。

○通信事業は成長期から安定期へ

NTTドコモの本業である通信事業は、現在の主流である4G(LTE)から、2020年前後をめどに、さらなる高速化や多様化を果たす「5G」へとロードマップが敷かれている。5Gの時代になれば、現在の光ファイバー網に匹敵する速度で、あらゆるモノ同士が接続され、その上を動くコンテンツやサービスの種類や質も、現在より格段に進化したものになることが見込まれている。

日本の人口は横ばいから微減傾向にあるが、携帯電話やスマートフォンはすでに広く普及しており、これから大幅な上積みを期待するのは難しい状況になっている。現在は携帯電話時代と比べても高価な基本料金(代わりにパケット代は大幅に軽減されているが)が収入の中心だが、今後はこうした料金体系を維持できなくなっていくだろう。ビジネスそのものの再構築が必要になっているのだ。

5G時代の通信料金がどのようになるかはさておき、これまでの枠組みでは収まりきれない規模のサービスやコンテンツが関わってくるようになる。これをきっかけに、ドコモが自らのビジネスを再構築しようとしていること自体は明らかだ。

ドコモはこれまで、他社との協業であってもドコモブランドを前面に押し出してきたが、それは携帯電話サービスを通じて、サービスへの支払いも行わせる上で効率的だから、という面もあった。これを180度転換して、よりよいサービスを提供できる外部企業と柔軟に協業し、ドコモが完全に裏方に徹しても構わないとする、これが「+d」の発想といえるだろう。

●ドコモは総合商社化?
○通信事業者から総合商社へ

ではなぜ、ドコモは発想をここまで真逆に転換したのだろうか。それは、ドコモが単なる通信会社から脱却しようとしているからだと見る。

これまで、「+d」に関しては「農業ICT」「医療」「保険」「サイクルシェアリング」という、一見すると通信とも関係なければ、互いに関連性もなさそうな4つの業種について、取材を重ねてきた。この中で気付いたのは、それぞれの事業に共通する要素として「保険事業を除けば基本的に社会インフラの一部である」ということが挙げられる。

NTTドコモはNTTグループの移動体通信事業として設立され、今やNTTグループの屋台骨を支えるまでに成長している。NTTは電電公社を受け継ぎ、固定網や移動体を問わず、通信事業によって成長してきた企業だ。そのDNAには深く「通信技術」という要素が組み込まれている。

今やインターネットが実生活と切っても切り離せない要素となっており、今後はスマートフォンやパソコンだけでなく、IoT(Internet of the Things:モノのインターネット)として、あらゆるモノがネットに接続できるようになるといわれている。

こうなると、現在の数倍から数十倍を超えるデータが常時やり取りされることになり、こうした時代が到来したとき、ドコモの通信インフラは、これまでの、いわば「必需品ではあるが、やや贅沢品でもある」状況から、「社会に欠かせないインフラ」へと進化することになる。

たとえばガス会社が、この三つ星レストランのガスは我が社のブランドです! などといちいち誇らないように、インフラというのは黒子に徹する地味な役割だ。しかしその一方で、これまでそのインフラを効率良く使えなかったり、よりよい使い方が可能な顧客と組めば、インフラの力を何倍にも増幅することができる。おそらく、ドコモがインフラ化した世界に描いているのは、そういった「つながるのが当たり前になった世界でのドコモの役割」なのではないだろうか。

そして、そういった姿は、すでに+dで一部現れているように、通信をベースに外部企業と連携し、新たなサービスや価値を生み出していく姿は総合商社のような存在にも映る。ただし、その総合商社はインフラの一部と決済手段、仮想貨幣にもなりうるポイント制度、ユーザーの個人情報(位置情報や移動情報を含む)そして全国に展開済みの、物理的な店舗ネットワークを持っているのだ。国内事業に限っていえば、これほど強力な武器を抱える企業もないだろう。

ドコモ自身、陶芸やそば打ちなど300以上のイベントを体験できる「すきじかん」などのサービスで、多様化するユーザーのニーズを掘り起こし、個別にパーソナライズして提供する仕組みを模索している節がある。このように、一方ではユーザーと密な関係を保ちつつ、もう一方では社会的インフラとしての役割を果たし、相互作用でこれまでにないサービスを生み出す、B2C、B2B、B2B2Cのすべてをこなせる新時代の総合商社。それがドコモが+dの先に見据えている姿ではないだろうか。

(海老原昭)