「トランプ現象」が共和党に与える深刻な影響

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「ドナルド・トランプ現象」は、2016年の米大統領選挙における最大のサプライズであり、政治評論家の多くがこの現象の説明に苦しんでいる。

トランプの人気は、予想以上のアメリカ人が現状に不満を持っていることを如実に表している。それは経済状況や、政治家の機能不全(特にワシントンDCの連邦議会において)に対する不満である。昨年、共和党大統領候補者が17人いた段階では、最も人気が高かったのがトランプとベン・カーソン、カーリー・フィオリーナの3人であり、彼らの共通点は政治家ではなく、ワシントンDCにおける伝統的な政治に「汚染されていない」と見られたことであった。

そして、トランプ現象による共和党の性格の変化が鮮明になった。12年の大統領選挙でミット・ロムニーがバラク・オバマに敗れると、共和党の一部には、「党が生き残るためには、アメリカの人口に占める割合が減りつつある白人男性だけでなく、女性や若者、アフリカ系アメリカ人、ラテン系、アジア系、LGBT(性的マイノリティ)の有権者など、もっと幅広い人々の支持も得るべきである」と主張する人もいた。

しかし、議会共和党の幹部はオバマ大統領に強く反対し、医療保険の拡大や移民制度の改革、地球温暖化の抑制、環境規制の執行、イランとの交渉、キューバとの国交正常化など、大統領が行う取り組みをことごとく阻止することに精力を傾けてきた。大統領を失敗させることだけに注力した結果、共和党内にいっそうのナショナリズム、不寛容、人種差別までも許容する雰囲気が醸成されてしまった。

彼らがオバマ政権に対して極端で非妥協的な立場をとったために、共和党の支持者が戦後になって初めての激しさで民主党に対する敵対的なレトリックや行動をとるのを許すこととなった。支持者の多くは教育レベルと収入が高くない白人層が中心で、移民やアウトソーシング、テロなどのグローバル化の流れに不安と脅威を感じているからだ。

トランプは、これらの恐怖や不満をうまくすくい上げている。とはいえ、「メキシコ人がアメリカに移民するのを防ぐために壁を造る」、あるいは「イスラム教徒のアメリカへの入国禁止」といった彼の主張は、先ほどの「共和党が支持基盤を広げるためには白人の男性以外に多様化する必要がある」という考えと正反対である。

共和党の幹部は、2月のニューハンプシャー州、サウスカロライナ州、ネバダ州の予備選や、3月1日の「スーパー・チューズデイ」でトランプが勝利を収めるまでは、彼を本命視していなかった。ところが今や、トランプが指名獲得に必要な1,237名の代議員のうち、すでに400名を超える代議員を獲得しており、共和党の指導者層は彼を止めようと必死である。先述したミット・ロムニーは3月3日にスピーチを行い、「トランプは見かけ倒しの”ペテン師”で、アメリカを誤った方向に導く」と批判した。08年の共和党の大統領候補であったジョン・マケインも同様の批判を行っている。

共和党には今後、5通りのシナリオが考えられる。1. トランプが予備選で勝ち続けて共和党の候補者になる、2. トランプの対立候補(テッド・クルーズ、マルコ・ルビオ、ジョン・ケーシック)のうちの1人が追いつき、代議員数でトランプを抜く、3. どの候補者も十分な代議員数を獲得できず、7月のオハイオ州クリーブランドでの共和党全国大会で調停により決定される、4. トランプが調停による決定で敗れ、第3党の候補者として立候補を決意する、5. トランプが必要な代議員数を獲得するものの、共和党主流派がこれに不満を覚え、共和党の伝統的理念をより忠実に体現する別の候補者を支持する、の5通りである。

一方の民主党は、ヒラリー・クリントンが7月のフィラデルフィアでの民主党大会を前にして、党の指名を受けるのに十分な代議員数を獲得する可能性が高い。したがって、一般選挙は「クリントンと共和党候補者」、または「クリントン、共和党候補者、第3党候補者」の間で争われることになるだろう。

いずれにせよ、「トランプ現象」が共和党の将来に深刻で永続的な影響を与えることは確実だ。

グレン・S・フクシマ◎米国先端政策研究所(CAP)の上席研究員。米国通商代表部の日本・中国担当代表補代理、エアバス・ジャパンの社長、在日米国商工会議所会頭等を経て現職。米日カウンシルや日米協会の理事を務めるなど、日米関係に精通する。