TBS火曜夜10時枠のドラマ『重版出来!』。週刊マンガ雑誌という出版界のど真ん中で奮闘する新人女子編集者・黒沢心(黒木華)たちの奮闘を描くお仕事ドラマだ。


視聴率は先週放送の第5話が7.3%で、ずっと9%台と7%台を行ったり来たりという感じなのだが、レコーダー用アプリ「トルネ」の「月間トルネ番付」では、4月期ドラマの中で『真田丸』『ゆとりですがなにか』に次ぐ3位をゲット! おお、ぜんぶ「エキレビ!」で全話レビューしているドラマじゃないの。やっぱり届いている人たちには届いているドラマなのだ。

Twitterでも非常に言及数が多く、4月初週の プライムタイムドラマ話題度ランキングでは堂々の4位。視聴者によるドラマの感想だけではなく、原作者をはじめ、ドラマにかかわったマンガ家、スタッフ、俳優たちが総出でツイートを行っている感じも好印象だ。『重版出来!』に関する記事もたくさんシェアされているけど、この記事はほとんどシェアされていないんですよね……。

「本が死ぬ」とはどういうことか?


さて、気を取り直して第5話は、高田純次をはじめ、火野正平、ヒャダイン、安斎肇ら、濃厚な顔ぶれのゲストが次々と名言をドロップする“出版深イイ話”のようなエピソード。

まずは、いつも冷静沈着、優秀な先輩編集者・五百旗頭(オダギリジョー)の言葉から。新人マンガ家、大塚シュートの初めての単行本をつくるとき、心に語ったのがこちら。

「新人の編集者が見落としがちなのが、重版がかかったときの収支。つまり、重版でどれだけ儲けられるか。カッコいい装丁にしようと張り切りすぎて、高い原価で作ってしまうと、本が死ぬ」
「死ぬ……!?」
「儲けが出ない本は、重版をかけてもらえない。重版が無理でもせめて黒字の実績が残るように作る」
「実績が残せなかったら……?」
「“あの作家は売れない”って会社にレッテルを貼られる。そうなると次の単行本が出しにくくなる。新人に限っては絶対に、重版がかかりやすい本の設計をしろ。作家の可能性に傷をつけるな」

少し補足すると、もともと出版社は重版に消極的な部分がある。重版すればもっと売れるのに! と思う本でも、在庫を余らせてしまったら会社の損になる。印刷費だけでなく、保管する倉庫代もバカにならない。重版の判断に失敗した営業部は、会社から責任を問われることになる。一方、重版をしないという判断の責任が問われることはほとんどない。リスク回避のため、重版の判断は慎重に行うのが常なのだ。これは五百旗頭の言う原価率の高い本だけでなく、原価率の低い本でも同じことが起こる。

また、売れ部数に関するデータは、出版社同士で共有される。全国の紀伊國屋書店での売れ数がすべてわかるパブラインが代表的な存在。ある著者の企画をA社で吟味するとき、A社は著者が過去にB社から出していた本の売れ行きをパブラインで調査して、それがイマイチ売れていなければ、どんなに企画が良くても即座に却下する。これが“あの作家は売れない”というレッテルの正体だ。

重版に関する詳しい解説は、「どうすれば重版するのか?」米光一成×大山くまおを参照のこと。

配られたカードで勝負するしかないのさ


次は、心たちが務める出版社・興都館社長、久慈勝(高田純次)に大きな影響を与えた言葉。昭和の時代、貧しい炭鉱の町で生まれ育った若い頃の久慈は、恐喝、強盗、バクチと荒れに荒れていた(若き日の久慈を熱演するのはミュージカル「テニスの王子様」などに出演していた平埜生成)。

しかし、そんな久慈に対して、謎の老人(火野正平)が放った言葉がこちら。

「ええことを教えちゃる。運ば、貯められるっぞ」
「……?」
「世の中はな、足して引いて、ゼロになるごつできとる。生まれたときに持ってるものに差があっても、札はおんなじ数だけ配られよる。ええことしたら、運は貯まる。悪いことしたら、すぐに運は減りよる。人殺しげな、一巻の終わりたい。運ば味方にすりゃ、何十倍も幸せは膨れ上がりよる」
「……」
「問題は、どこで勝ちたいかや。自分がどがんなりたかか、自分の頭で考えろ。考えて、考えて、吐くほど考えて、見極めろ。運ば、使いこなせ」

ほとんど原作通りのセリフだが、火野正平の存在感と演技力、前後を彩る濃厚な昭和の雰囲気が言葉の説得力を倍増させている。これが映像の持つ力だろう。平埜による宮沢賢治「雨ニモマケズ」の朗読も聞きどころだ。

なお、「生まれた時に持ってるものに差があっても、札はおんなじ数だけ配られよる」という部分は、スヌーピーの名言「配られたカードで勝負するしかないのさ… それがどういう意味であれ(You play with the cards you’re dealt …whatever that means)」に通じるものがある。

続いては紆余曲折あって興都館の編集者になった久慈に対して、初老の作家(安斎肇)が語って聞かせる言葉。

「キミが若い頃に出会ったというその老人、それはきっと“聖なる予言者”ですよ」
「聖なる予言者……」
「運命の神は、人が間違った方向へと行かないように、人間のふりをして辻々に立っているんです。聞くも、聞かぬも、人の選択」

作家の言葉を聞いてから、久慈は老人の言葉を反芻するようになる。それ以後、すべての運を仕事に向けて貯めるようになり、善行を積むようになったのだ。

たった1冊の本が人生を動かすことがある


次は、コミックの装丁を手がける売れっ子デザイナー、野呂(ヒャダイン)の言葉。彼が忠実に守っている師匠からの教えだ。

「世の中をよく見ろ、世間は遊びで溢れている。書店へ行けば、途方もない数の本が並んでいる。その中から1冊を選んでもらう魔法は……ない。だから、考えろ。考えて、考えて、決められた予算の中で出来うる限り、最大、最高の仕事をしろ。常に己に問え。自分の仕事だと胸を張れるものを、世の中に送り出せているのか」

最後は、断裁(本を廃棄すること)の現場に立ち会った久慈が、同行した心と営業の小泉(坂口健太郎)に語って聞かせる言葉。

「生きていくのに、本は必ずしも必要じゃないかもしれない。読まなくても、生きていけるかもしれない。だが、たった1冊の本が人生を動かすことがある。誰かに救いをもたらすこともある。だから私は、1冊でも多くの本を読者に届けたい。それが本への恩返しなんです」
「恩返し……?」
「本が……本が私を人間にしてくれた」
「……」
「これからも私は本を売ります。だから、ここに来るんです。この痛みを忘れないために」

新たに世の中に送り出される本と、断裁されて消えゆく本のカットバックで強調されるのは、本という存在のかけがえのなさと、本という消費財のはかなさ。本にも幸不幸がある。何も考えずに「売れそうだから」と作られる本と、何も考えずに「売れなかったから」と廃棄される本は、実際不幸だと思う。いろいろな人の想いと仕事と計算がギュッと詰め込まれては生み出され、人々の手に届けられる。子どもと同じようなものだ。

原作の複数のエピソードを鮮やかさな手際でまとめてみせたのは、脚本の野木亜紀子。野木はツイッターで「今日の5話は、本が好きなすべての人に贈ります。図書館戦争クラスタや掟上今日子の備忘録の須永昼兵衞ファンの皆様にも、ぜひ見てもらいたい回です。本に生かされた人の想い。本にかける人々の想い」と語っていた。『重版出来!』は、本好きドラマ脚本家の面目躍如だ。

さて、本日放送の第6話は、ついに“ツブシの安井”(安田顕)が本領発揮! ドラマが大きく動き出すぞ。苦悩するスウィートパワーの新星、高月彩良にも注目だ。

『重版出来!』の先週分を見逃した人は、TBSオンデマンドにて無料視聴が可能(本日21時59分まで)。見逃した人は要チェック。
(大山くまお)