『童貞の世界史 セックスをした事がない偉人達』(パブリブ)

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 だいたい世の中の問題は、9割がたセックスで解決すると思っている。今日もTwitterを覗けば、表現規制やらヘイトスピーチやらパナマ文書やら、さまざまな問題で、持論を必死に書いている人が数多いるわけだが、そうした書き込みをみて思うのは、セックスが足りないか、さっき食べたメシが不味かったかというところだろう。世の中で、これほどタチの悪い連中はいない。

 ところが、世の中には逆張り。すなわち、セックスが足りないどころか童貞や処女を、とことんこじらせた挙げ句に、天下を取ったり偉業を成し遂げた人もいた。

 そのことを教えてくれるのが松原左京&山田昌弘『童貞の世界史 セックスをした事がない偉人達』(パブリブ)である。

 この本、タイトルの通りセクシュアリティの別なく、童貞と処女をキーワードにした列伝である。

 多くの童貞と処女を語るにあたって、調査をしつくした著者は、冒頭で生涯童貞を貫いた理由を8つのパターンに分類している。すなわちアンデルセンやブルックナーのような「性的魅力に乏しい、性愛に対して消極的」なタイプ。宮沢賢治のように「性愛への恐怖感・嫌悪感があるタイプ」あるいはライト兄弟のような「家族間の関係が非常に密接で、他者の入る余地がない」タイプなどなど。

 なるほど、この冒頭の解説だけでも、人生のセックスに使うべき部分をすべて、別の方向に向けたことで偉業を成し遂げた人も多いのだとわかる。

 しかし、そんな人生に本人が納得していたかは、また別の話である。本書の中で、生涯童貞だった人物として『国富論』で知られるアダム・スミスが取り上げられているが、著者の考察によれば、アダム・スミスは生涯恋多き男だったのに童貞だったという。著者は、こう記す。

「彼が好いた女性には、彼の思いが受け入れられることはなかったし、彼を好いてくれた女性は、彼の好意の対象ではなかった」

 いったいどういう異性が好みだったのか、気になるところだが、これは悲惨すぎる。どっかで妥協すればよかったのに……。いや、妥協せずに理想の相手を求めたからこそ、現代にまで残る名著を書き上げることができたのだろう。そう考えると一生童貞でもプラマイゼロというところだろうか。

 また、童貞だけじゃないこじらせ方をした挙げ句に歴史に名を残した偉人もいる。オーストリアの作曲家・ブルックナーは、生涯にわたって十代後半の少女にやみくもに求愛・求婚しては拒絶されるのを繰り返したという。これまた、単なるロリコン。おまけに、著者は、ブルックナーが結婚前の行為を厳しく否定していたことを指摘する。

 すなわち、ロリコンの挙げ句に処女厨というわけか。作曲家として歴史に名を残さなかったら、単なる変態で終わっていたんじゃなかろうか。

 古今東西さまざまな人物を分析した後に、著者は生涯童貞、あるいは処女を貫いた人物に意外に「恋愛弱者」体質が少ないことを指摘する。すなわち、なんらか業績をあげたり権力を得れば、周囲がお膳立てをするものだが、それをはねのけた強い意志があったことを、著者は見いだしたのである。

 非モテでも歴史には名は残せるけど、なんか人生で損をしている気も。まあ、本人が幸せならいいか。
(文=昼間たかし)