経験は「宝」である。どうしても負けられない大会にあって、このふたりはプラチナにして、チームの活力である。4大会連続の五輪出場を目指すエース木村沙織が強打を放てば、結婚、出産を経て4年ぶりに代表復帰した荒木絵里香もブロックで躍動する。

 29歳と31歳。新旧キャプテンの活躍で、日本がリオデジャネイロ五輪切符獲得に向け連勝スタートを切った。格下相手にいずれもストレート勝ちした。

<こころはひとつ>。木村も荒木も、日本の選手たちのユニフォームの左胸には黒字でこう、描かれている。主将の木村が、その文字に込めた思いをしみじみと説明する。

「まだ地震(熊本地震)の後で、しんどい思いをして生活している人がたくさんいると思うんです。被災地の人と一緒だということで、この言葉を入れてもらっています。チームとしても、"こころはひとつ"をテーマでやっていますし、日本中のみなさんとこころはひとつという気持ちで戦っています」

 バレーボール女子のリオ五輪世界最終予選兼アジア予選(東京体育館)。14日のペルー戦と15日のカザフスタン戦を合わせて、木村が19得点、荒木は13得点をマークした。

 もっとも、荒木の存在価値は、数字で表れないところにもある。眞鍋政義監督が"荒木効果"をそっと教えてくれた。

「ブロックポイントが多いですけど、しつこく最後までブロックにいくので、相手スパイカーは打ちにくいと思います。ブロックの形もいいので、チームのレシーブ力も昨年より非常に上がっています。それって、目に見えない荒木の効果かなと思います」

 さらに、チームのメンタル面。

「荒木が入って、チームが昨年より、まとまり感がある。キャプテンの木村も、昨年より、のびのびプレーできています。いろんな意味で好循環があるのかなと思います」

 そうなのだ。木村も変わった。木村は3年間、ずっと主将として、若手に気を遣うなどして苦労してきた。でも、五輪イヤーは、まずは木村自身ががんばらないとダメなのだ。それを助けるのが、前主将の荒木である。

 実はこのふたり、ホテルでは相部屋となっている。「お互い話をすることでプレッシャーをやわらげ、チームをひとつにしてほしいという思い」(眞鍋監督)からである。その狙いは今のところ、あたっているようだ。

 荒木が言う。言葉に信頼がにじむ。

「(部屋では)チームの雰囲気だったり、チームの状況だったりを、話し合っています。とにかく、必要以上に(コートで)声を出していこうとずっと、言っています。沙織がチームを引っ張っていってくれていますので、自分も声でチームを勢いづけさせられるようがんばっていきたいです」

 荒木は、主将としてチームを銅メダルに導いたロンドン五輪後、バレー一筋だった人生を見つめ直した。2013年6月、元ラグビー日本代表の四宮洋平氏と結婚、所属していた東レを退社し、14年1月には長女を出産した。が、夫の勧めもあって、Vプレミアリーグの上尾で復帰した。再び、熱血がたぎる。

 眞鍋監督の「ラブコール」を受けての代表カムバックである。よくぞ、ここまで体力を戻したなと思う。持って生まれたからだの丈夫さとガッツゆえであろう。

 カザフスタン戦の朝、2歳の愛娘とテレビ電話で話をした。荒木が照れる

「会話にはなっていません。保育園で習ったお歌をいろいろ歌ってくれます。ははは。励みにはなります」

 笑顔には母親の幸福感が漂っている。

「娘や家族からもらうエネルギーってすごく大きいですし、オン、オフの切り替えがつきやすくなりました。以前は、ずっとバレーボールのことばかり考えていましたが、いまは娘がいますので、生活にメリハリがつきやすくなりました」

 会場のスタンドには、<パワフル・ママ!荒木絵里香>と描かれた横断幕もあった。ポイントを決めると、「エリカ・コール」が鳴り響く。この緊張感、高揚感がたまらない。

 コートでは全力プレーに徹し、トレードマークのガッツポーズでチームを盛りたてる。正直、まだ移動攻撃はセッター宮下遥とコンビが合ってはいないけれど、迫力あるブロックは健在である。特に大事な場面で、ブロックを1本、とってくれる。

 順当に2連勝スタート。

「今日(カザフスタン戦)は個人的にはパッとしなかったんですけど、チームとしてはいい形で勝てたのはよかったと思います」

 これからが本番である。17日にはアジアのライバル韓国と対戦する。ターゲットは大エース、192cmの金軟景(キム・ヨンギョン)。荒木の言葉にも力がはいる。

「次の韓国戦、何が何でもオリンピックにいくという気持ちをぶつけたい。リオの切符を獲るためにチーム一丸となって必死になって戦っていきたい」

 チーム一丸、そう、左胸の<こころはひとつ>と同意である。

「震災で大変な方がいる中で、自分たちがこう、バレーボールができる幸せを感じています。(被災地の方に)少しでもエネルギーを受け取ってもらえるようにがんばりたい」

 大事な試合になればなるほど、勝負の怖さを知るベテランの味が必要になってくる。沙織と絵里香。チームひとつになれるか、新旧主将の真価が問われることになる。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu