台湾では、馬英九・国民党政権から蔡英文民進党政権に交代する。江丙坤・中国信託金融ホールディングス最高顧問兼東京スター銀行会長は「中国側は蔡英文氏に対して『一つの中国』や『92年合意』を認めるよう求め、台湾経済や観光業に影響を与える」と述べた。

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台湾では5月20日、馬英九・国民党政権から蔡英文民進党政権に交代する。これを前に、政官財言論界の有力者6人にインタビューした。江丙坤・中国信託金融ホールディングス最高顧問兼東京スター銀行会長は、「中国側は蔡英文氏や民進党指導部に対して、『一つの中国』やいわゆる『92年合意』を認めるよう求めている」と指摘。「そうならない場合、台湾経済や観光業に影響を与えることになる」と述べた。習近平国家主席について、「やり手で、決断力がある」とした上で、「一つの中国、92年合意さえ認めれば、何でも話せる指導者だ」と評価した。(聞き手・ジャーナリスト相馬勝)

<江丙坤氏>1932年12月16日生まれ。台湾の対中交渉窓口機関である財団法人「海峡交流基金会(海基会)」理事長、中国国民党副主席などを歴任。2015年に旭日重光章を受章。

――今回の選挙で国民党は惨敗でしたが、これほどまでに負けるとは予想をしなかったのでは?

江丙坤会長馬英九政権は発足当時、公約に「633」という数字を挙げました。すなわち、経済成長率6%、1人当たりの平均所得3万ドル、失業率3%以下―というものですが、経済成長率は昨年0.74%でした。政権発足翌年にリーマンショックが起こって世界的な経済不振が襲い、それからヨーロッパショックが起きるなど、台湾は経済的苦境に見舞われました。

また、台湾では賃金が全然上がっていません。とくに昨年から不景気が続いています。輸出も昨年3月からいままでマイナス成長です。このような経済が非常に不振ななかで、増税をやりました。つまり、証券取引税を上げたのです。3%でしたが、さらに証券取引所得税を新設しました。これで、株価が暴落してしまい、最終的に廃止せざるを得なかったのです。

また、現在の年金制度では財政がつぶれてしまうということで、年金の支払い額を下げました。いつもは年末に賞与が出るのだが、今回は出なかったこのため、国家公務員や教員の不満が高まったのです。ざっとみてみると、経済不振の中で、こういう問題が出てきていました。

――さらに政治的な要因もありましたね。

江丙坤氏=馬さんと王金平・立法院長(国会議長に相当)との間で権力闘争が起こり、国民党が内部分裂したのです。このため、敗退が確実となり、国民党に投票すべき人が投票に来なかった。また、2004年の総統選挙では、民進党の陳水扁氏が全体の4割の票で当選しましたが、その要因は親民党の宋楚愈氏が立候補したことで、保守層の票が割れたためでした。今回も、宋氏が総統選に立候補したことで、同じことが起こったのです。

――私たちが日本で見ていると、馬永久氏の対中政策に不支持票が投じられたのではないかという気がします。つまり、馬永久氏と習近平中国国家主席がシンガポールでトップ会談をするなど、あまりに中国と近づき過ぎたことで、台湾の人々が馬氏に嫌気がさしたのではないか?

江丙坤氏=私は、両岸関係は関係なかったと思っています。先ほども言いましたが、事前に馬氏が負けると分かっていたので、投票しなかったのです。海外から投票のために、台湾に帰ってこなかったのです。馬氏が推進した中台融和関係について、国民党の支持者は遅すぎたと思っているほどです。むしろ、民進党は反対です。両岸関係については、双方の支持者の反応は決まっていますので、これは争点にはならなかったのです。

――民進党政権が発足しますが、今後の両岸関係はどうなると予想しますか。

江丙坤氏=厳しくなるでしょう。根本になるのは、「一つの中国」です。中国は中台間の分裂は反対です。あくまでも将来の統一を主張しています。このため、中国にとって、中台間の「92年合意」を認めることはキーエレメントなのです。