「頑張って!」が逆効果になることも(shutterstock.com)

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 時として「頑張って!」は、気楽な挨拶ではない場合がある。

 今回の熊本地震では、これまでに49人が亡くなり、今も行方不明者がいる。26日午前の時点で避難者は約48000人。もし彼らに「頑張って!」と声を掛けたら、どのような気持ちなるか? 

 その言葉が、文字通り励みになる人もいるだろうが、逆効果になってしまう人もいる。

 1995年に発生した阪神・淡路大震災で、家も家族も何もかもを失った人にとって一番つらい言葉は、ボランティアを含む周囲の人からかけられる「頑張って」だったという。精一杯、頑張りつくしている人が、これ以上どうやって頑張ればよいのか?

 同じことは、がんをはじめとする進行性疾患の末期患者にもいえる。医療従事者や周囲の人たちが掛ける「頑張って」の一言が、患者を傷つけることがある。

大切なのは「傾聴(active listening)」と「自己表現(assertion)」

 では、被害者や病者、社会的立場の弱い人に寄り添うには、どのようなコミュニケーションがいいのだろうか? その基本は「傾聴(active listening)」と「アサーション=自己表現(assertion)」だと私は思う。
 
 傾聴(active listening)は、耳を澄まし、まっすぐな心でじっくり話を聴くこと。相手の言葉だけでなく、その言葉が生まれた相手の心の内側の、真に言わんとすることを聴くことが大切だ。

 アサーション=自己表現は、相手のありのままを尊重し、その権利を侵害せずに、誠実、率直、対等な立場で自分の気持ちや意見をわかりやすく伝えること。相手を傷つけずに自分の気持ちや意見をうまく・正しく伝えることであり、コミュニケーションでもっとも難しいポイントだと思う。

 そのためには、自分の感情をうまくコントロールすることが求められる。実践的なアサーティブ・トレーニングが必要だ。その過程では、相手の気持ちを理解する=「共感(empathy)」とともに、相手と気持ちを共有する=「同情(sympathy)」が大切となる。

 「同情(sympathy)」は、ギリシャ語の語源通り「一緒に苦しむ」こと。つまり、相手の痛みは自分の痛みになる。「共感(empathy)」は、他人の痛みを肌で感じて共有するが、自分と相手との区別は保たれている。冷静に状況を分析し、アドバイスし、場合によっては援助する。

 心理用語では「empathy」は「感情移入」と訳されるが、私にはあまりピンとこない。やはり「感情の共感的理解」が最も適切な訳だろう。
医療従事者の患者への「同情(sympathy)」は禁物

 ただし、医療従事者の場合、患者さんに対する同情(sympathy)は禁物でであり、共感(empathy)が重要になる。患者さんを自分の配偶者、恋人や子どものように感じてしまうと、冷静かつ客観的な判断ができなくなるからだ。適切な治療も望めないだろう。

 外科医が肉親の手術をすることはまずない。医療従事者にとって必要なのは、相手の立場に立って考えること、相手の目線にあわせて見つめること、つまり共感(empathy)である。

 ノンフィクション作家の柳田邦男氏が著書『この国の失敗の本質』で主張していた「2.5人称の視点」も、共感(empathy)とほぼ同じニュアンスといえる。大切な人である「あなた」と乾いた第三者である「彼・彼女」の中間的な視座が「2.5人称の視点」である。

 医療従事者は、このような視点から患者さんに接しなければならない。柳田氏は、被害者、病者、社会的弱者の立場に寄り添い、その身になって考える職業倫理を身につけてほしいと私たちに訴えかける。

 また、以前、アナウンサーだった故・絵門ゆう子さんの話を聞く機会があった。当時、エッセイストとして乳がん患者でありながらも元気に活躍していた彼女は、医学ではよく「ヒト」と記載するが、臨床医には「人」として患者に接してほしいと訴えていた。

 この説得力あるメッセージの一方で、病理医には「第三者」の科学的な視点から「ヒト」として、淡々と冷静に説明をしてほしいともおっしゃっていた。病理医は、医療現場での第三者的立場をとりやすいことは事実だ。「病理医による病理診断の説明」が必要となるゆえんである。

 ただし、患者同士が支え合う(ピア・サポート)の場では、ピア(仲間)が他の同病患者を支援するとき、「痛み」を我がものに感じ、同情し、一緒に涙する、「sympathy」が大きな支えとなる。また、仲間のために冷静に状況を分析し、アドバイスできる援助、「empathy」も必要だ。

 今回のような大きな災害に見舞われた方々のことを思うとき、いかに寄り添い、声をかえるべきなのか、その難しさを痛感する。


堤寛(つつみ・ゆたか)
藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍し、2001年から現職。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書)、『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)など。

連載「病理医があかす、知っておきたい"医療のウラ側"」バックナンバー
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