ピーマンは「毒」として感知!?(shutterstock.com)

写真拡大

 子どもの頃、あなたが嫌いな野菜はなんだったろうか? 

 例年8月31日(野菜の日)にタキイ種苗株式会社が発表する「2015年度野菜と家庭菜園に関する調査」によれば、子どもの嫌いな野菜ランキングの第1位はピーマン、第2位にはゴーヤが続く。

 ピーマンもゴーヤも苦味が強い野菜だ。世のママたちは、なんとかこれらを食べさせようと苦心するが、当の子どもはハンバーグに混ぜ込んだひとかけらでさえ感知して吐き出す。だが、そんな子どももオトナになれば、ピーマンやゴーヤを好んで食べるようになる......。

 これが果たして「舌が肥える」ということか?

味を感知する仕組み

 味を感知するのは舌。そのどの部分が、どんな味を感知するかを示した、「味覚分布図」を覚えている向きも多いだろう。しかし、これは正確ではない。

 味を感知する器官を「味蕾(みらい)」という。蕾のような形をしたこの器官は、味細胞の集まりであり、味覚の入り口だ。味蕾は主に舌の表面に存在するが、軟口蓋(口の上奥の軟らかい部分)や口蓋垂(のどちんこ)、咽頭にも分布しており、その数は成人でおよそ7500個といわれている。

 人が物を食べるとき、口に入れた食べ物は歯で咀嚼、舌で攪拌されて、唾液と混ぜ合わされる。唾液という液体が混ざり合うことでできた化学物質が味成分となって味蕾に感知されるのだ。

 味蕾の中には、ヒトの基本味といわれる「甘み」「塩味」「旨味」「酸味」「苦味」の5種類それぞれに特化した味細胞が入っている。味の情報を感知すると、専用の神経回路から脳に送られ、初めて「味覚」として認識される。実は脳が、味を感知しているのだ。

 そもそも味覚とは、体に必要な栄養素と不要な毒物を識別するための器官を指す。基本味に5種類あるのは、それぞれが意味を持つからに他ならない。

▶︎甘味:砂糖など糖類。エネルギー源。
▶︎塩味:ナトリウムイオンなど。体液バランスのためのミネラル供給。
▶︎旨味:グルタミン酸など。たんぱく質をつくるアミノ酸の供給。
▶︎酸味:酢酸やクエン酸など。腐敗の識別。
▶︎苦味:カフェインなど。毒物の識別。

「辛味」は味覚ではなく「痛覚・温覚」

 「甘味」「塩味」「旨味」の3つは身体に必要なもの、「酸味」「苦味」は警戒すべきものという位置付けだ。そのため、子どもに限らず人間は本能的に「甘いもの」「塩気のあるもの」「旨味を感じるもの」を好み、逆に「苦いもの」「酸っぱいもの」は忌避する。

 冒頭に挙げたように、子どもたちが苦味を嫌うのは、味覚上では苦味=毒と感じているからで、本能的には正しいといえる。

 ちなみに、基本味には「辛味」が入らない。たとえば、トウガラシに含まれる辛味成分カプサイシンは、味蕾ではなく、口内の神経細胞によって感知される。この神経細胞は、カプサイシンだけでなく43℃以上の熱にも反応する。

 トウガラシを食べて「口の中が熱い」とか「痛い」と感じるのはそのためで、「辛味」は味覚ではなく、痛覚・温覚なのである。
味覚は胎児の頃からできあがる

 では、人が味覚を得るのはいつごろだろうか? 実は胎児の頃からそれはできあがっている。味蕾が形成され始めるのは、なんと妊娠7週頃のこと。妊娠3カ月になると成人並に発達するが、当初は舌だけでなく、歯肉・頬の粘膜・唇、さらに食道上部にまで分布しているという。

 味蕾がつくられはじめるのとほぼ同時期に、胎児は羊水を飲んで尿として排出し始める。これは母親の摂る食事によって変化する羊水の味も感知しているだろうと推測されている。

 1937年、アメリカで行われた胎児の研究では、妊娠8カ月の胎児をエックス線撮影する際に、甘みのあるサッカリンを羊水に注入したところ飲み込む回数が増え、苦みのあるリピオドールでは嚥下する羊水量が減ったという結果が出たそうだ。

 母親のお腹の中で、胎児はすでに甘味も苦味も感知できているのだ。

 味蕾は、妊娠5カ月から出生後3カ月が最も数が多い。成人の7500個に比べ、その数は1.5倍もあり、味に一番過敏である頃ともいえる。とはいえ、新生児ですでに基本味は会得していても、この頃の特に苦味や酸味に対して忌避するのは、本能に沿った反射反応だと考えられている。

 これが変化するのは、生後3カ月から5カ月頃。それまで反射反応でしかなかった味覚は、一時狷澳境瓩砲覆襦いわゆる離乳食の始まる時期だが、これは味覚を判断する大脳皮質で味を感知するようになるからなのだそうだ。

 母乳から離乳食、さらに一般食と移り変わる食事により、およそ3歳でその子の嗜好は決まるといわれている。

子どもが嫌いな食べ物を克服する「3つのR」

 本能的に嫌がられる苦味や酸味だが、決して「毒」ではない。「良薬は口に苦し」の言葉もあるように、適量であれば体に「良い」ものとなる。

 たとえばコーヒーや緑茶に含まれる苦み成分のカフェインは、適度に摂れば覚醒や利尿作用、筋肉疲労の回復にも良いとされる。またお酢の酢酸や、梅干し・レモンのクエン酸は食べ物の消化吸収を高めたり、疲労回復にも効果がある。

 これらの味を克服するには、本当に味を感知する脳が、その食べ物を「安全でおいしいもの」と認識する必要がある。英アストン大学の研究チームは、子どもが嫌いな食べ物を克服するには「反復(Repetition)」「ロールモデル(Pole modeling)」「報酬(Rewards)」の「3つのR」が重要だという論文を発表している。

 つまり、嫌いな食べ物だからといって避けたりせずに何度も食卓に出し、家族や友だちが「おいしい」と食べる姿を見せ、さらにそれを食べることができたなら「すごい」と褒める、ということだ。

 論文では、この「3つのR」を実践したところ、嫌いだった野菜の消費量が増えたという。

 実際に嫌いな食べ物を食卓にあげるとき、冒頭に挙げたように食材を小さく切って混ぜ込むなどの他にも有効な方法がある。

▶︎皮を剥く(トマトを湯剥きする、ナスの皮を剥くなど)
▶︎切り方を変える(繊維に沿って切る、または繊維を断つように切るなど)
▶︎味を変える(子どもの好きな、カレー味やクリーム味などにする)
▶︎調理法を変える(煮る・焼く・すりおろす、生のままで食べてみることも)

 その他、「一緒に料理してみる」「その食材を育てたり、収穫してみる」ことでも食べ物に対する印象が変わり、食べてみたいと思うようになることもあるようだ。

 逆に「食べろ!」と無理強いしたり、食べないと罰を与えたりするのは、かえって嫌悪感を学習させやすい。「一口だけでも頑張ってみる」ことから、根気よく続けることが肝要だ。

 いずれにしても、味覚の判断は「脳」がするもの。子ども時代には鋭敏すぎる味蕾の働きは、成長するにつれて緩くなる。同時に、さまざまな味を体験していくことで「脳が肥えて」、味覚にも変化が訪れる。「久しぶりに食べてみたらおいしかった」という日もくるだろう。
(文=編集部)