黒澤はゆまの歴史上の女性に学ぶシリーズ、第9話はアンゴラの女王、ンジンガです。兄より優秀に生まれたンジンガは、女性であることを理由に様々な手法で虐げられます。しかし、彼女はそこで決して屈しません。兄を毒殺し、さらに兄の子供まで殺し、天下を取る。彼女の快進撃をお楽しみください。

「何もかもが欲しい。才能も名声も主権も富も。そして美しい男たちも」

 
かつて16世紀のアフリカに、強大なポルトガルと40年に渡って戦い抜き、そして数十人の美しい男たちをかしずかせた女王がいました。
 
ンジンガという今でもアンゴラでは英雄としてたたえられている女性です。

彼女はお気に入りのヒョウ柄の戦袍を身にまとい、弓で武装し、60歳を過ぎても戦場に立ち続けました。また、美しい男性を愛し、彼らを女装させて「性の奴隷(コンキュバイン)」と呼び、後宮に囲いました。50、60人もいたとされる彼らは、侍女たちと同じ部屋で寝起きさせられ、間違いがあった場合は、即座に殺されたといいます。

軍事的才能に恵まれた将軍、国民を奮起させる政治家、狡猾な外交官、そして勇敢で傑出した女戦士だったンジンガの生涯について今回は語っていきたいと思います。

生まれてすぐ、女王になる運命にあると予言されるたンジンガ

1583年、ポルトガルの侵略にさらされる、ンドンゴというアフリカの小国に一人の女の子が生まれました。父親は、当地ではンゴラと呼ばれる王、キルアンジ、母親は第二夫人のカンゲラでした。臍の緒が首にからみついた状態で生まれた赤ちゃんは、ムブンドゥ語で「からみつく」をあらわす、ンジンガという名を与えられました。
 
伝承によればこうした状態で生まれた子どもは誇り高い人間に育つといいます。そして赤ちゃんの将来を占うため、招かれた魔女は彼女を一目見て「この子は女王になる運命にある」と告げました。
 

兄よりも優秀だったンジンガ

ンジンガが後に振り返ったところによれば、父のキルアンジは彼女を溺愛したといいます。キルアンジにはムバンディという男の子もいたのですが、気が小さく、弱虫のくせに傲慢で、資質は妹のンジンガよりはるかに劣りました。父は愚か者の兄より、妹の方に期待したようです。

狩りや弓など男の子がすることを習わせ、戦争でつかまえたポルトガル人の宣教師を家庭教師につけて、ポルトガル語を身につけさせました。
 
狩猟にしろ語学にしろ、学んだことすべてにおいて優秀であることを証明した彼女は、スラリと背が高く、豹のように敏捷な四肢にチョコレート色の肌を持つ、美しい少女に成長しました。気性もライオンのように激しく、兄のムバンディがネックレスを盗んだ際には、国民の前で泣き叫ぶまで叩きのめしています。
 
しかし、ンジンガの所属すムブンドゥ人に女王をいただく習慣はなく、キルアンジが亡くなると、跡を継いだのは愚鈍な兄、ムバンディでした。

コンプレックスに振り回される兄の仕打ち

ムバンディは、子どもの頃、何をやっても勝てず、父親からの愛情も含めてほしいものすべてを取られてしまったコンプレックスから、妹に過酷に当たりました。ンジンガの息子を殺しただけでなく、ポルトガルとの戦いの際、銃陣を敷いた相手に槍で突撃しても犬死にするだけと忠告した妹に腹をたて、焼けた鉄の棒を局部に突っ込み子どもを産めない体にしたといいます。

しかし、こうした虐待にンジンガは耐え、表面上は兄の命令に忠実に従いました。

ポルトガルでンジンガを待ち受けた差別

そして1622年、外交官として、ポルトガルの代官と折衝するように兄から任務を命じられます。ポルトガルが勝手に建設したアムバカの要塞からの退去と、拉致され奴隷とされている自国民の解放、そしてポルトガルが背後で操っているという噂の少年兵集団インバンガラの暴力を止めろというものでした。

ポルトガルの拠点ルアンダに滞在していた代官はンジンガに対して椅子を勧めず、床にしいた敷物に座るよう言ってきました。相手を見下ろすことで心理的プレッシャーを与えようとしてのことでした。また、代官はンジンガの属するバントゥー族の風俗にも精通していて、椅子に座るのは高位の男だけで、身分が低いものや女性は床に座るものだということも知っていたのです。

しかし、ンジンガはこの侮辱を甘んじて受けることはなく、側に控えていた召使の女性をひざまずかせると彼女の背中に座りました。召使も自分の労苦の意義をしっかり理解していて、会談の間、微動だにしなかったといいます。

この女主従の迫力にポルトガルの代官は逆に気を呑まれ、ムブンドゥ人の主権と独立を認める平和条約を締結する結果となりました。ンジンガは、ポルトガルとの交渉を有利に進めるため、キリスト教に改宗、代官の妻に名付け親を頼み、アンナというクリスチャンネームまでもらっています。

兄に毒を盛って殺す

しかし、他の条件、要塞からの退去も、自国民の解放も、インバンガラの略奪を止めることもポルトガルはしませんでした。そのため、ンジンガのポルトガルを見る目は冷え切ったものになりました。

また、肝心な場面ではいつも自分を矢面に立たせるくせに、子どもも、子どもを生む能力も奪った兄に対する目も凍てついたものになります。

ポルトガルとの会談から2年後の1624年、ムバンディは死去。これは、ンジンガが毒を盛ったためといわれています。

兄の息子も殺し、ついに女王に

兄の死後、ンジンガはムバンディの息子を王位にたて、自分は摂政となったのですが、彼もまた父に似て無能で傲慢な少年でした。嫌気がさした彼女はこの息子も殺します。そして、1626年から、外交の文書には「Rainha de Andongo」ンドンゴ国の女王と署名するようになり、魔女の占い通り、彼女は42歳にして国の頂点にたったのです。

馬鹿な男たちという枷を外された彼女は、2人の妹を側近とし、外交・戦略における卓越した才能を発揮しはじめます。

枷を外された女王の快進撃

ポルトガルから課せられていた奴隷の調達を無視したうえに、脱走奴隷をかくまって自前の軍隊を育成。さらに、オランダがポルトガルの拠点ルアンダを奪還するなど西南アフリカに台頭してくると、ポルトガルを対象とした軍事同盟を結びました。

首都もより守りが固く、ンドンゴ国にとって発祥の地である北部のカヴァンガに移し、さらに内陸のマタンバ王国も征服。中央アフリカで最も豊かで大きな国を作り上げ、そこからポルトガルに対する作戦を展開しました。

1646年にはンゴレメでポルトガル軍を撃破、大打撃を与えています。しかし、とどめをさすまでには至らず、2年後の1646年には首都のカヴァンガで逆にポルトガル軍に敗れました。
しかし、ンジンガの精神はおよそ屈服というものを知らず、翌年には勢力を回復、オランダの助けも得て、再度ポルトガルに挑戦すると、連戦連勝、ついにポルトガルのアフリカにおける首都ともいうべき、マサンガンを包囲しています。

これで、ポルトガルの命脈も尽きると思えば、敵もさるもので、植民地のブラジルで傭兵部隊を結成すると、ンジンガの背後を襲いました。これにはンジンガもたまらず、マタンバに退却しています。

しかし、ンジンガはゲリラ戦を展開して抵抗することをやめず、彼女の存命中はその主権をポルトガルも認めざるを得ませんでした。最晩年の1657年には、オランダも去り、国土も疲弊したため、ンジンガはポルトガルと講和しましたが、結ばれた平和条約はまったく対等なものでした。

そして、1663年に、無数の暗殺の試みにもかかわらず、彼女は平和で穏やかな死を遂げます。

誰もが覚えている、強く愛された女王

その後、アンゴラはポルトガルによって植民地化されますが、彼女のことを人々は決して忘れることはありませんでした。1860年に、とある男性が残した言葉が、今に至るまでのアンゴラ人の彼女への愛情をあらわしています。

「アンゴラでは道端の草であろうと、生きとし生けるすべてのものが、偉大な女王のことを覚えている」

参考文献:『悪いお姫様の物語』(リンダ・ロドリゲス・マクロビ―、緒川久美子訳、原書房)/『Queen Ana de Sousa Nzinga Mbande of Ndongo (Angola)』(Black History Heroes著、
http://www.blackhistoryheroes.com/2011/03/queen-ana-de-sousa-njinga-mbande-of.html)/『Queen Njinga Stood Up to the Portuguese Invaders of Angola』(Linda Heywood著、http://www.theroot.com/articles/history/2014/05/queen_njinga_revered_by_black_portuguese_around_the_globe.html)/『THE DIARY OF PRINCESS NJINGA MBANDE: The Legacy of Bantu Warrior Queen Njinga Mbande 』(Tanielma Costa著、Tanielma Alcina da Costa)
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