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初めて「ステルス」をうたった軍用機を世に出したのはアメリカだが、今では他国でも「ステルス」をうたう機体がいくつも出現している。それらがどの程度の水準に達しているかはともかく、存在するのであれば対抗策も考えなければならない。

○矛と盾

ステルス機を開発して実戦配備するということは、ステルス機を探知する技術を必要とするということでもある。なぜなら、特定の武器技術が特定国の独占であり続けたことはないといってよく、いずれは他国も追随して同種のものを作ってくるからだ。この辺はまさに「矛と盾」の関係と言える。

レーダー被探知性を低減させるステルス技術についても、同じことが言える。つまり、探知するための「カウンター・ステルス技術」が必要になる。それを実現する際の考え方には、いくつかのバリエーションがある。

まず、レーダー以外のセンサーを使用する方法だ。例えば、赤外線センサーが挙げられる。現在では、赤外線センサー・アレイを使用して画像として赤外線映像を得られるセンサーがいろいろあるし、そこにコンピュータを組み合わせて援用する形態も一般的になっている。それをステルス機の探知に活用しようというわけだ。

実は、いわゆるステルス機の多くは、赤外線放射低減にも意を注いでいる。これは赤外線を使用するセンサーやミサイルがあるためだが、やはり最重点項目はレーダー対策だ。だから、レーダー以外の探知手段が付け入る隙がないわけではない。

それに、赤外線をまったく出さないというわけにはいかない。対策を講じる場合の重点は、最大の赤外線放出元であるエンジン排気となるが、それとてゼロにはならない。それ以外の、例えば機体が空力加熱で熱くなる事態を阻止するのは無理な相談である。

赤外線以外の探知手段としては、可視光線(カメラあるいは目視)も考えられる。目視はもちろんだが、光学センサーにコンピュータを組み合わせる、いわゆる電子光学センサーを使用すると、より遠距離での探知が可能になる。ただし、当然ながら夜間、あるいは悪天候下では使えない。どちらかというと、近距離交戦時に役立つ手段と言える。だからこそ、ステルス戦闘機といえども、背景に溶け込むような迷彩塗装は欠かせない。

理屈の上では音響による探知も考えられる。第2次世界大戦の頃までは「聴音器」というものがあって、蓄音機のスピーカーのお化けみたいなものを空に指向して、飛行機のエンジン音を聞きつけようとしていた。しかし現在では、さすがにこれは現実的ではない。

○バイスタティックとマルチスタティック

では、肝心のレーダーによる探知は諦めるしかないのか。実はそういうわけではなくて、カウンター・ステルス能力を実現するレーダーのアイデアもある。それが、バイスタティック・レーダー、あるいはマルチスタティック・レーダーだ。

かいつまんで書くと、「ステルス技術の要諦はレーダー電波を発信源に返さないこと」だから、発信源と別の場所に受信用アンテナを置けば、ひょっとすると探知が成立するかもしれない。ステルス機が明後日の方向にレーダー電波を反射するように作られているのならば、その明後日の方向に受信用アンテナを置いておけば探知できるんじゃないか、という理屈だ。そして、受信用アンテナが1つならバイスタティック、複数ならマルチスタティックとなる。

ところが、理屈の上ではそういう話になっても、実際にステルス機を相手にして試してみないことには、有用性がわからない。また、発信と受信を別のところで行うとなると、受信した電波がどこのレーダーから発信したものかがわかっていないと、探知が成立しない。

だから、送信機と受信機をネットワーク化してコンピュータ制御する必要がある。当然ながら、そこで必要となるソフトウェアをどうやって開発したりテストしたりするか、という課題も出てくる。

自前の発信器を使用する代わりに、移動体通信や放送といった既存の電波発信源を活用するパッシブ・レーダーという考え方もあるが、これとて実際にテストしてみないことには研究開発にならない。

○実機があればテストできる

かといって、仮想敵国のステルス機を借りてくるわけにはいかない。同盟国のステルス機であっても、どの程度まで被探知性を低減しているか、どうやったら探知できるのか、なんていうことがバレてしまうわけだから、借りてくることは不可能だ。

たとえ同盟国が相手であっても、自国の装備の弱点が知られるようなことはしないのが業界の常識である。

したがって、カウンター・ステルス技術の研究開発に際しては、テストベッドとなる自前のステルス機を持っているほうが望ましい。いや、自前のステルス機を持つことは必然といってもよい。理屈の上で「探知できる」というのと、実際に試してみて「探知できる」というのとでは大差がある。

また、自力で実際にステルス機を作ってテストしてみれば、ステルス技術を実現するためのノウハウを得る役に立つ。そのノウハウは当然ながら、対抗策を開発する際にも役に立つ。「どうすればレーダーに映らないか」は、裏を返せば「どうすればレーダーに映るか」という話でもあるからだ。

ステルス機を探知するためのセンサーだけでなく、その分野の研究が進めば、その次の段階として、「対ステルス機戦術」のようなものを組み立てる場面が出てくるはずだ。そこでもやはり、実際に作って飛ばせる機体がある方が便利である。頭の中で戦術を考えるだけではなくて、実際に現場の戦闘機パイロットを連れてきてやらせてみることで、有用性や不備を洗い出すことができると期待できる。

(井上孝司)