ゴールデンウイーク中の話になるが、北朝鮮の平壌で3日、先月初めの「北朝鮮レストラン従業員13人集団脱北事件」をめぐり、脱北した従業員の同僚や残された家族による合同記者会見が開かれた。

会見では、元美人ウェイトレスらが涙ながらに、「今回の事件は南側(韓国)が計画した組織的な拉致行為よ!」などと訴え、さらには事件の朝、韓国側が仕向けた「誘拐バス」から間一髪で逃れた場面まで描写して見せた。

それが事実であるかどうかは別としても、なかなか迫力がこもっている。それはそうだろう。同僚が集団で脱北したということは、彼女たちもまた、大なり小なり韓国側の影響を受けていたのではないか、との疑念を北朝鮮当局から持たれることにつながる。

公開処刑も執行

被害者としての立場をアピールするのは、国家のためでもあり、同時に自分のためでもあるというわけだ。

一方、脱北した従業員らの家族の様子は、これとはやや異なる。家族らは「すべては保衛指導員(秘密警察)の監督不行き届きのせいだ」として、当局を強く非難しているという。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、国家安全保衛部の幹部の元には、脱北した女性従業員の家族や親戚が押し寄せ「元々あんなことをする子ではないのに、担当の保衛指導員の監督不行き届きであんなことになってしまった。責任を取るべきはあなたたちだ」と強く反発している。

「あんなことになるまで何をしていたんだ。柳京(リュギョン)食堂の担当保衛指導員を呼び出せ」と食ってかかる人もいれば「南朝鮮に行かせてくれ。娘を取り戻してくる」と泣きつく人もいる。幹部たちも、保衛指導員の怠慢が原因であることがわかっているので、ぐうの音も出ない様子だ。

政治犯収容所を管轄し、公開処刑の執行も担う保衛部は、一般住民にとっては恐怖の対象である。

(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「政治犯収容所」の実態

そんな組織に激しく抗議できるということは、従業員の家族はある程度の社会的地位にいる人々であることを示している。一般住民たちは「従業員の家族の言っていることは正しい、彼らに一切責任はない」と当局を非難しつつ、保衛部がやり込められる姿を見て「ざまあみろ」と留飲を下げているようだ。

北朝鮮当局は、この事案を「重大」とみなし、情報統制を行ってきた。

朝鮮中央通信は先月12日に「集団拉致誘拐を謝罪し、全員を返せ」との朝鮮赤十字社中央委員会の報道官の談話を伝えているが、労働新聞は先月29日になるまでこの件を扱った記事を報道していなかった。

当局は、このことが国内に知れると動揺が広がると判断し、情報統制を行ったようだが、韓国のラジオを聞いている人々や、事の顛末を知っている幹部を通じて、とっくの昔に国内に知れ渡ってしまっている。

当局は「彼女たちは韓国の国家情報院に拉致された」と騒ぎ立てているが、住民たちは全く信じず「13人も一度に拉致するなどありえない」と鼻で笑っているという。