コミュ力は高いつもりだけど営業成績が伸びないのはなぜ?
【石原壮一郎の名言に訊け】〜田中角栄の巻

Q:自分で言うのも何ですが、昔から人と接するのは得意なほうで、いわゆるコミュ力も高いと思っています。今の営業の仕事は自分の口のうまさを生かせるはずなんですが、なかなか結果が出ません。営業所でトップの成績を上げているのは、口下手で引っ込み思案な先輩です。自分の何がいけないんでしょう。お客さんとの商談は、いつも笑いがいっぱいで盛り上がるんですが……。(埼玉県・24歳・営業)

A:他人から見ると、すぐに「ああ、こりゃダメだ」と気づくようなことでも、本人は意外に気が付かないんでしょうね。これが若さってヤツでしょうか。いや、すいません。相談に答える前にいきなり意地悪なことを言って。

 あなたが何を売っているのかは知りませんが、大前提から勘違いしているようです。口のうまさと営業のうまさは、まったくと言っていいほど関係ありません。口がうまいことが「コミュ力」の高さだと思っているとしたら、それも大間違いです。

 私が説教しても納得してもらえないと思うので、近ごろまた人気急上昇中の田中角栄さんにガツンと言ってもらいましょう。念のために紹介しておくと、日本列島改造論で一世を風靡し、1970年代前半には内閣総理大臣を務めた大物政治家です。「今太閤」「コンピュータ付きブルドーザー」などとも呼ばれました。彼は、こんなふうに言っています。

「わかったようなことを言うな。気の利いたことを言うな。そんなものは聞いている者は一発で見抜く。借り物でない自分の言葉で、全力で話せ。そうすれば、初めて人が聞く耳を持ってくれる」

 策士が策に溺れるように、口のうまいヤツは口のうまさに溺れがち。たぶんあなたは、わかったようなことや気の利いたことばかり並べて、口のうまい自分に酔っているのではないでしょうか。だとすると、たとえ表面的には盛り上がったとしても、相手の信頼はけっして得られません。むしろあなたが弁舌滑らかに話せば話すほど、「この人から物を買っても大丈夫かな」という不信感を抱かせてしまいます。

 トップの成績を上げている「口下手で引っ込み思案な先輩」は、きっと、「自分の言葉で、全力で」話せる人なんでしょう。もし、その先輩のことを心の中で侮っているとしたら、あなたは永遠に一人前の営業マンにはなれません。「コミュ力」とはノリの良さや座持ちの良さのことではないと気づかない限り、チャラいヤツという評価以上のものは得られないでしょう。

 ここまで読んで、そろそろ根拠のない自信が崩れて「えっ、俺って……」と不安になってくれていることとを期待しつつ、たぶんあなたにとって必要と思われる田中角栄の言葉をもうひとつ。「ノーと言うのは、たしかに勇気がいる。しかし、長い目で見れば、信用されることが多い。ノーで信頼度が高まる場合もある」。その場しのぎの「イエス」を上手に言うことが口のうまさではないし、営業マンの仕事でもありません。

 とはいえ、自称「口がうまい」タイプは、他人に対してオドオドしないとか思ったことをきちんと言葉にできるといった長所も、たくさんあります。そこは大いに生かしつつ、これからは「なるべく口下手になる」ことを目指してみてはどうでしょう。ちょうどバランスが取れて、信用できそうな人という印象が醸し出されるかもしれません。

【今回の大人メソッド】
◆「口がうまい」タイプはじつはコミュ力は低い
もしあなたが「俺は口下手だから営業とかは向いていない」と思っているとしたら、ぜんぜんそんなことはありません。一見さんだけを相手にしている仕事じゃない限り、大切なのは相手との信頼関係を築くことです。自称「口がうまい」タイプより、自分を「口下手」と思っているタイプのほうが、じつは総合的にはコミュ力が高いと言っていいでしょう。

【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。

いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)