ソニー創業者・井深大氏 AP/AFLO

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 海外企業による買収が相次ぎ、苦境が露わになった日の丸家電。日本メーカー復活のカギはどこにあるのか。ビジネス書として異例のヒットとなった『ストーリーとしての競争戦略』の著者、楠木建・一橋大学大学院教授がその処方箋を提示する。

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 日本の家電メーカーの将来を見据えたとき、良いヒントになるのは自動車産業だと私は思っています。

 日本の自動車業界で“最も儲かっている会社”はどこでしょうか? トヨタはもちろんですが、マツダと富士重工(スバル)も好調です。マツダの世界シェアはわずか2%、スバルはさらに小さい。しかし、業界標準以上の利益率を叩き出しています。

 なぜ彼らが好調なのか。乗り味が良く、スタイリングが優れているといった他社との差を生み出しているからです。競争戦略における最も重要な要素は、「他社との違い」をいかに生み出していくかです。

 マツダはかつての膨張路線を改め、特定の差別化されたモデルに絞り込みました。新しい工場をつくって規模を大きくするよりマツダ車のファンとの関係を強く長くすることに資源を投入しています。経営的に苦しい時代もありましたが、転換を図って今がある。

 日の丸家電にそれが起こせるかと私は問いたい。人口が増え続ける新興国などのマスマーケット向けに、廉価で壊れにくい製品をつくるのは、もはや日本メーカーの仕事ではありません。信頼性や耐久性といった要素を超えた、ひと味違うもので勝負できるかどうか。カギは「引き算」です。

「引き算」とは、機能を絞り込んだり、ターゲットを限定したりすること。それによって「この商品はこれ!」というように、他との違いを一言で表せる特長を生み出していく。マツダやスバルは、トヨタや日産のようにラインナップをフルに揃えるのではなく、限られた客層をターゲットにしています。ユーザーに「この商品でしか得られない価値」を与えることができるので、価格で競争する必要がない。

「引き算」は発展途上の市場を相手にする企業にはできません。日本の高度経済成長期に「洗濯機の機能を絞り込もう」などと考える人はいませんでした。「引き算」は日本という成熟市場を相手にしてきた日本のメーカーだからこそ、できることです。

 それには家電メーカーがもっと腰を据えた商品開発をする必要があります。そもそも日本の家電は商品の数が多過ぎる。まるで年中行事のように、季節の変わり目になると新商品が投入されます。あらかじめ決まった発売時期に間に合わせるように“とりあえず”の商品ばかりが目立つ。腰を据えてじっくりつくり、長く売ることが必要です。

 その点、リコーのGRというコンパクトデジタルカメラは好例です。シンプルで洗練された飽きのこないデザインに、機能を絞り込むことで使い勝手の良さと高画質を実現している。だから少々高価でも「GRでなくちゃ」というファン(私もそうです)の心をガッチリつかんでいるのです。

 こうしたことができにくいのは、家電メーカーが産業用、住宅設備用、車載用などまで手掛ける総合電機メーカーとして成り立っている点にも理由があります。家電で利益が出なくても他の分野で補えるので、なんとなく成り立ってしまう。会社は各事業部の寄り合い所帯だからもたれ合いになり、事業としての本気度が上がらないのです。それが日本の総合電機メーカーのここ15年の迷走の最大の理由です。

 これを是正するには、たとえば分社化して、「家電がダメなら会社が潰れる」という、逃げ場がない状況にしなければなりません。

 現に、逃げ場がない状態で成長しているベンチャー企業があります。米国で言えば掃除機で知られるダイソン、日本ではトースターや空気清浄機が人気のバルミューダという会社があります。町工場からスタートし、今では世界の空調システムを担うダイキン工業も、エアコンに特化することで高収益を上げています。

 分社化もできず「とりあえずつくる」くらいなら、潔く撤退するべきです。

●くすのき・けん/1964年東京都生まれ。1992年、一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授などを経て、2010年より現職。主な著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社刊)、『戦略読書日記』(プレジデント社刊)、『好きなようにしてください たった一つの「仕事」の原則』(ダイヤモンド社刊)などがある。

※SAPIO2016年6月号