先日、NHKBS1で放送されていた磐田対鹿島。解説席に座っていたのは、磐田OBの福西氏と鹿島OBの名良橋氏で「Jリーグの黄金カードが3年ぶりに戻ってきました」と実況アナ氏と煽る中、両者は時に解説を忘れ、言葉にならない奇声を発し、対決ムードに浸っていた。2人を専門に写す小型カメラを通して、その喜怒哀楽の様子はお茶の間に届けられたのだが、打ち合わせ通りというか、テレ朝になりきれない中途半端さを思わずにはいられなかった。

 品行方正。相手のサッカーに異を唱えたり、意見したり、丁々発止、舌戦を繰り広げたわけではない。2人はやり合う感じではなく、厳しめな意見を、むしろ身内に対して述べていた。公の場で他人を悪く言えない気質。そこに美学を見いだせない気質。NHK的なとも言いたくなる気質が、ナチュラルなサッカー気質を大きく凌駕した状態にあった。

 この日の両者の間には、決定的な対立軸、分水嶺というか、舌戦を展開するに相応しい議題が用意されていたにもかかわらず、だ。

 一方、ハーフタイムに名波監督に対してマイクを向けたインタビュアーは、サイドが数的不利に陥る現象を指摘し、詰め寄った。「我々は挑戦者。もっと前に出て攻めなければいけない。選手にそこのところを伝えなければならない」とのコメントを拾っていた。

 名波監督がこの試合に採用した布陣は従来とは異なる3バック。しかも世界的には、守備的な布陣にカテゴライズされる3−4−2−1だ。相手にサイドを有効に使われれば5バック必至。鹿島という強者を前に、前ではなく後方に人を並べる作戦をとったわけだ。そして試合展開は、ほぼその通りになった。

 意図したのは監督。にもかかわらず、インタビュアーに突っ込まれた名波監督は、それは選手がチャレンジ精神を失った結果であり、選手の意志でそうなってしまったと解釈したくなる言い方をした。

 伝統の対戦とはいえ、鹿島と磐田では立場が違う。鹿島は強者で磐田は弱者だ。普通に戦えば、鹿島有利。そこで弱者の監督が対策を講じようとした時、大きく分けて手は2つ。前から行くか。後ろを固めるか。

 ここは目を凝らすべきポイントになる。いわば究極の2択。白か黒。踏み絵でもあるので、生き様、大袈裟に言えば、人生哲学がいかほどのものか鮮明になる瞬間だ。選択の岐路に立たされた時、監督はどう出るか。

 5バックで守るサッカーについて「チームを守るというより、監督自身を守る作戦。相手を怖がっているのは他ならぬ監督自身だ」と、一刀両断したのはオシムだが、日本には、そこのところを見て見ぬ振りをする強い傾向がある。後ろで固める作戦を敷いても揶揄する人はほぼ皆無。その道を頓着なく歩くことができる。以下の台詞は、実況アナ氏か、福西氏かどちらだったか判別できなかったが「名波監督はこの3バック(5バック)の方が、むしろ高い位置からプレスがかかりやすいと言ってました」と、助け船を出す始末。

 後ろで守るサッカーについて、時代遅れだからやめましょう! とハッキリ口にする人はなかなか現れない。J2、J3を含めたJリーグで、この手の3バック(3−4−2−1)を見かける確率が、他国のリーグより圧倒的に高い理由は、分かりやすい。甘くて緩い世界にしておいた方が何かと楽。監督予備軍であるテレビ解説者及び評論家が、そう考えたとしても不思議はない。

 3バックと一口にいっても、5バックになりにくいものもある。にもかかわらず、3バックが3−4−2−1とほぼ同義語になっている日本。オシムが採用した3バックをもう一度、見直して欲しいが、例のNHKの中継の中で、名良橋氏はさすがに「3バックの両側に空いたスペースは狙い目です」と、幾度か述べていた。それを聞く度にこちらは救われた気になったが、残念ながら、溜飲を下げるまでには至らなかった。